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46話 愚昧

※前回までのあらすじ


 大男にエルフの少女が絡まれた!


 大男に首根っこを掴まれ、足を宙に浮かされた窃盗犯の正体は、エルフの少女だった。



 見た所、六、七歳に見える。

 だが、相手は長命のエルフだ。

 見た目が人間のそれとは限らない。



 ともかく、助けなくては。



 俺はすぐさま、少女の足に絡めていた糸を解き、そのままそれを大男の指へ侵入させる。



 指先へと入った糸は筋繊維へと繋がる神経を刺激する。

 それだけで拳を握る筋肉は意志に反して簡単に弛緩するはずだ。



「っあ!?」



 途端、大男は体格に見合わぬ高い声を上げた。

 直後、少女から手を離す。



「ゃっ……!?」



 エルフは小さな悲鳴を漏らし、地面に倒れ込む。



「けほっ……けほっ……ごほっ……」



 彼女は、取り戻した呼吸で噎せていた。



 大男の方はというと、何故、手が勝手に動いたのか意味が分からず、自分の手をまじまじと見つめていた。



「……? 俺は……なぜ今、離した?」



 しかし、それは彼にとっては些細な出来事だったらしい。

 再び、エルフの少女に掴み掛かろうとしていた。



「その辺にしておいたらどうだ」

「ん? なんだ、お前ら。関係無い奴は引っ込んでな」



 既に何事かと、彼らの周りに人集りが出来ている。



 そんな人集りの中から進み出た俺とアリシアに大男の視線が向けられる。

 エルフの少女も俺達のことを不思議そうに見ていた。



「それが少しだけ関係があるんだ」

「なんだと?」

「そこにいる彼女が、あんたぶつかったみたいだが、その原因の半分くらいは俺にある」

「は?」



 大男は「何言ってんだ?」みたいな顔をしていた。



「だから、その事は俺からも謝る。すまない」

「……」

「これで水に流してくれないか?」

「はあ? ふざけんな」



 わざわざ謝ったというのに、それが逆に彼の癇に障ったようだ。



「ただ、お前がこいつの肩代わりをするつもりってんなら、相手になってやるぜ? 見た所、冒険者のようだからな」



 俺達の装備品からそう思ったようだ。

 そして彼も冒険者のようである。



 一揃えのアーマーを身に付け、背中には巨大な戦斧を背負っている。

 まず堅気の格好じゃあない。



 それにしても……たかが子供にぶつかられただけで、そこまで怒ることが出来るなんて、どんな育ち方をしたらそんな大人になるのか……。

 悪い意味で感心してしまう。



「俺の名はヘルゲ。この界隈じゃ、ちったあ名の知れたAランク冒険者だ。この俺と勝負して勝ったら水に流してやってもいいぜ?」

「……」



 ヘルゲと名乗った大男は、そうせせら笑う



 こいつ……Aランクか。

 見た目では判断出来ないものだな。



 それにしてもゲイツ達といい、こいつといい、Aランクになるような人間にはランクアップの条件に性格も入れて欲しいものだ。



「ルーク様、ここは私が」



 アリシアが前に出ようとした。



 ここは前衛である彼女が事を担う場面ではあるが、この程度の奴は俺だけで充分対処出来る。

 黒怒竜(ニーズヘッグ)と比べたら小物に過ぎないのだから。



「いや、大丈夫だ。俺がやる」

「お、やる気になったか。いいぜ? 二人一緒でもよ」



 ヘルゲは余裕の笑みを見せていた。



「一人で問題無い。秒で終わる」

「なっ……!」



 そう言われたことが相当屈辱だったのか、彼は戦斧を手にすると合図も無しに襲いかかってきた。



 対して俺は指先を弾いた。



 一本の糸が真っ直ぐに飛び、彼の胸に突き刺さる。



 掌握した。



「っ……!?」



 何かを感じたヘルゲは思わず攻撃の手を止め、立ち止まった。



 糸は彼の心臓に繋がる太い動脈を締め上げる。



「くっ……何を……した!?」



 彼の顔は見る見る青ざめて行き、苦しみに悶え始める。



「秒で終わると言っただろ?」

「……」



 顔面蒼白になった彼は、自分の命が既に俺の手に握られていることを悟ったようだった。



「わ……分かった。降参だ……だから……あふぅ」



 糸を解いてやると、彼は肩で息をする。

 そして、



「ひぃぃっ……!」



 一目散にこの場から逃げ去って行った。



 これで一段落か。

 さて、あとはこっちだが……。



 俺は地面にぺたんと座り込んでいるエルフの少女に近付いた。

 すると、呆然としていた彼女はハッとなったように目を見開き、



「あ、ありがとう……」



 素直に礼を言ってきた。

 これに対し、俺は「ああ」とだけ答えると、少女は立ち上がってフードを被り直す。



「じゃあ、ボクはこれで……」



 少女は背を向け、何の気無しに人混みに向かって歩き出した。

 そんな彼女の襟首を俺は後ろから摘まみ上げる。



「ぐへっ……!?」



「まだ何か忘れてるんじゃないか?」

「……」



 竜玉をこっそり手の中に包んだ彼女は、苦笑いを見せるのだった。




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