第二次異能大戦 #Epilogue『re:』
その攻撃は、彼の人生という物語の中で、唯一、攻撃と呼べるものだっただろう。
それまでの何もかもが遊びに見えるような、というより、悪戯であったそれらが、たった一度の攻撃の前に砕け散った。
斯くも恐ろしきそれは、爆撃とも異なり、衝撃とも異なり、ともすれば、その世界の現象のどれにも当て嵌まらない、未知の力であっただろう。
だがしかし、激震に震える世界の中で、それは何よりも知られた感情に彩られており、誰もがその身に宿す絶望の音色であった。
意思を超えて、遺志を穢して、世界すら超えて。
その青年は、どこまでも澄み切った表情で、どこまでも混濁した瞳で、どこまでも救いようのない両手で、生み出した闇と宿した闇の成果を問うのだ。
放たれた闇の、彼の生涯唯一の攻撃は、まっさらな大地に着弾し、そこに芽生えていた何もかもを、背徳的に塗りつぶして、一介の破壊の跡へと、その役目を捻じ曲げた。
巨大な隕石でも降ってきたのでは?と誤解しそうになる程に爆炎を撒き散らし、依然立ち上らせ続けるクレーターは、もはや先の見えないほどに広がっており、がっぱりと口を開けるように青年を睥睨していた。
自分を生み出した創造主を、睨みつけていた。
彼の生涯は、酷く陰惨なものだった。
他にやりようもあったのだろう。彼自身の非もあったのだろう。しかし、それ以前に、世界は、彼に対して冷たすぎた。彼を、恐れ過ぎた。
そんな馬鹿らしい虚言を信じ切ってしまうほど、その人生は荒み切っていた。
だから、だから。どうしようもない露呈を、青年は語る。
自傷痕の天使に、憐憫の魔女に、錬金術を語る陶酔者に、変わり果ててしまった幼馴染に、害意すら感心だと誤解したモルモットに、本物を許されなかった少女に、不幸なナースに。
幸せにならなければならなかった愛の少女に、幸せにしなければならなかった穢の少女に。
終わらせなければならなかった、原悪の科学者に。
声を乗せて、声にのせて、酷く自分勝手な結論だった。誰もを悲しませる結論だった。己の悲しみを取り払うための決断だった。
その決断の代償として、この世界に刻まれたクレーター。それは、悲しみの遺産となったとしても、いつしか人々の暮らしを乗せて育っていくことだろう。
だから、そんな希望的観測を自嘲気味に笑い飛ばして、堪え切れない感情を噛み殺して
噛み殺せなかった感情を吐き出した。
「僕を救ってくれない人類を。僕を救ってくれないキミたちを。」
暮れていく闇に、晴天は映えて。
「どうして僕が、救ってやらないといけないんだ。」
そうしてとある男のエピローグが始まる。
些か暗すぎたプロローグと、些か救いようがなさ過ぎた駄文と、些か長すぎるエピローグだ。
だがしかし、唯一救いがあったとすれば、そのエピローグに終わりがあるということだろうか。
その悲しみに、終着があるということだろうか。
ともかく。
彼の物語はそこから終わりを告げる。近づきつつある刻限に吐いた怨み言は、その通り世界に溶ける。
そのうちエピローグが終わる。
彼が終わる。
イデアが、終わる。
END