第6話 ショコラの能力
リヤカーを引いて、ショコラの指さす方に向かっていると、人の悲鳴が聞こえた。
多分、女性の悲鳴だと思う。
悲鳴が上がったということは、何らかのトラブルがそちらの方向であったということだろう。
モンスターに襲われたか?盗賊や山賊が出たか。
考えられることとしてこの2点だ。
盗賊と山賊の違いって何だろう?
盗む集団が盗賊?山に住んでいるのが山賊?ついで、海で盗むのが海賊?
まぁ、いっか。どうでもいい笑
あっ、あれかな?
盗賊から山賊と海賊に分類されるのかな?
考えてもしょうがないか?
それよりも悲鳴だ。
異世界物の小説の主人公は、大概ここで助けて、最初の異世界生活の足掛かりとなることが多い。
俺も、それに習おうと思う。
まぁ、人助けをしようと目的に掲げたし。
聞こえてきた悲鳴の現況はすぐに見えてきた。
遠目から見て、10人の男が、茶髪の女性を取り囲んでいる現状であった。
俺が近づくにつれ女性を囲んでいる男達はわずかに警戒をしたがすぐに小馬鹿にしたような表情になる。
彼らの表情は、俺にだってある程度は理解できた。
男達からすれば、敵がきたと言う一瞬の警戒から、俺の姿を見て、それが脅威足りえないとすぐに判断したのだろう。
俺の格好は、青のTシャツに下は黒の上下ジャージで、武器なしだ。
おまけに頭の上に子猫のショコラをのせている。
そう思われても仕方ない。
ゴブリンのこんぼうでも持っておけばよかっただろうか?
そう思い、チラッと、リヤカーに乗せていたこんぼうを見る。
「なっ!?」
なんということでしょう、ぼろぼろだったこんぼうがきれいになっており、なおかつ大きさも最初に見たころよりも大きくなっている。
2倍近くなっているのではないだろうか。
作成物『リヤカー』
性 能『振動なし』
性 能『リヤカー内の生物や物を治癒する』☆
この星の性能のおかげなのか???
あとで、それについては研究して言うとして、女性の命を優先して動かないとな。
「えっと、、、」
「何の用だ? 変な格好して、武器も防具も無しで」
声をかけた俺に、男達の一人が答えた。
俺は自分のことを何て説明しようか迷っていた。
商人でもないし冒険者でもない。
村人といったら舐められそうだしなーと考えていた。
天使とは、言えないし笑
でも、村人と言ったらさらに油断してくれそうだな。
「おいどうした。黙っちまって。怖くてしゃべれなくなったのかぁ?」
「にゃぁー」
俺が何も言わない代わりにショコラが『にゃぁー』と鳴く。
「がははっ、傑作だぜ。頭に猫をのせてやがる」
男の言葉に周りにいる男たちが腹を抱えて笑い始めた。
そんな笑い声を全く気にせずに、俺は囲まれている女性の観察をする。
女性は、布袋を肩から紐でぶら下げている。
布袋から、草や、きのこっぽいのが顔を出していることから、山菜取りでもしていたのだろう。
女性の周りには、いのちを引き取ったであろう男が倒れている。
姿見から察するに女性と一緒に山菜取りに来たのではないだろうか。
俺は女性に近づいた。
「お願いします。助けてください」
俺はその返事に頷いた。
女性は、男たちに殴られでもしたのだろう。
顔が赤く腫れていた。
かわいそうに。
「おいお前、その女は俺達の奴隷だ、俺らが好きにする権利がある」
「ほんとにお前さんらの奴隷なのか?」
意味の分からないことを言う男達。
つい、俺よりも年上であろう男たちに敬語を使い損ねた。
そもそも、奴隷と言う存在が気に入らない。
天使としてなのか、奴隷のいない日本で生きてきたのかわからないが、俺は、存在が気に入らないという思いで頭がいっぱいになる。
「何言ってんだこいつ?うらやましいならお前も混ぜても良いぜ?俺らの性奴隷だからな」
ハッハッハと笑う男達に、女性は嫌悪の視線を向ける。
俺が睨みつけながら近づくと、男は手に持っていた剣を振りかざしてきた。
その男に、俺は、黙ってこんぼうを振りかざす。
振りかざす前に、ショコラを女性の近くの地面に頭から降ろし、女性に対し『お嬢さん、目を瞑っていてください』と俺はいった。
人が殺されるところを今から見ることになるはずだから。
怖すぎて今日の夜にでも思い出し、寝ている際にうなされたりしたら可哀想だ。
ショコラを下した理由は、今から素早く動くからだ。
ショコラなら、振り落とされないような気がするが念には念を置いてね。
『シュパッ』
男を殴る力が強すぎたようでこんぼうが折れてしまった。
男の身体も真っ二つ。
鋭い剣じゃないんだけどな。
「なんだてめぇこれは」
急に倒れた男を見て残りの男達は何が起きたのかわからないようだった。
こんぼうで、身体が切られるなんて誰も思わない。
「殺してやるから覚悟しろ。お前らから攻撃してきたんだからな」
冷たく言い放った俺に、男達は爆笑した。
「馬鹿だろてめぇ! 俺達相手に殺すだって?」
「こいつ頭イカレてんじゃないか?イカはゴブリンだけにしてほしいもんだぜ」
「バカが、面白れぇ!死んで後悔するといいぜ!」
その言葉を最後に男たちは地面に倒れ込んでいた。
瞬時に動いた俺は、男たちの背後をとり、短剣で首元を指していき絶命させた。
俊敏力SS えげつないな。
自分が殺人という行為を犯したことに気持ちが全く動いていないのに気がついた。
ここで、吐いたりするのが、俺の小説知識である。
ぴくりともしない10人の男達を見下ろす。
「助けて下さりありがとうございます」
女性が俺に近づきながらお礼を言う。
「どういたしまして。顔大丈夫ですか?治しますね」
俺は、治癒天法ランクSSで、女性の顔の痛みを治癒しようと、呪文名『エンジェルヒール』を唱えようとしたのだが、ショコラが女性の顔をペロッと舐めた。
その瞬間、どんどん腫れが引いていく。
「えっ!?」
「まじかっ」
驚く女性。
同じく驚く俺。
ショコラもしかして、普通の猫じゃないの?
女性は自分の頬を触る。
「ありがとう」
ショコラの頭を撫でた。
『にゃぁー』
嬉しそうに鳴くショコラ。
「ぐすっぐすっ」
女性が泣き出した。
ショコラを抱きしめながら、泣いちゃった。
大泣きだ。水たまりができるのではないだろうかと思うほどに。
というほどの泣きっぷりである。
「ナイン。ごめんなさい。おねぇちゃん」
女性の近くで力なく倒れている男の子に対して謝り始めた。
確かに、顔が似ている。
姉弟だったのか。
俺は背中をさすりながら、女性が泣き止むのを待った。
涙を手で拭った、女性は自己紹介をはじめた。
「私の名前はシャノンといいます。助けて下さり本当にありがとうございます。もしも、助けが来なかったら、私は……」
シャノンは近くにある宿村の子供らしい。
弟と一緒に食べられる野草とキノコを採取に来たら、男たちに襲われてしまったのだという。
そして、宿村に戻り、翌日。
シャノンは俺と一緒に旅をすることになった。
昨日、リヤカーに男たちの身に着けていた武器防具、貴金属類を乗せ、宿村に向かった俺とショコラ、そしてシャノン。
宿村の住民は息絶えていた。
シャノンのご両親も亡き者にされていた。
俺が討伐した盗賊たちは2手に分かれていたようで、宿村を襲う者、シャノンを捕まえる者。
宿村にいた盗賊たちを危なげもなく亡き者とした俺。
宿村の人たちを、火葬した。
土葬だと稀に、ゾンビやグールというアンデッドモンスターに変化してしまうらしい。
土葬ではなく、心臓のある生き物を放置すると、高確率でゾンビやグールなどのモンスターになってしまうようだ。
シャノンが教えてくれた。
まぁ、首と身体が離れていたら、放置しても、変化しないみたいなんだけどね。
そのままにしておくと、臭いから、燃やすのがこの異世界での常識らしい
そのため、森で出会った盗賊、宿村にいた盗賊たちも燃やした。
『ステータス』
名 前:シャノン
種 族:人間
性 別:女
年 齢:18
職 業:料理人
レベル:5
生命力:E
魔 力:F
攻撃力:E
防御力:E
俊敏力:E
スキル: 料理 C 採取 E 調合 E 短剣 F
魔 法:なし
シャノンの情報は、身長160cmほど髪の色は茶色でストレートロング、村人から料理人に教会で神様から恩情を受けた。
料理人は、下級職らしい。
5種の能力値が低いから。
シャノン曰く、職業を承った際の、初期値の能力と所持スキル所持魔法によって、下級職、中級職、上級職などと判定されるらしい。
そして、職業を変えると、レベルはリセットされるのだとか。
料理人、俺は下級職とは思わないけどな。
俺と一緒に旅をするなら、戦闘は俺がやるから困らないし、俺料理できないから助かる。
シャノンは宿村の子供と言うだけあって、家事を得意とするみたいだ。
洗濯とかも任せられる存在ラッキー。
そもそも、下級職とか、〇〇級って、人の捉え方次第だよね。
お読みいただきありがとうございます