38話 縫製
※前回までのあらすじ
蒼の幻狼のパーティと決別した!
蒼の幻狼と完全に決別した俺は、アリシアとエーリックと共にニヴルゲイト閉鎖の為の作戦を開始した。
急ぎ足で廃墟と化したカダスの町へ向かう最中、アリシアが照れ臭そうに言ってくる。
「あの……ルーク様……」
「なんだ?」
「私の隷従刻印を守って下さって……ありがとうございます」
「……」
彼女は胸元の刻印に手を当てながら笑みを浮かべた。
「俺はお前を必要としている。ただ、それだけのことだ……」
「はい! ありがとうございます!」
「……」
突き放したような言い方をしてしまったというのに、彼女はそんな事もものともせず嬉しそうにしている。
奴隷から解放されると聞けば喜ぶのが普通だ。
なにせ自由の身になれるのだから。
その逆を嬉しがっているなんて、どうかしてる。
「それより、もう一度、作戦の確認だ」
「はい」
「エーリックも聞いてくれ」
「うむ」
アリシアに再度、上空から偵察してもらった所、ニヴルゲイトの前に二体の翼竜が確認された。
それ以外に翼竜の姿は見えない。
なので身を潜めて見張り役の翼竜に近づき、まずは俺が糸で奴らの動き止め、体皮を改変して弱体化。
そこをアリシアとエーリックがとどめを刺す。
ここはゲイト内から仲間を呼ばれないように素早く処理することが重要だ。
咆哮を上げさせずに、如何に早く静かにさせるか。それにかかっている。
翼竜さえ処理してしまえば、後は落ち着いてニヴルゲイトを閉じる作業に取り掛かれる。
全てはファーストアタックが上手く行くかどうかで決まる。
その事を再確認した俺達は、程なくしてニヴルゲイトの袂へと辿り着いていた。
瓦礫になった家の陰から、身を潜めてニヴルゲイトの周辺を探る。
すると、アリシアが言った通り、ゲイトの真下に二体の翼竜が座っている姿が窺えた。
ニヴルゲイト自体はというと、上空で渦を撒いているのが見える。
高度的にはそれほど高くはない。
ギリギリ俺の糸が届く範囲だ。
それが一番の気掛かりだったから安心した。
さっきは混乱の最中で確認する余裕が無かったからな。
さて、そろそろ行くか……。
「準備はいいか?」
「はい」
「いつでも」
互いに確認を取り合うと、タイミングを合わせて陰から飛び出した。
「ギギ……」
途端、俺達の姿に気付いた翼竜が首をもたげ、その口から咆哮を上げようとする。
すかさず俺は放糸した。
両手から無数の糸が伸び、翼竜の翼と体、そして口までをグルグル巻きにしてしまう。
それで奴らは彫像のように完全に動きを止めた。
続けて魔力で守られた体皮を弱体化させる。
「今だ!」
「はい!」
「おお!」
俺の合図でアリシアとエーリックが飛び出す。
アリシアは翼を広げ、一瞬で翼竜の首元へ接近する。
そのまま剣を振り上げ、切り抜けた。
それでまずは一体目の首が落ちる。
「うぉぉぉぉっ!」
次いでエーリックが雄叫びを上げながら翼竜の背中に駆け上がり、その剣で首を掻き切る。
二体目の首が落ち――それで無事、見張り役の翼竜を仕留めることが出来た。
「よし」
俺は小さく拳を握った。
計画通り、上手く行った。
あとはニヴルゲイトを閉じるだけだ。
「俺がアレを閉じる間、周囲を見張っててくれ」
「分かりました」
「了解」
彼女達は俺の背後を守るように警戒を始めた。
俺はニヴルゲイトの側に立ち、見上げる。
塗料をこね回したように空間が渦を巻いているのが見える。
さあ、無体物縫製の出番だ。
一度、空気で試してみたとはいえ、ニヴルゲイトのような未知のものにちゃんと通用するかどうか、正直不安な所もある。
これが無理なら急いで離脱する。
俺達では手に負えない代物だからな。
それこそ、勇者か何かの出番だろう。
俺は両手を広げ、糸を飛ばす。
すると、全ての糸が空間に突き刺さる感覚を得た。
ん……この感じ……行けるかもしれない。
布を縫う時でもそうだ。
しっかりと縫える素材は糸を通しただけで感覚で分かる。
このニヴルゲイトは縫える。
空間にあいた穴の縁に糸を通し、かがり縫いでゲイトを塞いで行く。
一本では心許ないので、全ての糸を使って同じ要領で何重にも重ねる。
それによってニブルゲイトは端の方からゆっくりと閉じ始めていた。
よし……この調子でいけば、もうすぐ終わる……。
案外、楽勝だったな……。
そう安堵し始めた矢先だった。
ガギィィッ
糸を激しい震動が伝った。
「!?」
それは辺りの空気すらも振動させ始める。
「なんだ……?」
そう思った直後、縫製途中のニヴルゲイトの隙間から、巨大な黒い爪が顔を出す。
その黒い爪は前にも見た故、見紛うはずもない。
「……黒怒竜!」
奴に気付かれた!
しかも、縫製途中のゲイトに爪を掛け、無理にこじ開けようとしている。
「ルーク様!」
「ルーク!」
俺は縫製急いだ。
糸を引き、強く締める。
だが、相手は途轍もない力だった。
「くっ……くそ……このままでは……」
なんとか堪えようと糸を引き絞った直後だった。
ブチブチブチッ
と糸が連続して切れる感覚が手に伝わった。
「……」
その様に呆然としながら見上げると――、
黒怒竜の金色の眼が俺を見下ろしていた。




