3.それぞれの驚愕
俺がベットに戻り横になっていると、ドアが静かに開けられた。
カップを持って部屋に入ってきた彼女だが、先ほど出会ったばかりで名前すら知らない。
「あれ、なんか顔色悪いけど大丈夫?」
どうやら俺は、転生先の件で大きなショックを受けていたらしい。彼女に言われて自身の体調の変化に気づいた。
「……問題ないよ。心配かけてごめん」
「そうならいいけど、何かあったら遠慮せずに言っていいからね」
そう言い彼女は俺に、手に持っていたカップを渡してしてくれた。俺は飲み物を一口飲んだ後、彼女に必要最低限の情報を聞く事にした。
「名前……聞いてもいいかな?」
「あっ、ごめん!まだ名前すら伝えてなかったね」
名前を伝えてないのは俺もだから、そんな反応されると困るなぁ。
「私の名前はシエル、こう見えて15歳なの」
いや、これが俺と同い年の15歳だと!?同級生で胸がそこまで育ってる人なんて、そうそういないぞ。大体、こう見えてってどう見えてだ?
こちらの世界は俺の世界より平均的にバストが豊かなのだろうか?それともシエルだけなのか?まだ分からないが、これからこの世界の住人と出会う事で分かっていくだろう。
「俺は神楽坂望、こう見えてシエルと同い年だ。俺のことはノアって呼んでくれ」
「えっ!同い年なの!?」
どうやらシエルは、俺とは逆の意味で驚いているようだ。
まあこの体で同い年と思われても無理はないか。あの残念天使の体だし。
「うん。こう見えても同い年だけど……」
俺がそう言うとシエルは、一旦腰掛けていたベットから立ち上がり、振り向いて深呼吸をした。何か覚悟を決めているように見える。
「ずっと聞きたかったんだけど、ノアはどこから来たの?私が貴方を見つけた時、貴方は嵐の中の人通りの少ない場所でたおれてたの。それに、貴方の身体は光に包まれていた。だから、ノアはこの世界の人間じゃないかもって思ったの」
彼女は懐疑的な眼差しではなく、どこか好奇心に満ち溢れた目を向けてそう問いてきた。俺の違和感に気づいていたみたいだ。
「その前にこの世界のことを教えてもらっていいかな。今の俺には世界の情報が少なすぎて」
そう言うと、彼女は一層瞳を輝かせてこちらに質問をしてきた。瞳が星の形をしているかのようだ。
「この世界……ってことは、やっぱりノアはこの異世界とは別の世界からやって来たの!!」
(か、顔が近い!)
顔を近づけて、興奮した様子で尋ねてくる彼女は、俺を困惑させた。たぶん、俺の顔は真っ赤になっているだろう。
にしても、異世界だと!?別世界の人間は、別に世界があることを知ってるのか?もしくはそう言った厨二病的なワードが好きなのか?
「なぁ、その……異世界とかって、誰に聞いたんだ?」
「異世界から来た人本人からかな。この国でも数年に一度、異世界から来る人がいるの」
なるほど、俺以外にも異世界人はいるのか。
ん?でもあの残念天使、転移者は稀とか言ってたけどなぁ……まぁ、残念天使の言ったことだし本当かどうか検討つかないけど。
「シエルはその、異世界人に会ったことあるの?」
「ううん。この世界で最も新しい異世界人が発見されたのは私が生まれる前だから、それに……」
シエルは、一瞬の躊躇いを見せてから続きを語った。
「この世界に来た異世界人は皆んな、死体で発見されるか発見後すぐに亡くなってしまうの。だから、もしノアが異世界から来たなら、その……死んでじゃうかもしれない」
もしその話が真実なら、残念天使の言ったこととは大きく異なるな。いや、シエルと残念天使、どちらも本当のことを語っているのかもしれない。もしそうなら……
「その心配はないと思うよ。確かに俺はこことは別世界から来た。だけど、別世界は一つだけってわけじゃないと思うから」
シエルと残念天使、二つの話を結合して導かれる回答は、別世界は幾つかあるということ。また、残念天使が言った稀という言葉には、俺の世界からはという意味が含まれていたのだということだ。
推測なので当たってるか分からないが、何か出来ることがあるわけでもないので、今は残念天使の言葉を楽観視して信じるしかない。
「それで、この世界の話を聞かせて欲しいんだけど……」
「うん、分かった。私もノアの世界のことは気になるし、私の話が終わったら次は、ノアの世界の話も聞かせてね!」
そう言うとシエルは、机の隣の本棚まで歩き、本棚の本を何冊か手に取ってベットに置いて説明を始めた。
「この地図を見て、今私たちがいるのはこの国、フェアラート王国、世界でも最大級の王国なの」
開いた本に書かれた地図の西の方にあるフェアラート王国と書かれた国を指差し、説明を続けた。
「このフェアラート王国の最果ての田舎に私たちはいるわ、ほらここ」
シエルが指差したのは、隣国との境界線ギリギリの辺りで、本当に最果てに位置していた。スペロと書かれており、ここの都市名だと分かる。
「スペロって名前なの。スペロは最果てだけど、少し歩くと旧王立図書館があるの!それにバベルの塔も!」
シエルは、楽しそうに自分の街のことを話している。自分の誇りに思っている事を人に話す時は、誰だって楽しいのだろう。
にしてもバベルの塔ねぇ。旧約聖書に出てくるバベルの塔と同じやつかな?
「バベルの塔はどういった場所なの?」
「バベルの塔は、神がいる神域に一歩届かない高さの塔で、その最上階には世界の管理者がいると言われてるの。いつ出来たか、誰が創ったのかも不明の謎に包まれた塔、そう言われているわ」
「すげー塔だな。誰か最上階に行ったことあるの?」
「最上階?そんなの無理だよ。ほら、雨も止んできたし、窓から見えると思うよ」
そう言われ俺は窓の方を振り向く、まだ天候が良くないが、雨風の先に薄らと、だが凄まじい存在感を放つ塔が目に映る。
「高さ約10000m、数千数百という年月を超えてなお健在する、紛れもなく世界最長の建造物、バベルの塔!」
シエルの補足説明がなくても一目でわかる巨大な規模、ここから数キロは離れているのにまるで目の前にあるかのような存在感。バベルの塔は、もはやそれ単体が世界の全てを示しているかのように高く聳えている。
「……あんなの、人間が創れる領域超えてるだろ」
「まぁ、神の建造物って呼ばれてるぐらいだから」
さっきから神というワードを何度か聞いてるが、この世界の神は俺の世界の神とは違い相当爪痕を残しているらしい。
「それにそれに!旧王立図書館には古代魔術の本もあるんだー!」
「えっ、古代魔術?」
「うん、古代魔術」
俺は薄々予想していたが、まさか本当に聞くとは思わなかったワードを聞いて驚愕する。
「魔術って……何?」
「えっ、本気?」
「本気」
「冗談じゃなくて?」
「冗談じゃなくて」
お互いの常識を言い合うだけなのに、こんなにも驚き合う事なんて初めてだった。
「一体どんな世界で育ったの!?」
「こっちが聞きたいわ!」
こうして俺とシエルは出会い、常識の違いを痛感した。
世界観の違いに慣れるのには、相当時間が掛かりそうだ。けど、いつの日か俺はこの世界でみんなを見つけて、みんなで帰るんだ。それが今、俺の思う俺の使命だから。
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