1-2
次に目を開けた時、私はここが新しい世界なのだと気付いた。
例えば草原。一面の緑。
そして山の数々。海外のカレンダーでしか見たことなかった景色が広がっている。
最後に、目の前にいる猪の大きさだ。
なんと言えばいいのかな…。
とりあえずでかい。たぶん図鑑でみた熊よりでかい。
私はとりあえず深呼吸する。
「なんじゃこりゃー!!!!」
叫び終わると慌てて立ち上がり、猪の大きさを確認する。
大体2mぐらい…?いやにしても大きい。
猪は私の声でびっくりしたのか、戦闘態勢でぐるるると威嚇してくる。
こええええ…。
私よりも大きい牙がきらりと光る。
あれに刺されるのか…。
と、考えていて気付く。
「あ、足が動かない…」
恐怖心で足が震えて、逃げられない…。
情けないとかじゃない…こんなの無理だ。
猪はよだれを垂らしながら、右前足で地面を掻いている。
あっこれ突進されるやつだ…。
「おおおおお落ち着け私…なにか武器はないのか!?」
周りを見渡すが一面の真緑。
くそ!さっき確認したばかりじゃない私…
いや…待てよ…
イリアさんにお願いした力があるじゃない…!
「ふふふ…私に勝とうなんて10年早かったわね猪さん!」
右手を相手に向ける。
そう私が最初にお願いしたのは、魔法能力。
この世界はマナで構成されている。
大気中のマナを利用することで魔法を使える事ができるってイリアさんが言ってた。
魔法にもランクがあって、初級、中位、上位、超級の四つに分類されている。
超級は本当に世界に数人しか使えられないもので、最初そのレベルを要求したけど断られた。
世界のバランスがとイリアさんは言ってたけど実際どうかは分からない。
そして今私が使えるランクは…!
「上位魔法!」
はて…詠唱とかすればいいのかな…。
それは恥ずかしい…。
だがやるっきゃない
「炎よ宿れ!」
くっそ恥ずかしい。
咄嗟に出た言葉が炎よ宿れって…。
でも叫んだと同時に私の右手の周りに赤いオーラが纏う。
これがマナなのかな?
オーラが纏ったけどこの後どうすれば…。
そんなこと考えてたら猪が突進してきた。
「くっ…放て!」
足が動かないからそのまま思った事を叫んだ。
するとさっきまで纏っていた赤いオーラが炎に変わり、
突進してくる猪にレーザーのように一直線に発射される。
向こうの山まで行くんじゃないかと思うぐらい一直線。
猪の体を突き抜けている。それでは私の攻撃は終わらず、次に残った炎達が猪に纏わりつく。
私の腕からはもう炎はなく、猪を燃やしている。
「炎こわい…」
素直な感想を言った後、猪の鳴き声が響き渡る。
そりゃそうだ…燃えているのだから…。
氷の魔法の方が良かったかなと思いつつ、猪を眺める。
この世界で初めてあった人外。
猪も生きるために私を襲ったのかな…。
鳴き声が木霊する。
イメージするのは大量の水。
左手を向けて私はそう念じる。
今度は青いオーラが纏わりつく。
「あの炎を消して」
山火事になっても困る。
そう思った時、青いオーラが水の球体になり猪を包み込む。
炎は徐々に消えていき、猪は水の球体のなかで暴れる。
あっそうか息ができないのか…。
「水よ消えろ!」
ぱちんとシャボン玉が割れるように球体が割れ、解放された猪がぐるるると私をみる。
正当防衛だし仕方ないでしょ…!
そもそもあなたが私を襲うから…。
『人間…貴様は我に勝ったのだ。喜べ』
「え…」
『最初の炎魔法…見事であった…』
猪の方を向くと猪が私に喋っている。
い…異世界だ…。
『だが水魔法はナンセンスだ…。あの状況で我を助けたところで何にもならぬ。初撃で勝負は着いていたのだから』
「ねぇ」
『もう我は長くない…。年には勝てないとはこの事よ…。だがせめて最後は一撃で』
「ねぇ」
『最後は一撃でころして…ごふっ』
私はいつの間にか動くようになった足で、この猪の腹部を蹴った。
『な…なにを…』
「ねぇ!あなたみたいなモンスターを倒したらどうなるの?」
『それは…我クラスになるとクリスタルと食料の肉になると思うが…?』
「なるほど…じゃあどんどん倒していくのはありかな…」
『貴様…何を考えている?』
「これからの世界の生き方」
『なんだまるで初めて来るかの言い方だな…』
「初めてよ。この世界に来たらあなたが襲ってきたのよ」
『なんと…』
「だから死ぬまでに私にこの世界の事を教えなさい」
猪はぐるると情けない声を出す。
人外だけど聞ける情報は聞いとかないと。
△△△
「人間はモンスターを倒して、クリスタル…これはお金みたいなものか…に変化して、そして食用の肉になるという事…どんなふうになるの?」
『それは分からぬ。仲間がやられた時はクリスタルになる瞬間しか見ていなかったからな』
「うーん。あなたぐらいだと持ち運び難しいだろうな…」
『そうだな。なんせ我のクラスは上級だからな』
「モンスターにもクラスがあるんだ…めんどくさいね」
『な…なぜだ?』
「ま…前世の記憶って事で」
『貴様はよく分からないな』
失礼な猪め。
炎のレーザーでお腹貫通しているのに意外とタフ。
血が出てないから不思議に思っていたら
『モンスターは死ぬ際にはマナへと変換されるから、我の血はマナになり目に見えない』
とかよく分からない事を言ってた。
なるほどとは言ったけど、この世界の常識がよく分からない。
「人間って美味しいの?」
『愚問だな。美味である』
「ふむふむ…食うか食われるかの関係なのね」
『そうだな』
その言葉を言うと、猪の呼吸が荒くなってきた。
もう限界なのかな。
「すごいタフだね」
『当然だろう…そう言えば貴様名は?我を倒したんだ…覚えておこう』
「私はアイ。出会い頭で倒してごめんね」
『アイか…。こんなひ弱そうな人間に負けたとは情けないな…ふふ…これから行く先は決めているのか?』
「まだ」
『ならこの先の街に行き、我のクリスタルを見せるがよい』
「へー…詳しいのね」
『そこから先は貴様が決める事だ』
「ありがとう」
猪は最後の力を振り絞り立ち上がる。
そして私を見下してこう言った。
『最後だから我の我儘を聞いてもらおう』
「いいよ」
私も立ち上がり猪を見上げる。
『今できる最高の魔法で我にとどめを』
むちゃくちゃ言うなこやつ…。
まぁ…私も色々聞いたし、乗ってあげよう
イメージしよう。
昔、男友達から借りてやったゲームの最強技を。
でもほらイメージだから。
「エクスプロージョン!!!」
△△△
猪の体は消えていき、七色に光るクリスタルが落ちていた。
そして食用肉。
これがまた大きかった。
さすがに元の大きさとは言わないが、牛3頭分ぐらいの大きさの肉を手に入れた。
どう持って行こうか…。