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都市伝説シリーズ

私は今日も探し物。

作者: 紅蓮グレン

「見つからない、見つからない、見つからない……」


 私は数年前からずっとあるものを探している。この広い世界でそれを見つけるなんて、砂漠で落とした砂鉄を探すくらい難しいことだということは分かっている。でも、私が探しているのはかけがえのないものなのだ。失くしたまんまって訳にはいかない。


「ここにもない……どこに行っちゃったんだろう……あれが無いと大変なのに……」


 どうにかして見つけないと、私は今の状況から抜け出すことができない。現状、あれがなくなってしまったせいで私の生活はもの凄く不便だし、いろんな人たちに奇異の目で見られるのだ。あれさえあればもっと楽に生活できるだろうし、変な目を向けられることもないのに……


「もういいや、今日はやめよう。こんな調子じゃ、どうせ見つかりっこないし。」


 私は今日の探索を切り上げることにした。失くしたと思われる場所の近くだから、そのもの自体は見つからなくても手掛かりでもあれば、と思ったんだけど、そう都合よく見つかるはずもない。私は溜息を吐いた。明日は見つかるといいんだけど……


              ※  ※  ※


 今日、私は学校に来た。あれを失くしたのは確実に学校でじゃないんだけど、もしかしたら誰かが見つけて、拾って学校に持ってきたという可能性も捨てきれない。それに、あれは私の物で、ここは私が通っていた学校だ。もしかしたら私が取りに来るかもしれないってことで、落とし物として保管されているかもしれない。まあ、失くしたものの性質や見た目上、そんなことはまずないだろうけど、可能性はゼロじゃないし……


「……ん?」


 考えながら廊下を進んでいると、私はふと視線に気付いた。そちらに目をやると、1人の男子生徒がこっちを見ていた。なかなか整った顔立ち。ちょっとタイプかも、と思った瞬間、彼は私に微笑みかけてきた。普段奇異の目で見られることしかない私に微笑みかけてくれるなんて、なんていい人なんだろう。私は微笑み返した。すると彼は顔を赤らめ、そのあと少しぽかんとしたした後、急速に顔を青ざめさせた。


「……結局今までの人たちと同類ね。」


 その態度に、私は激怒した。微笑みかけておきながら怯えたような顔をするなんて。私は男子生徒を睨むと、そっちへと急いだ。彼は私が自分の元へ向かってくるとは思わなかったのか、ビビって腰を抜かしている。その顔を見たら、少し溜飲が下がった私は、彼を放ってまた廊下を進み始めた。


「……多分この調子だと今日も収穫なし、かな。私のことを知ってたり、私の探し物があったりしたら、あんなにビビらないだろうし。」


 私は落胆しながら学校をあとにする。結構長いことあれを探してるけど、ここまで見つからないなんて思ってもみなかった。しかも、情報すらない。そもそもあれはまだ存在しているのだろうか。目覚めた時には既になくなっていたし、失くした場所がどこなのかはよく分からない。もしかしたらもう原形を留めていない状態になっていたり、廃棄物と間違えられて焼却処分されているかもしれない。


「いっそのことあっちから来てくれたりしないかな……これだけ探し回ってるんだから、そのくらいの幸運、期待してもいいよね。」


 私は移動しにくい不便な体を引きずりながら、まだ探していない場所を目指した。


              ☆  ☆  ☆


「はあ……ここにもない、か。」


 どこまで探せばいいんだろう。もう失くしたと思われるところから結構離れたところまで来てしまった。ここよりずっとずっと北で失くしたはずだから、はっきり言ってこんな遠くで見つかる訳ないとは思っているんだけど、探す前から諦めてちゃ可能性はゼロだし探すか探さないか考えている時間があるならその時間を探す時間に充てる方が良い。


「とはいえ、見つからなすぎのような気がするな……もう開き直った方が良いのかも……」


 ブツブツ呟きながらも懸命に探していると、ふとどこからか足音が聞こえてきた。段々近付いてきている。ああ、また奇異の目で見られる、嫌だな。


「まだ探し終わってないけど……しょうがないか。逃げよう。」


 私は両腕を全力で動かしてその場からの逃亡を図る。いくら移動しにくいとはいえ、私の体重は普通の人の半分ほど。身体は軽い方だし、移動はしにくいけど一回スピードに乗れば結構速く動けるから、全力で逃げれば何とかなる。そう思ったんだけど……


「えっ、何で? 何でついて来れるの?」


 私が全力で逃げたら、ついて来れない可能性の方が高い。でも、足音の主は私を追っているのか、引き離すことができない。姿は見えないけど、無性に怖くなってきた。私の速度について来れるなんて、とんでもない化け物かもしれない。


「と、兎に角逃げないと!」


 私は腕の回転数を必死で上げて、体を引きずりながら全力での逃走を続ける。でも、足音はずっとついてくる。足と腕じゃ出せる最高速度にも違いがあるし、そもそも肉体構造的に足の方が強靭だから、このままじゃいつか追いつかれちゃう。


「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっとタンマ!」


 無駄と思いつつ必死に声をあげると、意外なことに足音はゆっくりになった。そして、近付いてきた足音の主を見た私は驚きのあまり腰が抜けたかのような衝撃を受けた。


「え、嘘……」


 足音の主は、下半身のみの化け物だったのだ。上半身がなく、腰から足までの下半身だけ。とんでもない姿だ。私は思わず……


「やっと、見つけた……」


 感極まって飛びついた。ずっと探し続けた、私の下半身にそっくり。これで私は奇異の目で見られないで済む。私はその下半身だけの化け物によじ登ろうとした。しかし、下半身は私を振り落とすと、地面に足で字を書き始めた。


【ワタシはトコトコ。ワタシの上半身をどこかで見なかった?】

「トコトコ? あなたは私の下半身じゃないの?」

【違うよ。ワタシの上半身はアナタじゃない。ワタシにとって、アナタは大きすぎる。】


 そう言われてみれば、確かに私の下半身にしては華奢すぎるような気がする。


「じゃあ、私の下半身は?」

【ワタシは知らない。似た姿のアナタを見かけたから、追いかけてきたけど、アナタはワタシの上半身じゃないし、ワタシの上半身のありかも知らないっぽいね。】

「た、確かに知らないけど、あなたは何で下半身だけなの?」

【分からない。気が付いたらこの姿だった。上半身は近くに無かったよ。だからずっと探してる。もう何年も、何年も。】

「私と同じ境遇じゃない……」


 私はこの下半身……トコトコを少し気の毒に思った。人の心配をしてる余裕なんかないかもしれないけど、多分このトコトコは一応喋ったりできる私よりずっと不便なはず。


「ねえ、あなたさえ良ければ、私があなたの上半身の代わりになってあげようか?」

【お申し出は嬉しいけど、アナタはワタシにとって大きすぎる。】

「でも、私がいれば聞き込みもできるわよ。あなたの上に私が乗っていれば、そんなに奇異の目でも見られないだろうし。」

【ワタシはありがたいけど、アナタにメリットがない。】

「十分あるわよ。あなたが歩いてくれれば、私は腕を使って走り回らなくて済むんだもの。」

【いいの? ワタシは多分、全速力のアナタより遅いよ。】

「速い遅いなんて関係ないわよ。それぞれ同じようなもの探してるんだから、協力すれば早く見つかるかもしれないわ。」

【それもそうだね。じゃあ、しばらく代わりになってもらおうかな。よろしく。……えっと、アナタの名前は?】

「あ、自己紹介がまだだったわね。私はテケテケよ。よろしく、トコトコ。」


 私は頭を軽く下げると、トコトコの上によじ登った。


              ☆  ☆  ☆


「それでも、今日も見つからない、か。」

【仕方ないよ。一緒にいるからって、そう簡単に見つかりはしないって。それと、疲れたからそろそろ降りて。】

「あ、ごめんね。」


 トコトコと一緒にいるようになってから、移動が楽になったし、奇異の目でも見られなくなった私たちは、お昼でも人目を気にせず探索ができるようになった。最近は、お昼に探して、夜は人目のないところで分離して休憩する、ってことを繰り返している。


「トコトコが歩いてくれるから捜索できる範囲は広がったけど、そう簡単に見つかりはしないよね。」

【アナタが周囲をキョロキョロしてくれるから、目線が高くなって見渡せる範囲は広がったけど、ワタシの上半身も未だに行方不明だし、それはお互い様。】

「そうね、でもトコトコとこうしていられるだけで、昔を思い出せて少し安心するわ。」

【それはワタシも同じ。テケテケといると、上半身と一緒にいるような気持ちになる。】

「実際私は上半身なんだけどね。」

【ふふ、そうだね。】


 トコトコは面白そうに足をよじらせた。


「まあ、今日はもうおしまい。続きはまた明日にして、休憩にしよっか。」

【そうだね。また明日探そうか。】


 トコトコと私は人の目に触れないように移動して、休憩に入った。


 ……きっと明日も、私たち・・・は探し物。

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