第百九話……シャーロットとの旅②
統一歴567年12月初旬――。
もう里には雪が積もり、山々の峰には冬将軍が暴れていた。
そんな折のシャーロット殿下との旅路。
流石に二人きりという訳にはいかないので、エクレアとガンター先生を伴っての旅となった。
「ライスター卿。まずは何処へ連れてってくれるのだ?」
「まずは山賊のアジトなど如何でしょう?」
「……ほう、奇怪じゃな」
殿下は怪訝な顔をしたが、港湾都市エウロパの北側の山賊どもはほぼ服従済。
あちらから出迎えが来るような厚遇ぶりであった。
「御姫様、葡萄酒をどうぞ!」
「かたじけない!」
山賊のアジトで歓待される殿下。
旬の川魚の塩焼きや、山の幸の鍋などで遇される。
いまは名前こそ山賊とは言え、今は猟師や林業を営む者たちの集まりであったのだ。
「ライスター卿。ここで見るべきは何なのだ?」
「はっ、彼等の山での縄張りにございます!
山賊たちは、今はリルバーン家に服従しているが、我等の力が弱まればきっと武力をもってして反旗を翻すであろう。
きっとそのために、彼らは砦をあちこちに築いていたのだ。
その縄張りを見て、我らは山岳戦用の兵法を学ぶのであった。
「ふむう、戦いは攻城戦と野戦しかないと思っていたが、山岳戦という分野もあるのか?」
「左様にございます。概ね大きな軍隊が少数に敗れるのは、地形が険しいからにございます。それだけを頭に入れるだけでも、用心にはなりましょう!」
「うむ」
私達は山賊の見送りを受け、彼等の縄張りをあとにした。
次に向かうは、古代イシュタル時代の遺跡めぐりであった。
◇◇◇◇◇
山賊たちのアジトから街道を外れ、北西に山林を進む。
そこは人も入ることがない秘境であった。
そこまでくると、遺跡がチラホラと見える場所もあったのだ。
膝まで雪に埋もれながらに、荷物を運ぶ馬を引いていく。
そこで出くわしたのは、辺りをを根城にする魔物たちであった。
「ギーギー!」
「ギャッギャッ!」
鋭い雄叫びを上げて押し迫ってきたのは3匹の小鬼たち。
所謂ゴブリンという低級の魔物であった。
「ここは、任せてもらおう!」
殿下は白馬から颯爽と飛び降り、ゴブリンたちに向かって長剣を抜く。
そして深雪の中、魔物めがけて突き進んだ。
「……危なくなったら、頼むぞ」
「カシコマリマシタ」
私は殿下の万が一に備え、陰に潜む魔族の狙撃手であるベルチーに合図する。
殿下は剣を鋭く振り回すが、魔物たちは距離をとって回避するばかりであった。
「……くっ」
荘厳な金属鎧に包まれていた殿下は、その重みによって疲弊。
次第にゴブリン達の動きに翻弄されていく。
「この低級魔族がぁ!」
「ギィギィ!」
「ギャヒャヒャ!」
明らかに殿下が劣勢になったので、ポコリナとエクレアが加勢。
素早く魔法と飛び道具で、魔物たちを追い払ったのだった。
「殿下、お怪我はありませぬか?」
「……ああ、大事無い。だが悔しいな。何故余はあのような低級な魔物に苦戦したのであろう?」
「それは、まずはこの深い雪。このような足場で重い金属を着ていては、どんな勇者であっても、すぐに疲れ果ててしまいます」
「しかし、書物の中の騎士は重装備で魔物を打ち払うのだがな?」
「それは、絵巻に描かれていない軽装の従者が援護しているのです。戦場でも重装の騎士だけでは立ち行きませぬ」
「そうか、それゆえ卿は軽装なのだな?」
「あはは、私はもともと傭兵の身の上、仕事は裏方の工事から輸送もあって、仕事は戦いだけではありませぬゆえ……」
「そうか、戦いとは難しいものだな」
私達はゴブリンの3匹の内、1匹を矢で仕留めていた。
その持ち物を検めると、腰の革袋に銅貨と銀貨が入っていた。
「ふむう、ライスター殿。魔物もおカネを使うのか?」
「いえ、彼らは光るものを尊ぶだけです。季節になればメスへの贈り物にもなりますれば……」
「ほお」
「逆に言えば、魔物が蓄えた金品を目当てに、冒険者と名乗るならず者たちが魔物を打ち倒します」
「それでは、どちらが魔物かわからんではないか?」
「左様でございますな。魔物とはノーランドの聖職者たちが勝手に定めたものですので、私にはわかりかねますが……」
「……ふむう、それは聞かなかったことにするぞ!」
殿下はそう言い、少し笑った。
王国内でもノーランド教の勢力は絶大。
うかつに悪口などを表で口にすれば、異端者として火あぶりにされかねないからだ。
我々は更に森を奥に進み、とある洞窟の前に辿り着いたのであった。
その頃には、さらに空模様は崩れ、吹雪の様鵜層を呈していた。
◇◇◇◇◇
「ふう、助かったな」
「左様でございますね」
洞窟の中は外の雪景色と違い、地面が露出していた。
灯用の松明をつけると、むしろ洞窟は温かかった。
我々は洞窟内で暫し休憩。
簡易な暖を取り、少しばかりの食事を口にしたのであった。
「ここを進むのが冒険というモノであろう?」
「……え?」
殿下は松明をもって洞窟の奥へと進もうとしている。
「昔に読んだ書物によると、勇敢な騎士は洞窟内の魔物を討伐し、名声を得たとあったぞ。それとも、この洞窟には魔物はおらんのか?」
「……いえ、外にもおりましたゆえ、なかにもおりましょう」
「では参るぞ! ついてまいれ!」
……ぇ?
行くの?
ここは森奥の秘境。
洞窟は暗く奥深そうで、きっと住んでいる魔物は強そうだ。
我々3名はお互いの顔を見合したが、殿下はやる気十分だ。
しかし、寒さで少し元気を無くしていた我々は、殿下の豪胆さに少し元気を分けてもらえたのであった。
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