さる姫の戦
さる姫は決心した。
大好きな父上たちや家臣を困らせることなく、また、民が誰一人傷付くことなく戦を終えることに。
こっそりとまたお城を抜け出したさる姫は、まず野の鼠たちやムササビたちに頼みをした。
次に、地中のモグラに。鳥たちに。熊たちに。鹿たちに。ウサギたちに。
次々と、動物たちにお願い事をした。
さる姫自身も、鎧を身に纏い、身軽に動くことを第一にした。
その夜。
戦に立ち向かうために、士気向上をする為の宴が開かれた。
さる姫は何気ない顔をしてその場に居た。
宴は滞りなく終わり、夜の帳が下りていた。
お殿様は就寝所で浅い眠りについていた。
そんなお殿様に危機が迫っていた。
悪いお殿様が、暗殺部隊を放っていたのだ。
するするとお城に忍び込む暗殺部隊。
静かなお城の廊下を曲がった、一人の忍びが暗闇の中に光る真っ赤な目に驚いて立ち止まった。
真っ赤な目は幾つも幾つも増えていく。
その数、千余り。
忍びは小心者だったのか、震えあがってしまった。
真っ赤な目の化け物かと思ったのだ。
咄嗟に刃物を出した忍びが気付いた時にはもう遅かった。
首筋に衝撃が走ったと思うと意識を失ったのだ。
「いっちょあがりね」
お姫様らしくない言葉で言うと、さる姫はニコリと微笑んだ。
さる姫にとって気配を殺すことなど、野で鍛えられていたのだ。
足元には、他の忍びが数珠つながりで縛りこまれていた。
「ありがとう。鼠さん。ムササビさんも夜目が利くから助かったわ」
さる姫の足元には鼠とムササビが可愛い顔をしてちょっこりと居た。
そして明けた朝。
いよいよ、戦が始まろうとしていた。
が、悪いお殿様の兵士が足を進めたその時。
「わあっ!」
「おわあ!」
「ひえー!」
兵士たちの姿が、目の前から一斉に纏めて数十人消えたのだ。
慄く兵士たちと悪いお殿様。
その実態は、モグラたちが深い深い溝を地中に掘り大きな穴を作ったのだ。地表には分からないように。
目の前に大きな穴が開いてしまった敵軍。
困って、仕方なくその穴を迂回すると、それを空から見ていた鳥たちが空から石礫を落とし始めた。
ガン! ガン!
ゴゴゴン!
兵士たちの兜には石礫が雨あられと降り注ぎ、兜は凹むは、脳震盪を起こし気絶する者が続出するはと大変な状況になっていた。
「進め―! 進むんじゃ、兵士ども!」
悪いお殿様は喚き、極めつけには大事な兜は鳥たちの糞まみれで相当恰好悪かった。
それでも、どうにか進む敵軍。
すると、地響きが伝わってきた。
熊たちや鹿たちが兵士に向かって突進してきたのだ。
ただでさえ数が減っていた悪いお殿様軍。
その数と、熊の凶暴さ、鹿の角の鋭さに思わず皆逃げ惑った。
逃げていた兵士が、また次々とモグラの穴に嵌まり、ウサギたちの草と草を結んだ簡単な罠に引っかかって転ぶ転ぶ。
最早、戦状態でない悪いお殿様はとうとう味方が居なくなって、白旗をあげた。
「あら、白旗が見える」
「我々は、勝ったのか?」
「戦せずに済んだぞ……」
さる姫の一計と動物たちのおかげで、誰一人死者が出ない戦は終わった。
それから、さる姫の幸せな国は永遠にずーっとずーっと、幸せな国として栄えたそうな。
めでたしめでたし。
お読み下さり、本当にありがとございました!
さる姫の物語は如何でしたか?