58話 呪われし者達
※前回までのあらすじ
エルフの里が壊滅していた!
カイエン達が去った後、俺達は気配の無くなったエルフの里を見て回った。
どこも惨たらしい状況で、見るに堪えないものばかりだった。
やはり生存者はいる様子も無く、これ以上、彼女達にこのような惨状を見せたくないと思った俺は、引き上げることを決意した。
それと――エリスの両親と思しきエルフの姿は見つからなかった。
亡骸も残らないほどに食われてしまった可能性もあるが、姿が無いことが唯一の希望でもあった。
「王都へ戻ろう」
「はい……」
「うん……」
もう、この場で俺達に出来ることは無かった。
それに当初の目的である黒い魔物の確認も取れた。
後はそれをガゼフ王に報告するだけだ。
そうすれば、まとまった数の王国兵が動き出す。
この里のことは、その者達に任せればいい。
「行くぞ」
「……」
エリスは名残惜しそうに里を一瞥すると、踏ん切りが付いたように前に向かって歩き出す。
そして俺達は馬車へと戻り、王都に向かって走らせた。
◇
王都リターナ。
そこへ俺達は戻って来ていた。
早速、エルフの里での出来事を報告する為、城へと急ぐ。
門兵に取り次いでもらうと、どういう訳か外郭内にある演習場のような場所へと通された。
こんな場所でか?
違和感を覚えつつもそこで待っていると、建物から演習場に突き出したバルコニーのような場所にガゼフ王の姿が現れる。
「戻ったか」
ガゼフは俺達を見下ろし低い声で言った。
「確かに噂通りの事が彼の地で起きていました。特にエルフの里では――」
見てきたもの全てを報告しようとした時だ。
「言わずとも分かっている」
そこで彼は急に言葉を制止した。
どういう意味だ?
そう思った直後だった。
建物の中や演習場の影から多くの兵士達が現れ、俺達を取り囲む。
彼らが抜き放った剣や槍の先は俺達に向いていた。
「これは、なんのつもりだ……?」
明らかな敵意を感じた俺は、普段の口調でガゼフに問うた。
「全ては彼から聞かせてもらった」
王がそう言うと、彼の背後に見覚えのある人物が現れる。
それは蔑むような視線を送ってくる金髪の青年。
「カイエン! 貴様か……!」
一足先に森を出た彼が、こんな所に来ているとは……。
恐らく、国王に何か吹き込んだのだろう。
しかし、あんな男の言葉に簡単に丸め込まれるような国王ではないはずだ。
なのにどうして……?
「私としたことが調べが足りなかった。聞けばそのエルフの娘は精霊の声が聞こえぬ呪われた子であるというではないか」
「……」
エリスの表情が凍り付く。
「我が国には太古よりの文書に、〝精霊の声を掻き乱す者、黒き災いによって大地を討ち滅ぼさん〟という言葉が残っている。これはまさに、今この国に起きようとしていることにそっくりではないか」
「……」
そんな言い伝えが……?
だからといって、それをそのまま鵜呑みにするのも早計だ。
「ただの偶然ということも有り得るのでは?」
「偶然……それもあるやもしれない。だが、ただの偶然がここまで重なるだろうか?」
そこでガゼフはアリシアの翼に指先を向ける。
「その翼人の右翼。あまりに異形だ。あの黒怒竜を倒してくれた英雄、ルーク殿の連れである故、目を塞いできたが、数々の厄災に照らし合わせてみればそれも納得が行く。その翼は例の黒き魔物のものではないのか?」
「……」
俺は黙ることしか出来なかった。
それはアリシアも同様だ。
「やはりな」
ガゼフはカイエンと顔を見合わせ、納得の表情を浮かべる。
「それにルーク……」
彼は改めて俺を睨んだ。
「お主は聞けばFランク冒険者だという。そんなレベルのものが黒怒竜を一人で倒せるだろうか? ここにいるカイエンが言うには、お主は目には見えぬ不可思議な術を使っていたという。恐らくそれで黒怒竜を倒したのであろう。そんな強大な力をFランク冒険者が持ち合わせていることが不自然だ。だが、それが呪われた力であるというのなら納得が行く」
「なっ……」
あまりのことに俺は絶句した。
こじつけにも程がある。
「だからといって、俺の力と太古の言い伝えは関係があるようには思えないが?」
ガゼフ王は表情一つ変えずに答える。
「精霊の声を掻き乱す者は、新たな災いのもとを呼び込み、大きな厄災の火となる。古文書にはそうとも書かれている」
「っ……」
完全に言いがかりじゃないか。
恐れが恐れを呼び、真っ当な判断が出来なくなっているとしか思えない。
「黒怒竜を倒してくれた事には礼を言う。だが、私は国を守らねばならない立場、分かってくれ」
「……」
国王の背後でカイエンが憎たらしいほどの嘲笑を浮かべている。
そこでガゼフ王は大喝する。
「ルーク・ハインダー、貴様に授けた爵位と領地を剥奪し、ここにいる三名を拘束する! その身柄の処遇は追って取り決める。――引っ立てよ!」
そこかしこで武器の金具が揺れる音がする。
兵士達が剣を構え、包囲を狭めてきていた。




