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第百二話……忠義の士パーシバル

「将軍! 城兵のパーシバルと申す者がやって参りました。お会いになりますか?」


「おお、急ぎとおせ!」


 パーシバルの身なりは、海水に濡れボロボロであり、背中には二つの矢傷を抱えていた。


「城はいまや落城寸前でござる! 皆様方はなぜ助けて下さらぬ!?」


「……」


 挨拶も無しに食って掛かられ、オルコック将軍は少し面食らう。

 オルコック将軍が率いる兵は二千。


 何かができないという兵数ではない。

 だが、王宮より、外交交渉中の商国を刺激しないよう、チャド公国軍との衝突を避ける様言われていたのだった。


「将軍! 王宮より至急の伝令でござる!」


「おう、通せ! パーシバル殿は暫しあちらで休まれよ」


 パーシバルをさがらせ、オルコック将軍は王都からの使者と会う。


「将軍、共和国が停戦条約を破り、兵を北に進めました。至急王都シャンプールへとお戻りくだされ!」


「なんだと!? それはまことか?」


 先の戦いで王国は共和国を戦で破り、停戦条約を結んでいた。

 だが王国の窮地を見て、反旗を翻したのであった。


 オルコック将軍は至急幕僚を集め、善後策を講じることになったのであった。




◇◇◇◇◇


 パーシバルと王都からの急使を幕舎に案内した後。

 オルコック将軍と我々は軍議の場をもった。


「さて、如何したものかな?」


「このまま放置すれば、ハーディー城は落ちまする。城を見捨てたとあっては、ソーク地方の貴族達は王国を見捨てまするぞ!」


 若い貴族が将軍に詰め寄る。


「しかし、東のアタゴの地に援軍に向かわねば、ネト城が落ちよう。そちらの方は如何いたす?」


 白髪の老貴族が、皆の懸念を代弁した。

 今の王国には、東と西の両方に十分な援軍を送る力がないことは、誰の目にも明らかであったのだ。


「まぁ、どちらを救うにしろ、王命には逆らえませぬ。将軍は一旦王都に帰らねばなりますまい」


 茶髭の中年貴族が皆を諭した。


「……ふむう」


 オルコック将軍は目をつむって黙考。

 皆も解決策はなく、血気盛んな若い貴族でさえも押し黙った。


「将軍」


「なんだね? 火傷の男爵殿?」


「……はい、私と兵五百を残し、王都にお帰り下さい」


「何か策はあるのか?」


「このような作戦は如何でしょう?」


 私は、作戦の詳細を記した羊皮紙を将軍と諸将に見せた。


「……ふむ。面白そうだな。よし、其方に任す」


「はっ!」


「よし、火傷の男爵殿以外は、私ともに至急王都に戻るぞ! 急ぎ準備致せ!」


「はっ」


 そして皆をさがらせた後、将軍はパーシバルに会った。


「城に援軍を送る策がある故、安心せよ。下がって食をとり、十二分に休むがよい!」


 そう聞いたパーシバルは、将軍の申し出を断る。


「有難い申し出ですが、今すぐ戻り、城の仲間に早く伝えたく存じまする」


「そうか、好きにせよ!」


「はっ!」


 パーシバルは夜の闇の中、ハーディー城へと急いだのであった。



◇◇◇◇◇


 チャド公爵軍陣地。

 南方方面の包囲警戒地帯。


「……ん? 何かいたぞ!」

「待て!」


 急ぎ城へと戻る途中。

 パーシバルはチャド公爵軍の見張りに見つかってしまった。


「松明を持ってこい! 曲者だ!」

「急ぎ、隊長に知らせよ!」


 パーシバルは4名の槍兵と2名の弓兵に囲まれるも奮戦。


 だが、多勢に無勢で取り押さえられてしまった。

 そして縄で縛られ、チャド公爵のもとへと連行されたのであった。


「お前は誰だ?」


 チャド公爵に問われるも、パーシバルは口を割らない。

 だが、状況から城の兵士であることは明白であった。


「さては、援軍を頼みに行ったのであろう? ……で、援軍は来るのか?」


 パン伯爵が機転を利かせてパーシバルに問うた。


「来る! その時がお前たちの最後だ!」


 そのパーシバルの返事を聞いて、白髪の老参謀が公爵に耳打ちした。

 公爵が小さく頷き、パーシバルに問うた。


「……ふむ。お主の名前はなんという?」


「オーウェン連合王国にその名も高き騎士、パーシバルだ!」


「……ほう、では勇者パーシバル殿。我が公国の子爵になりたくはないか?」


「なに?」


 騎士は支配階級ではあったが、豊かな生活が享受できるとは言い難かった。


 みな、武功をたてて貴族になる夢を持ちながら、戦場に散っていく騎士は多かったのだ。

 ましてや、子爵ともなるには競争は激しく、そこまで出世するのは夢のまた夢であった。


「わしも大身の公爵だ。嘘は言わぬ。だが一つと頼みを聞いてくれぬかな?」


「何をすればいい?」


 パーシバルの家は代々騎士であったが、先代が放蕩者で多額の借金があり、妻と子供達にひもじい思いをさせていたのだ。


「城兵たちに、『援軍はこぬ』と伝えて欲しいのだ。そう言ってくれれば、これも授けようぞ……」


 公爵の側近が、金貨がこぼれるように入った革袋をパーシバルの前に置く。

 それは、貧乏貴族には垂涎の金額であった。


「わかりました。子爵のお約束、違えますまいな?」


「うむ、頼むぞ!」



 翌朝――。

 パーシバルは城兵から姿が見える高台に登った。

 そして、拡声の魔法を纏って、城側に大声で叫んだ。


「我はパーシバル。城兵の皆! 援軍は来るぞ! 耐えるのだ!」


 その声を聞いて、城側からは歓声が沸いた。

 戦意が上がり、より強固な城になったことがチャド公爵にも感じ取れた。


「くそう! 謀りおったな! パーシバルめぇ! 奴を磔にせい!」


 公爵はパーシバルを木で作った磔台に縛り上げ、城兵が見えるように掲げた。

 そして、その下に薪を積み上げて火をつけ、パーシバルを生きながらに焼き殺したのであった。



「妻よ……、息子よ、すまぬ……」


 パーシバルは息絶えるまで、王国に忠誠を貫いたのであった。


更新日は祝日及び毎週土・日曜日です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 鳥居パーシバル衛門、暁に死す……
[一言] パーシバルの子孫は忠義の家として繁栄したのでした。
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