43話 凱旋
※前回までのあらすじ
黒怒竜を倒した!
運良く黒怒竜の被害を免れた馬車を発見した俺達は、なんとかアーガイルの町へと戻ることが出来た。
翼竜の討伐報酬だが、他の冒険者が持っていたものはファイアブレスで消し飛んでしまったので回収が不可能だった。
それでも俺達が倒した翼竜だけでも相当な金額になったので、これからの生活はしばらく安泰になった。
しかし、エーリックは、あの黒怒竜を倒したのだから、国を救った英雄として称えられ、それ相応の報酬を貰うのが筋だろうと言ってきた。
彼が国王陛下へのお目通しを取り付けてくれるらしく、俺達は急遽、王都へ向かうことになった。
そして今、俺達はその王都へ到着し、謁見の間へと進み出たところだ。
程なくすると、玉座にラベリア王国、国王ガゼフ三世が現れる。
喋らなくても威厳を感じる髭を蓄えた壮年の男。
過去に国民の前で演説を行った際、遠目で窺ったことはあったが、こんなにも近くで目にするのは初めてのことだ。
俺とアリシア、そしてエーリックは彼の前に跪いた。
「話は聖騎士長エーリックから聞いている。伝説の魔獣、黒怒竜を討伐したとか? それは真か?」
「はい、ここにその証拠が」
すると、俺達のやや後ろに控えていたエーリックが、ヒビの入った竜玉を持って国王の前に進み出る。
あの竜玉――破損はしているが、糸で解析した所、中にはまだ膨大な魔力が詰まっていることが分かり、かなりの価値があるのではと思って俺が回収しておいたのだ。
エーリックが、それは黒怒竜討伐の証拠になると言うので、預けたのだった。
エーリックから竜玉を受け取った侍従は、そのまま国王の元へと運ぶ。
国王ガゼフは、水晶玉のようなそれを手にすると、じっくりと見回し精査する。
しばらくすると彼が瞠目するのが分かった。
「まさしく、これはドラゴンのそれだ……」
驚きの表情を見せる国王を窺いながら俺は思う。
なぜ見ただけでそれが本物の竜玉だと分かったのだろうか?
鑑定眼があるのか? 或いは過去に同様のものを見たことがあるのか?
真実は分からないが、偽物扱いされるようなことがなくて良かった。
竜玉を一通り確かめた国王は、俺達に向かって言う。
「ルーク、そしてアリシアと言ったか? 翼竜の大群も然る事ながら、我が領土内に邪悪なドラゴンが現れたとするなら、それは国家存亡の危機だ。そのまま放って置けば、町は焦土と化し、この王都とて危うい事になっていただろう。それを事前に防いでくれたことに感謝する」
国王自ら頭を下げた?
俺達に?
凄いこともあるもんだ。
「事は勇者に匹敵する活躍。相応の褒美を取らそう」
エーリックが言っていた通りの展開になり、俺とアリシアは互いに顔を見合わせる。
「我が領地を割譲し、そなたに男爵の称号を与えよう」
「え……」
思わぬ褒美の内容に俺は絶句した。
「ルーク様が……領主様に……?」
アリシアも目を丸くしている。
男爵といえば貴族の中でも最下階級だ。
しかし、貴族は貴族、色々な特権が付いてくる。
一介の冒険者がそうそうなれるものでもないし、良い話だ。
だが、領地があれば領民もいて、それに関係する政も増えてくる。
自分の意志で自由に動き回れる冒険者からしたら、少々窮屈に感じる。
そもそも俺自身が領主とかそういう性分でもない。
かといって、全てを断るのも勿体ない気もする。
ならば――、
「それならば、誰もいない荒れ地を頂けませんか?」
「なに?」
国王は聞き間違いかと耳を傾ける。
「領主とかそういうのは俺には向いてないんで、小さめの土地を下さい。自由気ままに冒険者をやるのが俺の生きがいなんで」
「本気で言っているのか……?」
彼は、まだ信じられないといった様子だった。
エーリックも同様の表情をしている。
「あー、あともう一つ」
「なんだ?」
「その竜玉を頂けませんか?」
「これか……?」
国王は手元にあった竜玉に目を向けた。
あの竜玉には、まだ魔力が残っている。
裁縫スキルで割れた部分を除いて加工して、アリシアの剣に本来嵌まっていた筈の魔法石代わりに使ったら面白いことになるんじゃないのか? そう思っていたのだ。
「それは別に構わぬが……」
「では、その竜玉と……土地ですが、出来ればアーガイル付近の辺境の地で良い所があったらお願いしたいのですが」
「そんな場所でいいのか……?」
よりにもよって辺境を希望してきたことに困惑した様子だった。
「わ……分かった。用意させよう」
「ありがとうございます」
それで俺とアリシアは再び顔を見合わせた。
「では、ルークとアリシアの両名には、この度の功績を称え、労う為の宴を用意した。楽しんでいかれよ」
「あ、最後にもう一つだけ」
「ん?」
そこで俺はエーリックに目で合図した。
すると彼は扉付近の兵士に指示を出す。
暫くすると、手枷をかけられた男が兵士に連れられ中に入ってくる。
そう、ラルクだ。
まだ、まともに歩けず両脇を兵士に抱えられている。
俺は奴の処分についてエーリックに相談していたのだ。
ラルクに王国の力を借りて、それ相応の罰を与えて欲しいと。
それに彼も承諾してくれ、この流れとなったのだ。
「其奴は何者だ?」
「はっ、彼は元上級パーティ蒼の幻狼のメンバーでありますが、この度の翼竜討伐作戦に於いて不穏な動きが認められました。国家反逆罪の疑いがあります」
「なんだと?」
エーリックの報告に国王の眉間に皺が寄る。
「今回の作戦に於いて冒険者達の和を乱し、その上、ルーク殿、アリシア殿両名に危害を加える行為がありました」
「ふむ」
「加えて黒怒竜掃討作戦の最中、あと一歩でとどめをという所で妨害を働き、剰え私に負傷を追わせるなど我が国の危機を煽るような行為が多々認められました。これは立派な国家反逆罪かと思われますが、国王陛下にご裁定頂きたく、連れて参った次第です」
「そうか」
ガゼフ王は、項垂れるラルクの姿を見定める。
判決は早かった。
「その者を国家反逆罪と認め、開拓地での永久無限労働と科す。尚、労働が可能になる程度まで回復させ、謀を企てぬよう隷従刻印の契約を施すように。以上だ」
「はっ」
エーリックは敬礼すると兵士に命令を下す。
「連れて行け!」
退室する最中、彼は俺に満足げな視線を送ってくる。
それには俺も笑みで返した。
国王への謁見はそれで終わり。
その後は俺達の為に用意された宴を楽しみ、夜は城内にあるふかふかのベッドで久し振りの休息らしい休息を得た。
領地の選定が終わるまでは、しばらく王都に滞在するがいいと言われたので、その言葉に甘え、都会での生活を楽しむことにした。
今日は王都の見物だ。
「どこへ行くんです?」
隣を歩くアリシアがそう尋ねてくる。
「冒険者ギルドさ」
「えっ……」
彼女は目を丸くする。
「王都のギルドってのは、どんだけデカいのか一度見てみたかったんだ」
「……」
彼女は呆気に取られたような顔をしていたが、すぐに笑みを見せる。
「本当に冒険者が好きなんですね」
「悪いか?」
「いいえ」
彼女は柔らかい物腰で返した。
「俺は多分、死ぬまで冒険者なんだと思う」
「それなら……」
アリシアはふと街路の途中で立ち止まった。
どうしたのかと思って俺も足を止め、振り向く。
すると、彼女は穏やかな眼差しでこう言った。
「私も死ぬまでルーク様の剣であり続けます」
〈第一部 了〉
次話より、その後のゲイツ達の話が数話続きます。




