6.魔王というありがちな存在
『具体化』 抽象的な事柄をはっきりした形として
表すこと
俺はバベルの塔を出た後、旧王都という都市にある旧王立図書館に来た。
前王がここに王都を置いており、王と王都が代わった後も人口は多く、フェアラートで第二位の人口らしい。
俺はその旧王立図書館で、辞書を引いていた。
具体化の意味は理解したが、まだ使い方がわからない。そもそもギフトの発動方法すらわからないのが現状だ。
この旧王立図書館はとても広く、数百年前の文書から最新のニュースまで幅広く取り扱っており、ギフトに関しても何かわかると思ったが、ギフトに関する文書はあまりなかった。
(しゃーない、ギフトのことは後回しにして、この国について勉強するか……)
俺は『フェアラートの歴史』と、『創造神の創造』という本を開き、空いてる机で読むことにした。
『フェアラートの歴史』
フェアラート王国は、創世記に出てくるバルブ・フェアラートの弟ベルブ・フェアラートが建国した国で、兄のバルブは独裁的、弟のベルブは民主的な王国を目指したとして有名な兄弟だ。
神話では、兄のバルブは、神に逆らい殺されてしまう。弟はそんな兄を見て、平和な世界を創ることを神に誓った。
それがこの国の始まりであり、この時、初代国王が誕生した。
時は流れ現代
現王にして99代国王ハルダ・フェアラートは、賢王歴90年に、兄弟達と王位継承争いをしていた。
父君にして98代国王が倒れ、王位継承争いが本格化する中、最西端の大国にして同盟国であったクレル王国が突如現れた魔王軍によって乗っ取られた。
父君は子供達に最後の遺言を残した。皆で協力し、魔王軍を止めよと。
父君の遺言通り、息子達は王位継承争いを一時中断して魔王郡との全面戦争を始めた。これがこの国で最も新しいの戦争、奪還戦争である。
この戦は、賢王歴95年にフェアラート王国の勝利として幕を閉じた。5年にわたる長き戦争だった。
だが、民衆は思った。戦争に勝ったのにもかかわらず、何故魔王軍がクレル王国から手を引かないのか。
それどころか何故魔王軍がこの国に土足で入り込んでいるのかと……
理由は単純、奪還戦争に勝ったのは我々フェアラート王国ではないからだ。現王ハルダ・フェアラートはかつて、父の遺言に叛き、魔王軍に交渉を仕掛けた。己を魔王軍幹部にしてくれと……
魔王軍はその話に乗った。魔王はハルダに王位を継がせることを、ハルダは魔王にこの国の支配権を約束した。
その交渉のおかげもあって、現王ハルダ・フェアラートは奪還戦争終了後、わずか8日で他の兄弟から王位継承権をもぎ取った。
王は王位についた後、過激的な政治体制を取るようになった。
反乱も多数起こったが、すぐに鎮圧される事になる。魔王軍の手によって。
民衆が気づいた時には既に遅かった。この国は魔王に支配されていたのだ。
かつての自由で民主的な国はもうなく、今あるのは暗く独裁的な王国だけであった。
―――――
俺は『フェアラートの歴史』を読み終えた。
この国は思ったより深刻な状況らしい。
この本を読んで分かったことを簡単にまとめると、
•この国は魔王軍及び国王に支配されている
• 今は賢王歴105年で、この奪還戦争はわずか10年前
の出来事
•世界地図のこのフェアラート王国より西の国々は全て魔王軍に支配されている
ざっくりこんなものだ。
俺は平和な世界に転移したかったが、そうとはいかないようだ。
「にしてもこの本、こんな事書いて、国が容認するかなぁ?」
「はい、容認させます」
「うわあっ!?」
俺は慌てて、音源の背後を振り向く、図書館の司書らしき女性が俺の椅子の後ろに立っていた。
フードを被っているがうっさらと見える素顔は、機械のように無表情だが、非の打ちどころのないは見えない美貌がある。光り輝く金色の髪に、奥深い漆黒の瞳は、見る人を不思議な気持ちへと誘い込む。フードを被っているが、服装から察するに司書だろう。
独り言のつもりだったが、返事されるとは思わなかった。
「容認させるってどういう事ですか?」
「簡単です、あちらが力づくに真実を隠すなら、こちらも力づくで真実を暴くだけのこと」
「魔王軍に勝てるのか?」
「分かりません?が、私はそうします」
女性は淡々とそう述べる、その口調は感情のないロボットのようにさえ感じる。
「申し遅れました。私はここの管理者、アルタイルと申します」
「どうも、俺はノアと言います」
俺は初対面なので丁寧口調でそう言った。
管理者?というワードのチョイスが独特だが、司書という事だろう。
「ここには真実しかいりません。偽りで構成された本なんて子供のお絵かきにも及ばない、世界で最も排除すべきものです」
彼女の口調は変わらず、一定で淡々と告げる、しかしその言葉からは彼女の強い思いも感じ取れる。
「ノア……ギフトの能力を持った魔道師、そう認識しています」
「何で俺の事知ってるんだ?」
「この国が今どんな状況下にあるか、あなたもご存知でしょう。ギフト持ちは数少ない貴重な存在なのです。ギフト持ちと認定された人間の存在は当然の事ながら国王、そして魔王に連絡されるということです」
魔王軍が強い戦士を欲しているということか。
それとも反乱勢力の制圧か、どちらにせよ魔王は世界征服でもしたいのか?
「貴方が魔王に屈するか、はたまた魔王を討ち滅ぼすのか……楽しみにしてますね」
そう言って、立ち去ろうとするアルタイルに俺は一つ質問をすることにした。
「ちょっと待て、何で国王でも魔王でもないお前に俺の情報が届いてるんだ」
アルタイルはしばらく黙った後、ボソリと呟いた。
「……神の使い、神子だからです」
最後に振り向きもせず、アルタイルは立ち去っていった。
不思議な人だが、悪い人という訳でも無さそうだ。
神子とか言ってたが、それがどんな存在かは別にどうでもいいだろう。
さて、次にこの本『創造神の創造』を読むとしよう。
『創造神の創造』
創造神はこの世界最初の生命、そしてこの世界の創造者である。
バベルの塔を超え、さらに高いところには、天使と悪魔の住処がある、さらにその上に神域と呼ばれる場所で創造神は我々を見守っている。
創造神は、初めに世界と生命を創造した。
生まれてきた生命が生きやすいように世界を変えていき、今の世界になった。そんな創造神は幾つかの『神の創造物』を創ったとされている。
最も有名なもので言えば、バベルの塔、間違いなく神の手によって創られたものだ。
次に魔道具のレベルや契約もそうではないかと言われている。
他にも数多くあるとされるが確実に分かっているのはこれだけ。
今も創造神は、空より高い場所に聳える神域にて、我々を見守っているだろう。
―――――
この本はあまり情報量がないな、分かっていないことが多すぎる。
最初の生命、創造神によってこの世界は創られ、今も見守っているということが書かれているだけだ。
そういえば、天使とか悪魔とか出てきた気がするけど、あの残念天使達は地上には住んでないのか、通りで翼なんて生えてる訳だ。
天使と悪魔はお伽話レベルの立ち位置で認識して問題なさそうだ、一応調べてはおくけど。
……にしても魔王軍ねぇ、厄介だなぁ。