Save3 バカかよ
お久しぶりです&お待たせしました!
「いやまぁそれはそうとさ、おにぃ」
「ん?」
「愛されてるね」
「うっせ」
ニマニマと実にイラつく表情で覗き込んでくる琥白。
「……ここがゲームだったらいいのにね」
「……ほんとにな」
一瞬切なげな表情に変化したのを、八雲は見逃さなかった。
今の琥珀の言葉に含まれた意味。それはおそらく、八雲たちの状況だけを指しているわけではないだろう。
琥珀はブラコンとまではいかないが、兄である八雲をかなり慕っている。なので、八雲には幸せになってもらいたい。それは今後絶対に変わることのない琥珀の根幹。
しかし同時に、琥珀の中には兄以外にも大切な人はいる。それは例えば、未来や薫やさくら。兄の幸せを願うとともに、彼女たちにも最高の幸せを手に入れてほしいと思っている。
けれど、八雲が幸せになるためには、大切な人が傷ついてしまう。仕方ないことだとはわかっていても、感情はどうにもならない。
だから、今の発言だ。現実ではなくゲームなら。そこならば誰も不幸になることなく幸せになることができる……
「……母さん」
「……」
琥珀の言葉を聞いて決心した八雲は、母に話しかけた。八雲の声音を聞き、何を感じ取ったのか、母も真剣な雰囲気を瞳に宿らせ、八雲を見つめ返す。
おそらく、というかほぼ確実に、八雲が何を言い出すのか、何を望むのか、理解しているのだろう。その瞳には、僅かながら諦観も含まれているように見えた。
「やっぱり俺、まだゲームしてたい」
「……」
「頼む。お願い。俺に、またゲームをやらせてください──」
八雲は頭を下げた。下げた。ついには土下座にまで達する。それほどまでに、八雲はゲームをしたいのだ。
普通の人からすれば馬鹿げたことなのかもしれない。ゲームにそこまで熱くなるだなんて。
でも、八雲はそうは思わない。好きになったから。好きになってしまったからこそ、熱を注ぐ必要がある。ましてやそれが、自分の人生にとってとても重要なものだとしたら、なおさら。
「私からもお願いします、お義母さん」
「お願いします」
「……ん」
八雲に続いて、未来、薫、さくらも頭を下げる。
『妾からもお願いするのじゃ。こうして画面越しで会うことはできるが、やはり直接会いたいのじゃ』
今まで黙って聞いていたクレアが声を発した。テーブルの上に置かれた八雲のスマホの中で、涙を浮かべながら懇願する。
その姿を見た琥白は、特に何も言わず、母を見つめ続ける。母の判断に従うということだろう。
「………………はぁ。顔を上げなさい」
永遠にも感じるほどの短い時を経て、母はため息とともに小さな笑みを浮かべた。声音も心なしか柔らかいような気がする。
「わかりました。ゲームをすることを許可します」
その言葉を聞き、八雲たちは満面喜色をたたえた。
「でも」
語気を強めに発された次の言葉に、思わず背筋が伸びる。
「次はありませんからね」
何か制限を課せられるのかと思っていた八雲は、拍子抜けした。
「それだけ?」
「そうよ。だって八雲、制限しても穴を突くじゃない。制限の意味がなくなっちゃうでしょ? だから次はないって布石を打っておけば大丈夫。違う?」
完全に読まれていた。
八雲は確かに、どれだけ制限を課されようとも必ず穴を見つけ出して自由にやるつもりだった。
しかしさすが母と言ったところか、そんな八雲の考えはお見通しだった。故に、今を制限するのではなく未来を制限した。
「……次なんてないことを願うけどな」
「ならゲームやめる?」
「やめない」
日が明けた。いろいろあって忘れそうになるが、今日は日曜日。AWOにもう一度入り、クレアを連れ出し、未来たちが家に来て母と話し合い、これからゲームをしてもよいという許しが出たところまでが昨日の出来事。さすがに濃ゆい一日だった。
「ゲームするか」
「早速かよ」
それは八雲の部屋。休日で特に何も用事がなかった琥白は、暇つぶしに八雲の部屋に来ていた。と言っても目的は八雲と話すことではなく、クレアと話すこと。
クレアが琥珀のスマホに入れば、琥白の部屋でも話せるのだが、わざわざ八雲の部屋まで出向いたのは、琥白なりの気づかいだ。
「おにぃ、ゲームにトラウマ持ってるってこの前言ってなかった?」
「おま、聞いてたのか……」
「聞こえてきたんだよ。んで、どうなのさ?」
「確かにあの時はトラウマがあったんだけどな」
「あの時は?」
「今はない」
「どうして?」
「知らね。一回やったからじゃね?」
「トラウマを乗り越えた、と」
「そうそうそんな感じ」
「バカかよ」
「ひどくね?」
クレアも飽きれて首を振っている。
「とりあえず未来たちにも聞いてみるか……」
「あの時が例外なだけでもうできないんじゃない?」
「おっ、許可が出たらしい」
「何やってんのさ親は」
八雲の姿を見て、自分たちも続かなければと決心した未来たちが、必死に説得した末にやっとのことで許可が出たのだが、そんなことは琥珀の知るところではない。
「琥白はやる?」
「流石にパスだよ。そもそも行ってどうするの」
「遊ぶ」
「そりゃあゲームだからね。でもおにぃ達めっちゃ強いじゃん。楽しい?」
「神様に頼めば楽しくなるでしょ」
「NPCからすれば全然楽しくなさそうな遊びだね……」
今まで平穏無事に暮らせていたところに、突然前代未聞の力を持った魔物が現れるのだ。湧く感情は歓喜ではなく恐怖以外の何物でもない。
「クレアは一緒に来れるのか?」
『こっちに来れたのだから逆もできるじゃろう』
「それもそっか。未来たちに入ること伝えて一足先に行きますかね」
『少しの間二人っきりなのじゃ!』
「じゃ琥白、また後で」
「気を付けてね、おにぃ」
「おう。──ダイブ・イン」
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