第九十九話……王宮付き参謀への任官
「お前様、もうしわけありません」
「……まぁ、仕方ないさ。本当に恨みを買っているのは私だしね」
所領削減の件でイオに謝られるも、仕方ないとする私。
まぁ、貴族一家で30万ディナール以上もの広大な農地を持っていれば、遅かれ早かれ削減の憂き目にあうだろうことは分かっていたのだ。
しかも、ほとんどが最近出世した平民出身の持ち物。
妬まれない訳が無かったのだ……。
領地が減ればそれに伴う業務が発生する。
徴税官や警備兵などの役人のリストラである。
アーデルハイトなどの努力で引き続き雇って貰えるように頼んでみたが、そこは新領主の差配の領分。
やはり、なかなかうまくはいかなかったのだ。
数日後――。
王宮より知らせがきて、正式な領地の仕分けが決まった。
リルバーン公爵家は、領都レーベの周りの領地のほとんどを手放すことになったのだった。
つまり、主な支配地は東の港湾都市エウロパの周りだけとなった。
その日の晩――。
「これもどうぞ、お食べになってください」
「ありがとう」
今日の晩御飯は羊の香草焼きと山羊の生クリームのシチュー。
肉は骨まわりの肉がふんだんに使われ、特にうまかった。
……最近、皆が気を使ってくれる。
私の築き上げた支配地が減ってしまったからであろう。
だがきっと、火元は私。
なんとか事態を好転させねばならぬ。
いや、それともしばらくおとなしくしておくべきか。
食後、そんなことを悩んでいると、家宰の職を解かれ暇になったアーデルハイトに声を掛けられた。
その傍には、近衛隊長の職を解かれたナタラージャもいた。
「どうしたの?」
私は二人に問いかける。
きっと失職した二人もストレスが溜まっているであろう。
「ライスター準男爵殿! ご同道願いたい!」
……そうだった。
彼女らが正式に罷免されるのは明日。
今日までは私のほうが、職位が下位であったのだ。
「あれあれ?」
「今のうちに上司としての権限をつかわせてもらいまする!」
私は二人に連行されたのは私の寝室だった。
もちろんストレスの堪った上官たちには反抗はできませんでした、……うん、仕方ない。
それから数日後――。
撤退戦の功績を認められ、私は男爵の地位を頂いた。
加増地はゲイル地方の一部を与えられ、さらに港湾都市エンケラの都督に任じられたのであった。
◇◇◇◇◇
統一歴567年9月――。
エンケラの港町の上空には、大きなワシが気持ちよく遊弋する。
この年の夏は適度な雨と日光にも恵まれ、多くのイシュタル小麦が大きな穂を実らせた。
「御館様、豊作ですな!」
「ああ、皆のお陰だ」
私はゲイル地方の領地でのんびり過ごしていた。
さすがに戦続きで、王宮から出兵の要請はない。
「御館様、今日はご馳走ですかな?」
「ああ、そうだと良いね」
私の両脇を固める武官は、アーデルハイトとナタラージャ。
二人は失職していたので、今はライスター男爵家の専任武官として雇っている。
「レーベは肩が凝りますね」
そう言ってきたのはナタラージャ。
今やレーベの城は旧臣たちの巣窟だ。
家宰のモンクトン子爵が城代として、リルバーン家のゲイル地方以外のほとんどすべての行政を担っている。
それを窮屈に思って、イオはオパールを連れて居城をエウロパに移していた。
……まぁ、平和ならこんな状況も良いだろう。
旧臣たちも私のことは嫌いでも、イオやオパールには好意的だったのだ。
収穫祭を終え、執務室でノンビリしていると、王宮から召喚状が来ていた。
こんな下っ端貴族に何の用だろうと思いながら、丸まった羊皮紙の蝋を剥ぎ、拡げてみた。
「……ふむ」
書状の主はオルコック将軍。
私に王宮勤めの参謀として勤務して欲しいとのことだった。
どうやら撤退戦の時に目に留めていてもらったようだ。
「……また仕事かぁ」
そんなことをぼやいていると、アーデルハイトに窘められた。
「御館様、王宮付きの参謀職は名誉なことですよ。出世も約束されています」
「そうそう」
ナタラージャも「そうだ」と言ってくる。
いや私、以前に宰相まで出世したような気がするけど……。
翌朝――。
私はアーデルハイトとナタラージャを連れて、エンケラの港を出港。
途中、エウロパの港でイオとオパールにあった後、陸路を西に進む。
「職務を忠実に果たされよ!」
「はっ」
レーベ城で王宮に出向する旨を伝達。
許可を得て、さらに西へ六日の道のりを進み、王都シャンプールの城門をくぐったのであった。
「相変わらずの賑やかさですね」
「ああ、そうだね」
客で繁盛する店が所狭しと並ぶ街並みに、山国のケード出身のナタラージャはいつ来ても慣れないようだ。
アーデルハイトは怪しいものがいないかどうか、眼光を鋭くしている。
そして、ラガーが経営する宿屋で一泊。
翌朝に服装を整え、王宮に参内したのだった。
王城の門をくぐり、長い廊下を歩き、目的の王宮参謀本部がある部屋を訪ねた。
「よくぞきてくれた。卿の働きを頼みにしているぞ!」
「はっ、有難き幸せ!」
私はオルコック将軍に温かく迎えられ、参謀の列に加わった。
前回の人生とは全く違う展開だな、と少しおかしく思う。
……丁度その時。
「将軍! 大変ですぞ!」
「何事だ!?」
知らせをもった従卒が、倒れ込むように部屋に入ってくる。
それは、女王陛下が倒れたとの知らせであった。
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