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Save2 なんて言わない

「──今後の事は、どう考えているのかしら」


 それは、八雲にも問いかけた問い。

 今は全員が八雲を愛し、八雲も全員を愛しているから何ともない。

 けれど、本人たちはよくても国は許さない。この国で重婚は認められていない。

 息子である八雲はよくても、娘である彼女たちの親はどう思うのか。

 これら全てを、母は問うていた。


「……正直、これからの将来のことは全く考えていません」


 最初に口を開いたのは、未来だった。


「けれど、どんな未来になろうと、私は八雲君のそばにいたいと思っています」


 決意の籠った眼差しで、母を見据える。


「私も、将来のことはわかりません」


 未来に続くように薫も話す。


「だけど、少なくとも、八雲と離れることだけは、絶対にしたくないと思っています」


 覚悟を決めた眼で、母を見つめる。


「……これからのことは、わからない」


 さくらが口を開いた。


「……この国は、一人としか、結婚できない。……でも、裏を返せば、一人とならば、結婚できる。……私は、その一人を目指すだけ、です」


 力の籠った瞳で、母を見つめ返す。

 三人から圧が込められた視線を受け、しかし母は動じた様子はない。

 クレアが何も言わないのは、関係ないからだ。三次元に体を持っているわけではないので、この国の制約に干渉することはない。クレアはそのことに若干不満を感じているが、今口出しすることではないとわかってるので何も言わない。


「そう……大人としては、高校生なんだから先の事を見通してしっかりと考えなさい、と言わなければいけないのだけれど。でも、今は良いわ」


 未来、薫、さくらの三人がほっと一息ついたことがわかった。緊張した空気が弛緩した。

 と、そこへ足音が一つ。


「あ、もう来てたんだ」


 琥白だ。部屋から出てきた琥白は、リビングへと足を踏み入れた。

 未来たちと挨拶を交わし、母の隣に座った。


「まだお話し中?」

「ううん、今一区切りついたところ。琥白も何か聞きたいことあるの?」

「う~ん……もし、おにぃが誰かと結婚したとして、その後どうするの?」


 母に尋ねられた琥珀から出てきた質問は、母と同じような内容で、母よりも鋭く切り込んできた。


「まさか、諦めきれないから独身を貫く、なんて言わないよね」

「「「……」」」


 沈黙が続く。

 先ほどはこれからのことを聞かれただけだが、琥白はこれからのその先を聞いていた。八雲が誰かと結婚して、妻帯者となったら、残されたあなたたちはどうするの?と。


「わ、私は……やっぱり、諦めきれないです」


 最初に口を開いたのは、未来だった。八雲が自分以外の誰かと結婚する、という仮定未来でさえ考えるのが嫌なのか、苦虫を噛み潰したような表情で、琥白に言った。


「……私も、無理」


 次はさくらだった。未来ほどではないが、さくらも自分が八雲の妻にならない未来を考えたくないのだろう。


「私は諦めるわ」


 最後に薫だ。薫だけは、他の二人とは違う意見だった。


「もちろんすぐになんて無理よ。でも、いつかは諦めないといけない。そうしないと八雲に迷惑がかかるから。それに、もし八雲のとなりにいるのが私じゃなかったなら、私はヒロインレースに負けたってことでしょ?それなのに諦めないとか、かっこ悪いじゃない」

「確かにそうですけど……」

「どーせゲームはずっとやってるんでしょ?ならゲーム友達でいいじゃない」

「……薫?」


 なにかを感じたのか、さくらが薫の顔を覗き込む。それで納得がいったのか、さくらは一呼吸置くと、


「……やっぱり、私も諦める」

「さくらちゃん!?」


 同じ意見だと思っていた仲間が突然寝返った。そのことに驚きを隠せない未来は声を張り上げて言い募る。


「八雲君に奥さんができたくらいで簡単に諦められるほど、さくらちゃんの愛は軽いんですか!?」

「……違う」

「じゃあなんで!」

「……ふぅ」


 さくらが長く息を吐いた。饒舌になる合図だ。


「あのね、私の八雲への愛はそんな軽くないし小さくもない。でも、だからこそ自分が選ばれなかったら潔く諦める方が八雲のことを考えたら最善だと思うの。それに、選ばれる努力をその人は自分以上にやったってことだから、その人が勝つのは仕方ない。自分の努力が足りなかっただけ」

「でも!」

「でもじゃない。本当に八雲が好きなら、自分のことだけじゃなくて八雲のことも考えて」

「……」


 遂に未来は押し黙ってしまった。


「あの、さ」


 ここで八雲が口を開いた。全員が注目する。


「俺が結婚しないって案は……だめですよねハイ」


 確かに、八雲が結婚しなければさっきみたいに揉めることもないし、現状維持で最高とは言えないけれど決して小さくない幸せを手に入れることができるはずだ。

 しかし三人の気持ち的には八雲と結婚したいわけで。そんな彼女たちの気持ちすらわかっていない八雲は冷たい視線にさらされることになった。


「ま、将来のことはお楽しみにしとくってことで!」

「楽しむなよ……」

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