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ただの中二病ですので!!

作者: 白夜 零

 転校生が来るというのは、いくつになってもドキドキする、心弾むイベントである。

 毎日変わり映えしない学校生活の中、転校生というのは言ってしまえばちょっと異質な存在で、だからこそついついみんなソワソワドキドキしてしまうものなんだと思う。


 そんな、いつもより騒がしい教室は件の転校生の姿を見た途端、ぴたりと静かになった。


 可愛い。と言うか綺麗だ。息を呑む様な美しさとか言うけど、それにぴったりだと思う。

 ただ教室が一瞬で静まり返ったのは、それだけが理由じゃないだろう。

 転校生は片眼に医療用の眼帯をしていたし、両手は肘のあたりから手首まで包帯でぐるぐる巻き。よっぽどのドジっ娘か、何か大きな怪我をしてしまったのか。

 それとも、まさか。今更。

 え、もう流行らないんじゃないの?


 そんなクラスの人間が何処かで抱いた疑惑を肯定するように、担任に自己紹介を促された転校生は言ってのけた。


天使(あまつか) (つかさ)。もっともこの名前は偽名。真名は極秘事項。敵対組織に知られれば私の命に関わるから。でもこの偽名には真名をも越える愛着はあるので、天使でも司でも好きなように呼んでくれて構わない」


 胸を張って、堂々と。

 転校生こと天使司さんは自分が中二病である事を公言した。




 席が近くだった事、正直外見はほんとびっくりするくらい整ってることもあって、僕はつい、天使さんの言動を目で追っていた。

 天使さんは本当絵に描いたように素晴らしく、お手本のように患っていた。包帯も眼帯も封印のためだと大真面目に答えるし、封印を解いたらこんな世界くらい簡単に滅ぼせてしまうとも言っていたし。

 何やら難しい言葉を唱えてはそれっぽい動きをみせるけど、しかしなにもおこらない、というヤツだ。まあ天使さんの名誉のため?になるかどうかはともかく、補足しておくなら、その動作1つ1つは綺麗でキレもあって、本人曰く呪文詠唱をする声も凛としていて美しい。

 もしここが普通の教室じゃなくて異世界学園ものドラマの撮影現場だったなら、天使さんは間違いなく1番場にあっていて、主役を張っていただろう。

 でも残念ながらここは普通の教室で、天使さんの整った顔も災いして、天使さんはおもいっきり浮いていた。


 いじめとかに発展しないのは幸いだったかもしれない。


 でもこの年代の女子が天使さんのような人を積極的に受け入れるはずもなく、天使さんはいじめられこそしないし、ハブられている様子もないけど、やっぱり1人でいる事が多かった。

 だから放課後1人で昇降口に向かう天使さんを見るのも珍しくなかった。でもこの日はなんだか様子がおかしくて、僕はつい物陰に隠れてしまった。隠れた後、やっぱこそこそするのは変だったかなぁなんて悔やみながら、それとなく様子を窺う。


 場所は旧部活棟のある校舎の階段の踊り場。

 何か用事が無い限り訪れない場所で、僕は部活で使う資料を求めてここに来た。でも天使さんは帰宅部のはず。

 じゃあなんで旧部活棟なんかに。

 僕が隠れてしまったのは、それもある。

 僕が影で見ているのに気付いていないのか、天使さんは封印だと言って頑なに外さない眼帯をそっと外した。天使さんの露わになってる方の目とは違う色。真っ赤。

 でもよくよく見れば縁取りみたいなのが眼球に浮いていて、それが最近だと簡単に入手できるようになってるカラコンだとすぐに分かる。あまり天使さんの目にも馴染んでいないで、明らかに加工っぽく浮いてるのだ。

 天使さんは眼帯を制服のポケットに入れると周囲をきょろきょろ。慌てて僕は体を引っ込める。

 旧部活棟は暗いのもあって僕は気付かれずに済んだようだ。天使さんは誰もいないと判断したのかカラコンを外した。それから予めポケットに入れてあったのだろうコンタクトケースを取り出すと、その中にコンタクトを収めて、ケースは再びポケットに。


 声をあげなかった僕は、褒められてもいいと思う。


 コンタクトを外して天使さんの本当の眼球が露わになった。

 それはいくら凝視してもコンタクト特有の縁みたいなのは見当たらない、十中八九天使さんの素面の瞳。

 そこには本来人に描かれていないだろう紋章の様なモノが浮かんでいた。

 天使さんは慣れた手付きで包帯も外す。暗い校舎にぼんやりと天使さんの腕が発光しているように見えるのは思い込みなんだろうか。

 天使さんは包帯を解いた方の手を、踊り場隅に向けて振り払う動作をしてみせる。それは教室でも時折天使さんが見せる動作。


「我が手に聖と邪を司る光を。闇を払い欺瞞を暴き、混沌を振り払う。澱みし悪しき流れを我が聖の光を以て祓い、我が邪の光の糧となれ!!」


 そして普段教室で口にしているのに似た詠唱。

 それを終えた時、目の前で信じ難い現象が起きた。


 天使さんの手から一筋の光が踊り場の隅へまっすぐに伸び、光は階段中、旧部活棟を飲み込むんじゃないかって勢いで拡散。

 僕は思わずその眩しさに目を瞑る。

 やさしくて、でもどこか重苦しいような不思議な感覚が僕の胸の内を支配して。


 おそるおそる目を開けた時、部活棟はさっきまでの薄暗さとは打って変わった明るい空間になっていた。

 ところどころで目立った年代劣化の跡も、この短時間でリフォームしたんじゃないかと思えるほどに綺麗。


 そして僕は忘れていた。

 薄暗い空間に光が差したということは、物陰に隠れていた僕を天使さんが見つけ易くなっていたという事に。


 僕の姿を見た天使さんが顔面蒼白にして、小さく震えてる。

 天使さんとばっちり目が合ってしまったと思ってももう遅い。天使さんも僕の事を覚えてるかはさておいて、ばっちり見てしまってるもん。


「……み、見た?」


 さっきの呪文詠唱の時とも、教室で詠唱する時とも、自己紹介の時とも違う。

 普段の凛とした天使さんらしくない、慌てたような声。


 どうしたものか迷って。

 この状況で嘘もつけないし、何より好奇心もあって僕は頷いてから、おそるおそる天使さんに聞いてみる事にした。


「天使さんってまさか、本物の」

「ち、違う!私はただの中二病だから!格好良いなとか思って眼帯包帯しちゃうし、意味の無い呪文唱えちゃう痛い人だから!!!」


 なんかおかしな弁明だなぁ。

 普通なら自分だけは本物だー、今は調子が悪いだけだーとか訴えそうなのに。

 でもきっと天使さんに不思議な力があるなら、天使さんも秘密にしておきたいんだろう。それこそ敵対組織から狙われるとか、自分の使命を果たせなくなるとか、そんな理由がありそうだ。

 だからこそこうして堂々と呪文を唱えても不審に思われないように、あえて患ってらっしゃる言動をしてるのかもしれない。


 そんな天使さんの努力を僕が無駄にするワケにはいかないし、天使さんがもし人類のためとか壮大なもののために戦ってるのなら、僕がその邪魔をするワケにもいかない。

 だから僕は精一杯笑ってみせて、天使さんに告げるのだ。


「だ、大丈夫!僕は何も言わないよ!!」


 果たして僕の気持ちは天使さんに伝わってくれたのか。

 天使さんはあたふたとカラコン、眼帯、包帯の順に再度装着すると僕の方を見て、今度は不敵に笑い、凛とした声で言う。


「どうした?ここは人気がないからと何らかの基地の拠点にする腹積もりか?残念だがここは既に私の作戦本部と決めた。仲間になるのではない限り出直すことを勧める」


 と、聞き慣れた患ってらっしゃる発言。

 天使さんの、凡人の僕じゃ想像も付かないような努力を思いつつ、僕はどうしようか迷って。


「うーん、凡人のしたっぱ程度でもいいなら立候補してみようかな?後僕、ここに秘術が記された古文書を探しにきたから入れてもらえないと困るし」



 自称中二病の天使さんに付き合ってみようと決めた。

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