34話 兆し
※前回までのあらすじ
ゲイツ達が洞穴に現れた!
俺達が身を隠してした洞穴に、突如ゲイツ達が現れた。
これにはエーリックも驚いた様子だったが、すぐに彼らの生存を喜んだ。
「おお、良くぞあの中で無事に……さあ、中へ」
彼に招き入れられた蒼の幻狼のパーティは、ぞろぞろと洞穴に中に入ってきた。
その際に、彼らは俺に対して意味ありげな一瞥をくれる。
俺は特に反応せず、やり過ごしたが、アリシアはムッとした表情を見せていた。
ったく……こいつらは悪運だけは強いよな。
別の言い方をすれば、生き延びる為なら全力でなんでもするような奴らだ。
彼らは、それも実力の内と言いそうだが。
しかし、彼らはこれでもAランク冒険者だ。
戦力としては、いないよりはマシか……。
「それで、この状況を打開出来る何かは見つかったのか?」
やって来て早々、ゲイツがそう尋ねてくる。
「いいや、それを今、考えている所だ。君達も何か良い案があれば出して欲しい」
エーリックがそう答えると、壁際にもたれていたラルクが「使えねえな」と言わんばかりに舌打ちし、ティアナは面倒臭そうに溜息を吐いた。
それにはさすがにエーリックも眉を顰める。
「それにしても、やけに静かですね」
ふと、隣にいたアリシアがそう呟いた。
そう言えば、さっきまで上空を頻りに飛び交っていた翼竜の羽ばたく音が聞こえない。
どういう事だろうか?
違和感を覚えた俺は、洞穴の外に出てみた。
朝が近いのか、辺りは薄らと明るくなってきている。
「おい、外は……!」
洞穴の中からエーリックの呼び止める声が聞こえるが、今は状況が変わっている。
空を見上げると、確かに翼竜の姿は見えなかった。
「ルーク様っ」
「アリシア、高い所から辺りの様子を探れるか?」
「はい」
慌てて俺の後を追ってきたアリシアにそう依頼すると、彼女は何の疑問も持たずに頷いた。
「但し、あまり高度をあげるな。慎重にな」
「分かりました」
彼女は羽ばたく音を出来るだけ抑えて、ゆっくりと上昇する。
だが、そのまま空まで舞い上がる訳ではなく、周囲で一番高い木の陰にひっそりと身を寄せた。
彼女は目を凝らし周囲を観察する。
それもしばらくすると、俺のもとへと戻ってきた。
「どうだった?」
「はい、あのニヴルゲイトというものの中に翼竜が次々と入って行く様子が見えました」
「なっ……ゲイトに戻る……? 何の為に?」
考えられる理由はいくつかある。
一つは目的を終えた、ということ。
二つ目は、ゲイトの向こう側に戻らなくてはならない理由があるということ。
三つ目は、そういう習性を持っているということ。
まず一つ目だが、奴らの目的が人を捕食する事にあるのなら、何か理由があるにしろ、また戻ってくるはず。ということは、それは考えにくい。
二つ目は、まず異界に戻らなくてはならない理由が多すぎて特定出来ないのが問題だ。
時間的制限がある、日光が苦手だ、一旦異界に戻ることで何かを得ている――など、可能性としてはいくらでも考えられる。
それを一つに絞ることは難しいだろう。
そうなってくると、三つ目の習性ということに落ち着かせるのが無難だろう。
無論、その習性の中に二つ目の理由が含まれている可能性は大だが、所詮、今の段階では特定は出来ないので、取り敢えずそういうことにしておく――という事だ。
「それで、肝心の黒怒竜はどうなってる?」
「姿は見えませんでした。恐らく、既にゲイト中に戻ったのかと……」
「……」
その会話を聞いていたエーリックが、洞穴から出てくる。
「それなら、この場を離れるのは今の内なんじゃないか?」
「駄目です」
「?」
すぐさまアリシアが否定した。
「ゲイトの近くに数体の翼竜が残っています」
「見張りというわけか……」
この森から離れ、アーガイル方面へ抜けるには視界の開けた平原に出るしかない。
どうあっても奴らに見つかってしまう。
そうなれば、翼竜が黒怒竜を呼び寄せないとも限らない。
森の反対側から抜けようにもギルゴア山脈が連なっている。
今の俺達の装備で山越えは難しい。
「少し考える時間をくれないか」
「それは別に構わないが……」
エーリックにそう伝えると、俺は少し離れた場所にある木陰に腰掛け、独り思考に耽った。
戦力は僅か六人。
荷物は全て馬車に置いてきてしまったから、道具や食料の類いは身に付けているものだけだ。
この状況で俺達に何が出来るのか?
そんな時、ふと何気なく、腰の革ポーチに手をやった。
「ん……」
上からなぞった僅かな膨らみで、そこに入っているものの事を思い出す。
「そうか……」
思い当たって中身を取り出した。
それは黒いウサギの人形。
魔導人形だった。
荷物を入れ替えた時に、こいつだけここに入れておいたんだった……。
運が良かったとしか言いようがない。
「大事に扱っておいて正解だったな」
こいつの中には一万三百二十一冊の魔導書が封じられている。
それだけの数の本があれば、中には一つくらい、この場を切り抜ける為の知識が見つかるやもしれない。
試してみる価値はあるな。
僅かな希望が見えた。




