黒いイレギュラー
敵機がこちらに近づき、目視できる距離まで近づいてきた。
純白のボディー、所々に水色のカラーリングがされており、まるで騎士のような外見だ。
腰にブレードを携え、マシンガンとシールドを装備している。
敵は少し距離を取った場所で停止、不思議に思っているとオープンチャンネルで呼びかけてきた。
「散々暴れてくれたようだな、黒いイレギュラー」
指揮官だろうか、男性の声が響く。
「いや、そちらが大勢で来てくれたからな。満員御礼のサービスだよ」
「そうか。だったらこちらもお返しをせねばならんな。ここで堕とさせてもらうぞ」
「あんたにその言葉が返ってこないことを祈るよ」
「ぬかせ!!」
その言葉を皮切りに敵機がこちらへ迫ってくる。先ほどまでの敵と明らかに速度が違う。
今までのように楽勝とはいかないかもしれない。
「少尉、少し揺れます」
「はぁ。お前の少しは心配だが……好きにやれ」
ライフルを腰部分に固定し、ブレードを両手で横になるように持つ。そして、ブーストペダルを初めて全力で踏み込んだ。凄まじい圧力に座席に押さえつけられるような感覚すらある。
だが、相手の意表はつけたようだ。固定されたブレードが敵機と接触した瞬間にシールド諸共叩き切り、そのまま直線上にいたもう一機も破壊した。
敵はすぐさま反応し、こちらへ銃弾を連続で放つ。俺は、その瞬間再度ブーストを吹かし回避した。
狙いは恐ろしく正確で先ほどまでいたところに火線が集中している。
「だが、その正確な射撃が逆にチャンスだ。タイミングをずらせば当たらないはず」
再びライフルを装備した後、左右のブーストを不規則に吹かし敵に迫る。そして、敵の銃弾を避けながらライフルを放った。それに対し敵はシールドを構え防御の姿勢をとる。
だが、こちらのライフルはかなり大口径のようで、二発程度でシールドを弾き飛ばす。そして、一機撃破。それを見て回避行動を優先したもう一機にはワイヤを放ち動きを止める。
動けない敵に引き金を引き、撃破。
これで四機撃破。額からは玉のような汗が噴き出ている。だが、集中を解くわけにはいかない。残り八機、仕留める。
ブーストを吹かしながら近づく、だが徐々に狙いが合わせられてきている。恐らく相手は精鋭部隊。時間をかければ数の差で相手に有利になるだろう。
ブーストに緩急をつけ、相手の狙いをずらしつつ、ライフルを放つ。相手はそれを回避するが、こちらも敵と同じように徐々に狙いを合わせていく。
しばしの射撃戦の後、こちらの弾が敵に直撃。一機撃破。
そして、俺はライフルのリロードに合わせ、肩部についた発射口からスモーク弾を全弾放った。
その瞬間、ステルスモードに移行、先ほどまで敵がいた位置にブーストを全開に吹かして突っ込んでいく。
相手が突然のロストと突撃に一瞬反応が遅れているのが分かった。敵に向けて直進しつつ、横側にいる敵にライフルを連射。二機を撃破。
そして、ブレードで直線状にいた敵を撃破した。
残り四機。だが、先ほどから相手の弾もこちらに当たるようになってきている。まだかする程度だが次は直撃を食らいかねない。
双方ともに相手を警戒し、睨み合う。
刹那、こちらが先に動く。
ブーストを吹かしつつ再接近、不規則な動きをし読みにくくしていたはずだが数発が直撃し振動が発生する。
だが、敵の装備がマシンガンであることが幸いし、損傷アラームは出ているもののまだ十分動かせる。
相手にお返しの弾を返しつつ再び突貫した。
気づいたころには敵は残り一機。双方ともに弾を撃ち尽くしたようで既に銃は無い。
「…………貴様はなんだ。その機動、明らかに普通ではない」
最初に話した敵の声が再び聞こえた。俺は集中し過ぎたのか頭がズキズキし、目も霞んでいる。加えて鼻から血が出ているのにも今気づいた。
だが、男の意地で軽口を返す。
「世間の普通なんてものは知らないね。これが俺の普通さ」
「……そうか。だが、先ほどから明らかに動きが悪くなっている。もう限界なのだろう?どうだ、今こちらに寝返れば佐官待遇になれるよう私が口利きをしてやるが」
もしかしたら相手はかなり権限があるのかもしれない。簡単に佐官を用意するなんて普通は言えない。もしかしたら、ただのブラフかもしれないが。
まあ、どちらにしろ答えは決まっている。
「それはできないな。その程度の餌じゃ俺は釣れない。そんなに軽い男じゃないんだよ」
佐官待遇?ツンデレ女子の名前呼びに比べたらゴミクズみたいなもんだ。
気合を入れるために唇を噛みしめる。血が滲むほどに力を入れ、痛みで意識が少しはっきりとしてきた。
「残念だ。ならば、ここで果てるがいい」
「その言葉、そっくりそのままお返ししてやらあ!!」
両者がブーストを吹かせ接近する。ブレード同士が当たり合い、闇夜に火花を散らせる。
何合打ち合ったろうか、攻撃と防御が目まぐるしく変わる。相手は紛うことなきエースだ。
少しでも気を抜抜けば一瞬でやられる。そんな確信があった。
そして、次に切り合った瞬間。振りぬいた姿勢のまま俺のブレードが折れた。
ここまで無理をさせ過ぎたらしい。相手の淀みない動きを見るともしかしたらこれを狙っていたのかもしれない。
相手の刃がこちらに迫る。
極限まで集中しているせいか、その刃がゆっくりとこちらのコックピットに向けて振り下ろされているように感じる。一瞬、頭の中に死がよぎった。
「まだだ!」
敵の刃を左手に固定されたナイフで受ける。獲物が違い過ぎるため腕ごとひしゃげるが何とか軌道を逸らし、代わりに右腕が吹き飛んだ。
だが、俺は右腕の被弾の衝撃を逆に乗せるように左足を放つ。
そして、その足のナイフは一直線に敵のコックピットに吸い込まれ、突き立った。
敵はそのまま崩れ落ち、何も反応が無い。
どうやら勝てたらしい。そう思った瞬間俺の意識は途絶えた。