第百十七話……ルロイ城攻略
統一歴568年3月初旬――。
とある夜に、殿下の献策は実行された。
ケード連盟の兵士は両手に火のついた松明を掲げ、これみよがしに一斉に鬨の声をあげて、規則正しく行軍したのだ。
これを見たノエル城の城兵は、暗闇から数万もの兵士が押しよせてくるような恐怖感を感じたという。
そして、恐怖感に耐えられなくなり逃げる兵士が続出。
「こらまて、逃げるな!」
下士官たちは兵士の脱走を抑えようとするが、戦場での恐怖とは恐ろしい速さで伝染する病気なのである。
「もうだめです! お逃げください」
「ぬぬ……」
兵卒どころか、名誉を重んじるはずの騎士までが逃亡するに至り、ノエルの小国王ジェフ=リーは隣国へと逃亡。
城下の民も、ケードの兵士の略奪を恐れて多数が北に逃れた。
ここに堅城と謳われるノエル城は、ケード連盟の手に落ちたのであった。
ノエル城占領後――。
城内の謁見の間にて。
「みごとじゃ、リルバーンの姫君。帰国後に厚く恩賞を授けようぞ!」
「はっ、有難く……」
ドンに褒められ、殿下はご満悦だ。
退室後の廊下にて、
「卿が昔にしてくれた昔話が役に立ったぞ!」
「覚えておいででしたか?」
「うむ、しかし卿は昔の戦の話しかできんよな。たまには宮廷の婦人方を喜ばせる詩でも学んだ方が良いぞ」
「あはは、そんなことは学ぶつもりはございませぬ。私は戦に勝つことだけが仕事なのです」
「そうか、そういう人生も又、よかろう」
殿下は王者の貫禄を漂わせ、城下に割り当てられた宿舎に帰っていたのであった。
後日、殿下は度重なる戦功により、ケード連家の名誉子爵の称号を賜る。
そして、兵士500名を預かる立場になったのであった。
◇◇◇◇◇
統一歴568年3月中旬――。
ケード連盟軍はノエル城の後始末をした後。
ノエルの地の東に位置するグレゴリー城攻略へと進発した。
「出発!」
ケード連盟軍は隊列を整え、城門をくぐり出撃。
大小煌びやかな旗指物が揺れ、士気の高揚感が読み取れたのであった。
今回の出撃には殿下の部隊は出撃するが、私はノエル城を守備するヴェロヴェマに依頼され守備隊の幕僚に編入された。
私はポコリナや子熊と殿下をお見送り。
殿下の警護はエクレアが務めることになっているので、心配はないだろう。
ちなみに子熊は、ポコリナの推薦によりクママと名付けることにした。
ノエルの城を預かるヴェロヴェマ。
彼は勇将と聞いていたが、近くで仕事ぶりを見るに書類仕事もできる男であった。
まったくもって羨ましい能力だ。
私は未だに書類仕事は苦手だ。
なにしろ、未だに文字の練習中であったりもする。
守備隊は特に変事もなく、本隊よりグレゴリー城を降伏したという報告を10日後にうけたのであった。
◇◇◇◇◇
統一歴568年3月中旬――。
ケード連盟の本軍はグレゴリー城から北上。
ルロイ城を包囲し、攻撃しているらしいことが、殿下からの手紙に書かれていた。
しかし、どうやら結構苦戦しているらしい。
ルロイ城は城下の町とは離れ、渓流に挟まれた断崖絶壁の上にある。
その為、攻城兵器も寄せ付けず、攻め手に苦慮しているとのことだった。
ルロイ城下町のケード連盟軍宿舎にて、私はリルバーン家から来ていた騎士と話していた。
「……さて、例のミスリル製の退魔の宝剣の方はどうなっている?」
「はい。仰せの通り、6本を殿下にお渡ししました」
「よくやってくれた。これは私からの礼だ」
「はっ」
私は騎士に葡萄酒が入った瓶を渡した。
彼が酒を好きかどうかは知らないが、酒は換金率が良いので困ることはないだろう。
◇◇◇◇◇
統一歴568年3月下旬――。
ケード連盟はルロイ城の攻略を諦め撤兵した。
ルロイ城を勢力下におくのは、小国王ジェローム=ギルモアという。
この男は、北のレビン蛮地の首領たちと軍事同盟を結んでいることを背景に、ローランド地方北部において勢力を誇っていた。
今回のケード連盟の侵攻も長引けば、食料調達だけでなく、レビン蛮地からの援軍とも戦わねばならなくなるという懸念あっての撤兵だったのだ。
「……で、どうであった?」
私はルロイ城の一室で、エクレアの部下とあっていた。
「敵はきちんと宝剣を接収した模様です」
「そうか。よくやってくれた」
私はエクレアの部下に、銀貨の入った小さな袋を恩賞として手渡す。
そして、城代のヴェロヴェマに会いに行ったのであった。
「どうなされたかな? ライスター殿」
「実は、ルロイの城に参りたく思いまして……」
「さて、敵地に何しに行かれるのかな?」
まさか、敵に寝返るわけではないだろうな?
といった感じで、ヴェロヴェマは私を鋭く睨んだ。
「運が良ければ、ルロイの城をとってみせまする」
「……ほう、ではやってみるがよかろう」
「ありがとうございます」
城代のベェロヴェマは、私の今回の行動にあまり興味はないみたいだ。
そんなことは出来はしないだろう、といった感じだ。
だが、そこを何とかしてみてこその大手柄なのだ。
「ポコ~♪」
「クマー!」
私は食料や水を買ってコメットに積み込む。
そしてお供はポコリナとクママのみを連れ、ルロイの城下町へと向かったのであった。
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