自称神が遊ぼうと言ってきたので相手をすることにした。
出来れば評価をお願いします。
満月の夜。
其処は何時もの見慣れた自分の部屋の筈だった。
じくじくと痛む手をさすりながら外を見上げると開けた窓から満月が見える。
「狂犬病で無いだろうな~~あの野良犬は」
野良犬に噛まれた傷をさすりつつ満月を鑑賞していた。
モグモグと月見団子を喰いながら。
秋の風が幾つもの小さな雲を運んで月を包んでいた。
今宵は月見酒と洒落こみながら遊ぼうかと思い冷蔵庫に伸ばそうとした手を止める。
何かが居た。
満月を背に何かが居た。
思わず僕は虚空に浮かぶ其れに手を伸ばす。
「おっ?」
ガシッ! と、握りしめる。
思ってたのと違う感触だ。
思わず何度も握ったり開いたりする。
「ぐがあああああっっ!」
当然そうすると僕が掴んでる物が縮むのは当たり前の事だ。
物。
物体は悲鳴を上げた。
いや此れって物なのか?(困惑)
謎の物体と言うべきかな?
生物とは思えないけど……。
悲鳴を上げてるし……。
でも見た目は物だし。
謎の物体でいいだろう。
「は……離してくれないかな~~」
「ああ——……御免な」
僕は困惑しながらも知らずにアイアンクローをしていた謎の物体を離す。
「それで謎の物体……だよな?」
「おぬし吾輩に此の仕打ちをしておいて酷くないかっ!」
僕の言葉に憤慨する謎の物体。
「いや……生物に見えないし……物にしか見えないぞ……」
「そうであった吾輩は今は封印されてる状態だった……」
僕の言葉に落ち込む謎の物体。
「それで御前は何なんだ?」
「うむ吾輩は神であるっ!」
「はいはい、ワロスワロス寝言は寝て言え」
「むきいいいいっ! 腹が立つこの人間っ!」
「でも御前見た目は唯の物じゃん」
「そうだった~~」
目の前で落ち込む自称神様
「それはそうと痛かった~~」
「ああ~~うん御免ね」
ふう~~と溜息をつく自称神様。
結構痛かったみたいだ。
自称神様。
神を名乗るそいつは明らかに人ではなかった。
服が奇抜だったからではない。
此れは奇抜と言うべきか?
全身を一枚の布で覆い紐のみで首に締めているね。
そんでもって顔に当たる部分に、へのへのもへじ書いてある。
——……かなり下手な字だ。
布は薄汚れた黄色で性別は男だろうと思う。
……声で判断するならだが。
でも此奴明らかに外見がテルテル坊主だよっ!
唯の謎の物体だよっ!
何処が神様だよっ!
テルテル坊主は何でかクックッと面白そうに笑っていた。
「君……本当に見えているんだね吾輩の姿が……」
「見えるのが普通だろう? 目の前に居るんだから」
「吾輩を見れるとはね……」
神と言う言葉に僕はジト目で見る。
「あ~~君本当に人間? 吾輩を直視して平気だしアイアンクローまでするし」
「何でそんなことを聞くのさ?」
「少し気になってね……」
「普通はどうなるのさ?」
「認識できない」
「は?」
自称神様の言葉に僕は首をひねる。
「正確に言えば常識を超えた物を見た者は己の心を守るために見えないことにする」
「はあ~~」
僕は言葉の意味が分からず曖昧な返事をする。
「もし仮に無理に見ようとすれば精神が壊れ発狂する」
「なあっ!?」
僕の口から驚愕の言葉でる。
「筈なんだがな~~おかしいな~~」
「おい」
「普通は吾輩の姿を見れるのは精神的にタフな人外の者なんだけど~~」
「僕は人間なんだけど……」
僕はジト目で首をひねる自称神様を睨む。
「そうなんだよね~~人の子よ近親者に人外の者が居ないかな?」
「いるわけないよ」
「だよねー」
「当たり前だよ」
「う~~ん……どうも君はどうも特別らしい」
「本当かよ……」
呆れて力が抜ける。
「うん?」
「どうした?」
ふんふんと僕の周囲を回りながら何故か匂いを嗅ぐテルテル坊主。
何だよ?
何か匂うのか?
思わず自分の服の裾に鼻を近づけ匂いを嗅ぐ。
多少獣臭いが別に臭くないよな?
「なるほど~~なりかけか~~道理で……」
「なりかけって何がっ?」
何やら一人で納得している自称神に僕は疑問をぶつける。
「此れを飲め」
僕の言葉を聞かず虚空から妙な色をした粉末が入っているガラス瓶をヒョイと投げる。
思わずそれを受け取る僕。
「劇薬だから扱いは難しいが大丈夫だろう」
「此れは何だ?」
僕は渡されたガラス瓶の中にある粉ををしげしげと見ながら自称神に問いかける。
「まあ~~治るかどうかは分からないが飲まないよりは良いだろう」
「人の話を聞かないな~~まあいい、それで此れは何の薬なの」
人の話を聞かない自称神を呆れた目を向けながら薬のの事を聞く。
「トリカブト」
「殺す気かあああああっ!」
自称神の発言に僕は部屋の窓をガラリと開け外に投げ捨てる。
あぶね~~思わず飲むところだった。
背中に嫌な汗が流れたよ。
「ああっ!? 吾輩の好意を無にするとはっ!?」
「己は好意で毒殺する気かっ!」
嘆く自称神に僕は怒鳴りつける。
何考えてるんだ此奴はっ!
「吾輩の好意を無にするとは~~仕方ない後で後悔しても知らないからな~~」
「いや毒殺されかけたのに何で好意さのさ」
僕は呆れた目を自称神向ける。
「まあいいや此れから自分と遊ばないか?」
行き成り話が明後日の方に飛んだ。
ズルリと僕はコケる。
「突然だなっ! 話しの展開がおかしいし意味が分からないのだがっ!」
「丁度良いことに吾輩が作ったテーブルトークゲームがあるから遊ぼうっ!」
「話を聞けやっ!」
僕の叫びを全く聞いてない自称神。
分からない。
此奴本気で分からない。
本気で何を考えてるのか分からない。
「いや~~楽しみだな~~人の子と遊べる日が来るなんて~~♪」
「だから人の話を聞けやっ!」
この会話が成り立たない自称神様。
本気で頭が痛いな……此奴は……。
「あ~~」
「なあ~~やろう」
「ああ~~」
「やろうよ~~」
頭を抱える僕に遊ぼうと訴える自称神。
何だろう此奴。
もう頭が痛い。
「やろうよ~~やろうっ! なっ!」
「しつこいなあああっ! やるよっ! やれば良いんだろうっ!」
しつこい自称神に僕はやけ気味に返事をする。
「やったあああっ!」
「はあ~~」
喜び空中でクルクルと踊る自称神の様子に僕は溜息をつく。
ああ~~厄介なのに関わったな~~。
見なかった事にした方が良かったな~~。
好奇心に負けた自分が恨めしい……。
「あ~~遊ぶのは良いけどテーブルトークゲームって何?」
「フベッシッ!」
僕の疑問の言葉に自称神は落下し畳に頭部をぶつける。
あ……少し溜飲が下がった。
「知らないのおおおおおっ!」
「知るわけないだろ初めて聞いたんだし」
自称神の剣幕に僕は引きながら答える。
「ああ~~まさか知らないとは……」
「悪かったな」
「まあ~~仕方ないか~~知らない人がいても不思議ではないか~~」
「悪かったね」
「仕方ない説明するよよく聞いてね」
テーブルトークゲームとは通称ダンジョンズ&ドラゴンを発端としたボードゲームの総称だ。
ゲームマスターと呼ばれる人間がシナリオを進行させプレイヤーと呼ばれる人達がワイワイ話しながら自分達が作ったキャラを動かして遊ぶボードゲームの総称だ。
その際にダイスは重要な役割を担う。
様々な行動の判定をする場合やキャラのステータスを決めるために様々な多面ダイスを使う。
かなり怪しい説明だが許して欲しい。
「何で?」
「話の腰を折らないで」
吾輩が最後にテーブルトークゲームをやったのは二十年前だからだ。
しかも社会人になってからだ。
学生時代はボッチだったんで友達は居ませんでした。
「神に学生時代とか社会人とかあるのっ!?」
「え? 何言ってるの? 普通にあるよ。そうでないと読み書きとかできないし御金も稼げないよ?」
頭大丈夫?
そんな風に見られた気がする。
テルテル坊主の学生時代?
社会人だと?
想像できない……。
「—―というか虐められてました」
ドヨ~~ンと、落ち込む自称神。
「そうかい」
僕は現実逃避する。
神様にも虐めがあるんだ……。
「話を続けて良い?」
「ああ~~待て」
僕は頭痛がするのを堪える。
「何?」
「テーブルトークの説明だろうっ! さっきので終わりだろうがっ!」
「そうだな~~」
「テルテル坊主の生い立ちは関係ないだろうっ!」
「え~~聞いてよ~~ついでに~~」
「ついでもくそも無いだろうがっ!」
「テーブルトークゲームに出会った感動を誰かに共有して欲しいんだ~~」
「聞きたくねえよっ! そんな話はっ!」
「いいじゃない~~吾輩聞いて欲しいんだ初めての友達には」
「友達?」
僕は其の言葉に固まる。
友達だと……。
「そうだよ一緒に遊ぶなら友達だろ?」
「お……おう……そ……そうだな友達なら聞いてやろう」
僕は照れながら続きを促す。
友達か~~。
良いな~~。
人生初の友達か~~。
ま……まあ~~良いか時間は有るし。
「じゃあ~~聞いてくれる?」
「おう」
虐められている奴が取る行動は二つ。
現実に立ち向かうか或いは逃避するか……。
我輩は後者。
漫画に小説とゲームで現実を逃避していました。
そうして本屋やゲーム店に通ってたら直ぐに限界が訪れる。
当たり前だ。
本屋は立ち読みをすれば長く続くが、やがて読みつくす。
或いは店員に嫌な顔をされる。
ゲームソフトは高価だ。
特に学生にとっては。
しかも当時はファミコンが世間一般に出始めたばかり。
学生の小遣いは、たかが知れている。
ファミコン本体を買うのに御小遣いを溜めれば何ヶ月か単位で時間が必要だ。
バイトという手もあるが実際にやるとなれば新聞配達しかない。
早起きはキツイし道を覚えなければいけないしハッキリ言えば馬鹿みたいだ。
しかし吾輩はどうしてもゲームが欲しかったので新聞配達をしたが一年で辞めた。
理由は簡単だった。
折角苦労して買ったゲームを親に取り上げられたからだ。
理由は毎日何時間もゲームをやっていたからだ。
ゲームに夢中だったのも理由だが現実逃避の手段として使っていたからだ。
その光景を親が見ればどうなるか分かり切った事だった。
かくして吾輩は一番の現実逃避の手段を失った。
そうなると吾輩は現実逃避の手段として漫画や小説に打ち込んだのは仕方ないと思う。
勉強と言う手段もあるが吾輩には無理だった。
理由は簡単だ。
どんなに勉強しても覚えきれないし理解できない。
そんな時だった。
テーブルトークゲームにあったのは。
正確にはその存在を知ったのはだが。
その存在を知ったのは、とある小説だった。
【ガーネット島戦記】
父に汚名を着せられた若い自称騎士が仲間と共に島中を冒険するという話だ。
その過程で汚名を着せられた父の真実を知りやがては島を揺るがす事件を解決していく冒険もの。
やがて名声を高めやがては英雄になる小説だった。
それに出会うまで本格的な剣と魔法のファンタジーなど知らなかったので直ぐに夢中になった。
だけど問題が有った。
細かい描写が有るが魔法の事が理解ともいうできなかったのだ。
或いは魔術とも言うべきか……。
正確に言えばファンタジーにおける専門用語ともいうべきだろうかな?
「神なのに魔法の存在を知らないって……」
「神と魔法は別物っ! 知らなくて当然っ!」
「おう分かった……続きをどうぞ。よろしくお願いいたします」
「分かればいいの全く……」
例えば【ファイヤーボール】。
物凄く簡単に言えば魔力を火の玉を作る攻撃魔法だ。
今なら分かるが当時は分からなかった。
魔力とは何か?
魔法とは何か?
全然わからなかった。
当然だ。
当時は剣と魔法のファンタジーは新しいジャンルだったからだ。
其処で吾輩は現実にあった魔法を参考にしようと思い本屋に頼み資料を揃える事にした。
それらを読んで魔法の事を理会しようとしたのだ。
だがそれは失敗だった。
更に混乱する羽目になった。
資料に書いてあったのは、おまじないや黒魔術の類だったからだ。
知りたいものとは別物だったのだ。
それは。
其処で暫くしたら漫画で剣と魔法のファンタジーを題材にした物が連載されていたので今度は其れを参考することにした。
更に混乱することになるとは思わずにだ。
その漫画のタイトルの名前を教えよう。
【ウィザード】
連載された漫画のタイトルは此れだ。
世界征服を企んだ古の邪悪な魔法使いが復活するが育ての親であり義理の姉に頭が上がらず自分が住んでいる国を、かつての味方から守らなければならない羽目になる話だった。
その話の中で【ファイヤーボール】は出てくるがその種類の多さが原因だった。
正確には全てが【ファイヤーボール】ではなく炎系統の魔法なのだが当時の吾輩は知る由もない。
全て同じように見えたからだ。
最後には別の漫画や小説で魔法の存在が出てくるが、それでも理解できなかった。
当然だった。
これらの作品は魔法の存在を理会している者を対象としていたからだ。
だから吾輩は魔法の存在に理解できなかった。
この時までは。
理解できる様になったのは更に時間が経ってからだ。
そのきっかけは一冊の本だ。
【剣と魔法のファンタジーにおける魔法辞典】
タイトルはこんな名称だったと思う。
最早手元に無いのでタイトルは完全には覚えていない。
各魔法の説明を分かりやすくしたものだ。
前半は小説風にどんな状況で使われたか書いてあった。
途中ではどんな効果が有るか? という事が説明されていたな。
それで吾輩は完全に理解できた。
魔法という存在を。
そして最後に各魔法はどの作品に出ているか書いてあったのがキッカケだった。
テーブルトークゲームの存在を知ったのは。
ダンジョン&ドラゴン。
コカトリス&トールギス。
ダンジョントラベラーズを楽しむ。
クトゥルフの呼び声。
そしてテーブルトークゲームでは異色作が有った。
【魔獣戦記】
剣と魔法のファンタジーでありながら大胆に人化した魔物をプレイヤーにした異色作。
剣と魔法のファンタジー。
但し魔法は過去の出来事が原因で忌み嫌われている。
舞台となる場所は剣や通常の手段では対抗できない存在が跋扈する所だ。
【デウスエクスマキナ】
機械仕掛けの神々。
古代そう呼ばれる存在が各地に存在する世界だ。
まあ~~機械仕掛けの神々といっても対抗手段が無いわけではない。
但し普通の手段では対抗できない存在というレベルだ。
強大な力を持つ機械仕掛けの神々に対抗するため人は魔法に頼ることにした。
だが事態は好転しなかった。
魔法でも対処できない存在もいたからだ。
或いは魔法を使える者が少なかったのも原因の一つだ。
更なる対策として機械仕掛けの神々に打ち勝つ存在を生み出した。
それが魔物。
錬金術と魔法で作られた生物兵器。
それが魔物。
大型の魔物は強力な機械仕掛けの神々匹敵する存在だ。
人の最後の希望。
それが魔物だった。
だけど時間が無く追い込まれた人は制御が完全に出来てない魔物を戦線に投入した。
その結果は機械仕掛けの神々に勝利することが出来た。
但しその見返りに魔物が今度は暴走する羽目になることになる。
今度は魔物が敵になっのだ。
幸いだが魔物は機械仕掛けの神々とは違い魔法に頼らなくてもいい存在だったのが救いだった。
この件で魔法使いは忌み嫌われる存在となった。
結果的に世界を救えたのに。
魔物の中には自我が芽生え人化し人の世界に紛れ込んで暮らしている者も居る。
中には冒険者となり同じ存在を討伐している者も居た。
それがプレイヤーだ。
プレイヤーは冒険者となり様々な事件を解決していくのがこのゲームの楽しみ方だ。
基本セットは専門店かと専門雑誌を読んで取り寄せするのが主流である。
学生の時は流石に金銭面の関係で買えなかったのが、社会人になってから拡張版ごと買いそろえた。
そのついでにシナリオ集も、揃えることにした。
そうして吾輩は意気揚々と一人でキャラクターシートを複数コピーする。
シナリオ集を開いて十面ダイスを三個握りしめた……。
そう一人で……。
……。
………。
……………。
「本当に友達が居ないのか?」
「……」
無言で頷く自称神に僕は憐れみの目を向ける。
「まさか興味のある友人が集まらないとは思わなかったな~~」
「一応友人は居るんだな」
「一応……脳内に」
「それ……友人とは言わないぞ」
「……」
無言の自称神の肩を軽く叩く。
何か泣いてる気がするよ此奴……。
無言で月見団子を渡すとそれを食べる自称神。
パクパクと見えない口で月見団子を食べてるよ。
虚空に消えていく月見団子。
口……何処に有るんだろう?
「しかし生まれてこの方テルテル坊主に間違われたのは初めてだな~~」
誤魔化したよ此奴。
自称神は何処からか紙の束を取り出す。
「何だそれ?」
「吾輩御手製のテーブルトークゲームのシナリオ集だ」
「ふ~~ん」
「一応ゲームは魔獣戦記だ」
「ほう」
「既に基本セットと拡張版に十面ダイスは揃えてる」
「用意周到だな~~」
「当たり前だっ! いつ何時出来る機会が有るか分からないからなっ!」
「どれぐらい持っていた?」
固まる自称神。
「三年です」
その間誰とも出来なかったんだろう。
物凄く落ち込んでるよ自称神。
「ま……まあ良いじゃないか、こうして出来るんだし」
「そうだなっ! ではキャラクターシートを制作してくれ」
「お……おう……作り方を教えてくれ」
「そうだな~~」
そうして制作すること暫し。
「ふう~~出来た」
「ほう~~ダイスの目が良いな中々のステータスではないか」
「そう?」
「そうさな~~それでクラスはどうする?」
「そうだな~~此処は魔法使いにする」
「フムフム……他のスキルはどうする?」
「特殊な専門クラスで使うスキルは他のクラスでも習得出来るけど完全に極められないからな~~」
「まあ~~魔法とかな」
基本セットを見ながら自称神は頷く。
「なら魔法使いが持ってる基本スキルと他の一般スキルが良いだろう」
「ほう~~」
「僕が選んだ魔法使いの属性は水。基本として持ってるスキルは植物学……なら医術を習得するよ」
「ほう……考えたな確かに魔法使いは神聖魔法を使えない」
「まあね」
「代わりの回復手段としてポーションを作成できる医術を取ったか……」
後は習得魔法なんだが習得ポイントが八しかない。
この世界では魔法を習得する方法は四つ。
まず最初にレベルを上げて習得ポイントで覚える。
二番目にマジックアイテムに込められてる魔法で覚える。
三番目に他人から教わる。
最後は他人のを強奪の魔法で奪うだ。
今は初期なので最初しか選択できない。
なので六種類しか習得できなかった。
まあ~~いいか。
効果の説明は……後で見るか……。
自称神のお勧めだし。
「まあ~~こんなものか初期の装備は基本セットに医療カバン短剣に革鎧と革兜かな」
「まあ~~そんなものか~~しかし武器を使ったスキルが無いのがキツイな」
「戦うなら魔法があるだろう?」
「人前で使えないぞ? 国によっては使った瞬間殺されても文句は言えないし」
「何それ怖いんだけど……」
「昔の魔法使いの所為だな、その代り神聖魔法は普通に使えるが」
「贔屓だ」
「まあいい……魔法のような特殊なスキルは習得期間が長く条件が難しいからな他のは短期間で習得できるから後で覚えればいいだろう」
「そうですか」
「では始めるか」
「おう……でも本当にプレイヤーは僕一人なの?」
「仕方なかろう吾輩の友達には連絡したが此処に着くまで二時間ほど掛かるといったろう」
「なら二時間まてば友達が来るんだろう」
「正気か? 今は夜の六時だぞ、それからやれば恐らく徹夜になるぞ」
「あ~~そんなにかかるの?」
「当たり前だテーブルトークゲームは時間が掛かる朝早くやって深夜までというのが普通だ」
「うわ~~」
「吾輩の能力なら短時間で済むとは言え長時間には変わりない」
「あ~~それは本当に出来るの?」
「吾輩に不可能は無いっ!」
「友人は居ないけどね」
「……」
僕の言葉に落ち込む自称神。
少し言い過ぎたかな~~と思う。
さっきは脳内友達発言に付き合ってあげたんだ此れぐらいの戯言は聞き流して欲しい。
「まあ~~気を取り直していくか」
「何かすまん」
何か泣きそうな感じの自称神に対して流石に罪悪感が込み上げてきたから謝る。
「さあ~~遊ぶか」
あ……誤魔化した。
「さあ~~て始めるぞ」
「ああ~~ちょい待ち」
「何?」
「此のキャラクターシートとダイスの使い方が分からないんだが……」
「まず最初に……」
「どうした?」
「いや此ればっかりはやりながら遊んだほうが分かりやすいだろう」
「そうか?」
「おいおい説明しながらやろう」
「まあ……それで良いならいいけど」
「では始めるぞ。君は冒険者になる事に憧れ住み慣れた隠れ里を離れ近くの街にその足を進めた」
その時だった。
異変が起きたのは。
「え?」
戸惑う僕の目の前でウゾオオ~~と、畳から草が生えはじめる。
「何が……」
異変はそれだけでは無かった。
僕はあまりの異常事態に慄き尻餅をつき態勢が崩れる。
すると見慣れた部屋の天井が薄れ見渡す限りの晴天が視界に映る。
深夜の筈なのに見るも眩しい太陽が其処にあった。
雲一つない青空。
本来この時間では見られない光景だ。
「どうして?」
動揺し視線を正面に向けると鬱蒼と茂る木々が広がっていた。
思わず手に力がこもる。
ブチリッと草が千切れる音がしたので慌てて目の前に持ってくる。
プンと青臭い香りがする。
「本物だ!? 何でだ?」
先程まで自分の部屋に居たのにまるで別の世界に跳ばされた様な状況に僕は驚いた。
『驚いたか』
「ヴぇ!?」
突然頭に響く声に僕は驚く。
辺りを見回しても自称神の姿は無い。
何でだ?
『これぞ吾輩が開発した少人数でもテーブルトークゲームが出来る方法だ』
「ヴェエエエエエっ!?」
驚きのあまり僕は顎が外れそうなほど驚愕の声を上げる。
「な・な・何だ此れはああああっ!」
『驚いてるな~~こう見ても吾輩は創造神の端くれだからな此れぐらい朝飯前だ』
あれ~~? 想像以上に物凄い神なんですけど?
ヤバイ物凄く失礼なことをしたけど……どうしょう?
いやな汗が流れる。
『まあ~~四級仮免練習中なのだが』
何か一気にありがたみが薄れた。
『その応用で物凄くリアルな仮想現実が出来ると思ってくれ』
「……」
完全にありがたみが無くなりました。
この真に迫る光景が安っぽい物に変わった瞬間だった。
まあいいけど。
でも此れはテーブルトークゲームと言うのかな?
僕は内心首を捻る。
こうして僕はお試しとして近くを散策した。
途中で発見したアケビに似た木の実に舌鼓を打つ。
見たことも無い光景。
不思議な動物。
奇怪な虫。
異様と言える木々。
その全てに僕は目を奪われた。
その途中で僕はダイスを使った行動判定の仕方を習いながら楽しんだ。
その時だった。
目の前に異形の動物を見たのは。
それは一見豚にも見えた。
大きくデップリと肥えた体。
所々生えてる毛。
そして極めつけだが木の棍棒を持ち人間の様に立っていた。
「はい?」
「フシュウ~~~フゴフゴ?」
思わず僕は呆気にとられた。
テレビで見たことのある豚。
それが何故か棍棒を持って立っている。
その姿は一見妙な愛らしさを持ちつつ異様な不気味さを感じさせた。
『不味い逃げろオークだっ!』
「え? え? え?」
僕は当惑して棒立ちになる。
ゆっくりとオークは此方に歩いてくる。
フシュウ——……と糞尿にも似た異臭がする。
「フゴオオオオオッ!」
「え?」
気が付いたら僕の見えている景色が斜めになっていた。
何で?
どうして?
そう思った瞬間地面に叩き付けられていた。
「ヴァアッ!? 痛い痛い痛い痛いいいいいいいっ!」
思い出したかのように側頭部が異常なまでに痛い。
まるで昔バイク事故で怪我をした時の様に。
ガンガンと痛みがする。
耐えられない。
鼻水と涙でグチャグチャだ。
その場から立ち上がろうとして逃げようとしたが足が動かない。
自分の意識とは別に頭がクラクラする。
体も動かない。
力が入らない。
脳震盪だ。
脳が揺れて体が動かない。
何で?
何で?
此れは仮想現実みたいなものだろう?
何で痛いんだ。
『あ~~逃げ遅れたか不味いな~~』
何処か自称神の言葉は気楽だ。
「何で?」
『痛いんだって? 当然さ』
「何で何で?」
『限りなく現実に近い仮想現実みたいなものと言っただろう』
「痛い痛い痛い」
『だからね痛みも限りなく現実に近いだ、だからね……』
僕は自称神の言葉が聞こえない位混乱していた。
『此処で大怪我をすると本当に死ぬよ』
這いずって逃げようとする。
だけど背後から砂利を踏みしめる音がした。
刻一刻と近づく死の気配に僕は顔を引きつらせる。
『ヴァアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」
僕の喉から悲鳴が出ている。
そんな他人事のような事を考えている僕が居る。
何処かで肉が潰れ固い物が砕ける音がした。
視界がプツンと途切れる。
まるで昔のブラウン管テレビの様に。
こうして僕は死んだ。
筈だった。
「で……何なのあの糞ゲーム」
「いたあああああああっ!」
何故か生きていた僕は元の自分の部屋で自称神にアイアンクローをかけていた。
毛深い手で。
僕の顔が憤怒で歪んでいるのは分かります。
「い……いやあ~~ゲームをリアルにするために痛覚を本物に近づけてみました」
「やりすぎだあああああっ!」
「いやああああああっ!」
「それに下手すれば死んでるぞっ!」
「いや実際ショック死しました」
「じゃああ何で生きてるんだよおおおおおっ!」
「いああああああっ! 理由は鏡を見れば分かりますっ!」
やっぱりか~~。
僕は観念して窓に映った自分の姿を見て納得する。
そこに居たのは全身を動物の毛で覆われた僕の姿が映っていた。
アレである。
狼だ。
しかも見慣れた服を着た直立した狼。
狼男だ。
「何で僕が狼男になってんだよっ!」
「知らないよっ! 大方狼男に噛まれたんじゃないの!?」
「此れで助かったのかっ! でも明日からどうするんだよっ! 仕事に行けないぞ僕!」
「頑張れ」
「何とかしろおおおおおっ!」
「無理ですよ其処まで進行したらっ! だからトリカブトを上げたのにっ!」
「何でさっ!」
「特効薬なんです別名ウルフザスペイン、狼男に効く薬なんです」
「早く言えええええっ!」
「聞かなかったじゃないですかああああっ!」
「普通は分かるかっ!」
「だから後悔しても知らないと言ったのに」
「キチンと説明しろやっ!」
「いやああああああっ!」
最後に僕は思いっきり力を込める。
凄く縮みました。
自称神が。
何で自称神が見えるようになったか理由が分かりました。
僕人外になったのね。
それも狼男。
この後次の朝になったら人間に戻っていました。
取り敢えず失業する羽目にならなくて良かった。
うん。
この後数日して分かった事ですが狼男の姿に二度と変身する事は無かった。
但し満月の日は無性に吠えたくなるがキツイと言っておく。
それと、あれから頻繁に自称神が遊びに来るのが、うっとおしいのが今後の悩みだ。
もう~~嫌だ。
高評価なら連載も考えます。