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間話2 食い扶持〈ゲイツ視点〉


 ゲイツとティアナは野盗に有り金や持ち物を全て持って行かれ、身ぐるみ剥がされながらもどうにかアーガイルの町まで戻って来ていた。



「はあ……やっと着いた……もう死にそうだ……」

「私も……お腹空いた……倒れそう……」



 フラフラしながら通りの端にしゃがみ込む。

 体は薄汚れ、衣服もボロボロ。

 たった数日だというのに彼らの顔は痩せこけたようにも見える。



 そこに元上級パーティの面影は微塵も感じられない。



 ここまでの道のりで口に入れたものといえば、森に生えていた木の実数粒と小川の水くらい。

 後はひたすら街道を歩き続け、ようやく辿り着いたのだ。



 途中、武器もないのに熊に襲われたり、崖から落ちたり、散々な目に遭った。

 体力を回復しようにも、そんな状況ではティアナの魔力も尽きてしまっていて役に立たない。



 本当に死ぬ思いだった。



「でも……今の俺達には飯を食う金もないぞ……どうすんだ?」

「そんなの、あんたが考えなさいよ……。私はもうそんな事考える余裕無いんだから……」

「……」



 ――勝手な事を言う……。



 ゲイツは溜息を吐いた。



 通りでは食堂や屋台から旨そうな料理の匂いが漂ってきている。

 心はそれに刺激されるが、唾が出ないほど体は干からびていた。



 ともかく何かを腹に入れないと、まともに動くことすらままならない。

 と、そこでティアナが提案してくる。



「ギルドに行って、すぐ終わりそうなクエストを受ければいいんじゃない?」

「馬鹿言うな……俺にはもう、冒険者を続けられる気がしない……」

「情けなっ……! そんなあんたでもスライムくらいは倒せるでしょ!」



「嫌だよ! スライムでも怖いよ! それに装備品を全部巻き上げられちまったから、武器だって持ってないんだぞ? そんなんで、どうやってクエストをこなすんだよ……」

「それはその……スライムくらい素手で行けるでしょ?」

「素手って……想像しただけで気持ち悪っ! 触れないよ! それならティアナがやればいいだろ」

「私は……後衛職なんだから、そんなの専門外よ」

「そんな事言ってる場合じゃないだろ」

「嫌って言ったら、嫌!」



「じゃあ、どうすんだよ」

「知らないわよ」



「「……」」



 二人で顔を見合わせ、溜息を吐く。



 ――駄目だ……このままでは野垂れ死ぬ……。やはり、勇気を奮い立たせて冒険者を続けるしかないのか……?



 そう思うと途端にルークに毛を抜かれた恐怖が蘇ってきて、体が硬直してしまう。



 ――ああっ……やっぱり無理……。



 そう思った矢先だった。

 ゲイツ達の前に一台の荷車が通り掛かった。



 その荷台の上には布のようなものがかけられており、隙間から奇妙な肉塊が載っかっているのが見えた。



 ――これは……。



 それが魔物の死体だと分かった瞬間、ゲイツ達は悲鳴を上げて後退った。



「うわわぁぁ!?」



 すると、その声に反応したかのように彼らの前で荷車が止まる。



 ――こんな所で止まらないでくれよ……!



 心の叫びとは裏腹に、荷車を引いていた恰幅の良い男が、ゲイツ達を不思議そうに見つめてくる。



 彼は腰を抜かしているゲイツ達を品定めするように見回すと、汚い物を見るような目でこう言った。



「浮浪者か。アーガイルでは珍しいな」

「浮浪者ではない!」



 さすがにそれには否定した。



「じゃあ何なんだ?」

「ただ腹が空いて動けないだけだ」



「人はそれを浮浪者と言うんだが?」

「……」



 ゲイツは何も言い返せなかった。



 そこで荷車の男は何かを思い付いたのか、ニヤリと笑う。

 そして、ゲイツ達にこう尋ねた。



「丁度、人手が欲しかったんだ。お前ら俺の所で働く気はあるか? 無論、飯も付くぞ」



「「……!」」



 次の瞬間、ゲイツとティアナは齧り付くように首を縦に振っていた。


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