第10話 冒険者ギルドでのおやくそく?
宿屋に一泊した次の朝、冒険者ギルドへとやってきた。
受付窓口に行き、次の街であるセカドの街に向けての護衛依頼をだそうと思った。
今後、大量のモンスターに襲われたときにシャノンとショコラを守る為だ。
いくら俺が強いとは言っても、万が一ということもある。
「ふっ、こんなもやしみたいな、ひ弱そうな男が冒険者だって??」
俺を指差し、ド太い声の男がそう言った。
確かに、俺は子どもの頃から両親に楽器を教わっていた為、外で遊ぶというよりも、家の中にいるインドア派だ。
趣味は読書に映画鑑賞、アウトドア派ではない。
色白なのも否めない。
筋肉質でもない。
山賊みたいな男が俺を見ていた。
筋肉をこれみよがしに見せつける格好をしている。
俺は、冒険者ギルドに登録はしていないから、冒険者ではない。
否定するのも、返事をするのもめんどくさく、無視したのだが男は話し続ける。
ちらちらと、俺を担当してくれている受付の女性を見るに、カッコ良い所を見せようという魂胆だろう。
「へっ、無理だ無理だ、もやしが冒険者やってもすぐ死ぬだけだ」
冒険者ギルドの職員たちは困った表情だったり、気づいていないふりをしたりといろいろだ。
俺はその言葉にも無視をした。
その山賊みたいな男は無視され、相手にされない状況に腹をたてたのであろう。
俺に向かって殴り掛かってきた。
俺の隣にいるシャノンは、怯えてしまっている。
もしかしたら、2日前のことを思い出しているのかもしれない。
ショコラは、大きくあくびをしている。
今日も、マイペースこねこちゃんです。
「おい、もやし、無視してんじゃねぇよ。お前は、殺してやるよ、泣いて謝っても許さねえからな」
男は激おこぷんぷん丸の最上級の『激おこスティックファイナリアリティーぷんぷんどりーむ』みたいだ。
自分から俺に絡んできたくせに、その激怒ぶりはたまらない。
俺は、向かってくる男の右足に、軽く蹴りを放った。
「ぐはっ!ギャー」
男は、勢いよくテーブルに突っ込み、泡をふいた。
痛いのだろう。
よしっ、足は取れていない。
多分、骨折だろう。
やりすぎた感があるが、しょうがないよね?
『てへぺろ こっつん』
ショコラと一緒に、てへぺろと舌を出し、右手で自分の頭をこっつんする。
シャノンは、おびえていた顔から、笑顔になり、俺とシャノンを見ていた。
「サゾクーーーーー」
俺に対して絡んできた男の名前はサゾクというようだ。
お仲間さんっぽい男たちがサゾクと呼ばれる男に近寄る。
「え、えええっ⁉」
「何が起きたんだ⁉」
「足で蹴っただけだよな⁉」
「思いっきり変な音してたぞ⁉サゾクの野郎は大丈夫なのか?」
『ざわざわ』
ギルド内が騒がしくなる。
「サゾク、あれでもCランクだぞ?」
Cランクの基準が良くわからない。
「おはよう。Cランクってどれくらいなの?」
昨日、俺の荷下ろしを手伝ってくれた男の子を見つけたので、聞いてみた。
「おはようございます。Cランクは、リトルオーガを1人で討伐できる者ですね。まぁ、Cランク試験の内容が討伐の場合はですが。リトルオーガと言っても身長は3mあります」
オーガは鬼という意味だろう。
俺は、お姉さんの方に振り返り、話しかけた
「すみません。お姉さん、あの男から殴り掛かってきたから仕方ないですよね?殺すとか言ってきたし」
「はっはい、そ、その通りです」
「あと、俺は、冒険者じゃないですからね?一般人に暴力ふるったら冒険者ギルドから罰が下ると思うのですが……」
昨日、俺の買取を担当してくれた受付の女性、冒険者ではないことは知っているだろう。
「はいっ。そうです。除名、高額な罰金などの処罰がありえます。それで、そのサゾクさんの冒険者ギルドとしての対応なのですが……ギルドマスターに確認してきますので、少々お待ちくださいっ」
女性が立ち上がろうとしたら、
「おう、騒がしいが、どうしたんだっ!?」
強者の風格を感じる男が、受付裏から現れた。
「ギルマス、実は、かくかくしかじかのヒヒーンもふもふでして」
状況説明を始める女性。
「バカが申し訳ないことをした。すまんな。それで、お前さん、ケガはあるのか?」
冒険者ギルドで一番偉いとされるギルドマスタ―ことギルマスとやらが話しかけてきた。
「ケガはないです。シャノンもショコラもないよね?」
「ないです」
「にゃぁー」
大丈夫そうだ。
「そうか、損傷はないか。ならば、お前さんたちへの迷惑料と言ったところか。恐がらせてしまっただろうしな」
そう言って、ギルマスが考え込む。
「おいっ、過去のサゾクの行いについて詳しく説明してくれるか?」
ギルマスが、ギルド員に話を聞き始めた。
数分後……
「待たせたな。サゾクは、日ごろからあまり、褒められた行動をしていないのと、きな臭い噂、そして、冒険者ギルドの過去の処罰のデータを参考にして、サゾクは奴隷落ちさせようと思う」
「奴隷落ちさせないとだめですか?」
奴隷落ちさせるのは、何故か気に食わない。
「あー、お前さん等の賠償が手っ取り早いのと、どっちにしろ、騎士所に連行したところで、奴隷落ちだろうしな。騎士所を介さないほうが時間的にスムーズだ。それに、冒険者ギルドで起こった事件であるから、冒険者ギルドで処理したいというのも考えとしてあるな」
「分かりました」
どっちみち、奴隷落ちになるのなら、しょうがないよな。
奴隷落ちについて、忌避感を露わにしている俺。
因みに、昨日、シャノンを襲っていた者たちを簡単に亡き者にしてしまった理由は、下手に行きながらせて、復讐されることを恐れてである。
それに、俺とシャノンとショコラしかいない状態で10人もの盗賊を生かしておいてその盗賊相手にヘマをしてしまうと、シャノンとショコラを危険に晒してしまう恐れも考慮しての判断。
天使としての行動として、良い行いであったのかどうかは分からないが、自分自身あの行動が最善であったとは思っている。
「あちゃー。こりゃー、骨までいっちゃってるね」
ギルド員がサゾクの足の状況を確認したようだ。
「治療院の治療代で、150万はしちゃうね」
「えっ、治療って、そんなに高いの?」
隣にいるシャノンに聞く。
「治癒魔法の使い手自体が少ないのと、1回で治癒させることができないのが現状です」
なるほど。
「そうそう、3、4回に分けてCランクの治癒魔法をお願いしないといけないんだよねー。Bランクのビリーブヒールなら一発なんだけどね。はじまりの街には使い手はいないよ。セカドの街の教会にならいるらしいけど」
軽い感じで、話すギルド員。
「じゃぁ、治しましょうか?」
流石に、骨折させたままというのは申し訳ない。
盗賊たちみたいに殺人者ではないのだから。
まぁ、サゾクと言う輩が殺人を犯しているのかどうかなんてわからないんだけどね。
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