ハイスペック姉弟。
「あとはラッピングだね〜」
「おー…」
目の前にはまるで店で買ってきたかのようなクッキー。
あれから数時間、光葉とクッキーを作った(俺は混ぜて型抜きしただけだが)。
味見をしてもいいと言われたので1枚いただくと、ふんわりと口の中に甘さが広がる。
プロ並みだな…。
「リビング行ってていいよ、俺ラッピングしちゃうから」
「え、あ、おう」
「これ割れちゃったやつ。みんなで食べよ」
「じゃあ持って行っておくな」
「はーい」
割れたクッキーをリビングへ持っていくとそこにはつまらなそうにテレビを見る少年が1人。
テーブルにクッキーを置くとくるりとこちらを向いた。
うわぁ…イケメン…。
「姉ちゃんのクッキーだ!」
「え、は、晴くん?」
「?はい、晴です」
サラサラと輝く焦げ茶色の短髪に切れ長の目。声からするに晴くんらしい。
これが美少年というやつか…。
「いただきまーす」
「あ、い、いただきます」
むしゃむしゃと美味しそうに頬張る晴くんをぽけーっと見ていると居心地悪そうにこちらを睨む。
「…何か」
「いや、その、さっきと全然違うなーと…」
「…まぁ多少はメイクしてますし」
サラッとメイクしてるって言ったぞこいつ。男でメイクできるやつとか珍しすぎだろ!
「紅茶だよ〜」
「あ、姉ちゃんありがと」
「さんきゅー」
「いえいえ。そういえば孝弥、夜遅いけど夜ご飯どうする?食べてく?」
「もうそんな時間!?」
自分のスマホを確認するともう時刻は7時過ぎ。楽しい時って時間進むの早いよなぁ。
「今日兄ちゃん帰ってくるの遅いからご飯あるよ」
「光葉、お兄さんもいたのか」
「うん、大学生なんだ。で、どうする?」
「…いただきます」
「はいよ〜!晴、ご飯作るの手伝って」
「了解〜」
「孝弥は適当にテレビでも見てて」
「お、おう」
2人してリビングを出ていき、しばらくすると料理をする音が聞こえてきた。
お兄さんは遅いっていってたけど、両親は帰ってこないのだろうか。
うーん、と考えるが聞くのは失礼だと思い宿題を取り出す。
勉強で紛らわせよう、うん、そうしよう。
ガリガリと勉強をしているとキッチンからいい匂い。
「人に作ってもらうのとか、いつぶりだろう」
高校生になってから一人暮らしになった俺。
親の元を離れ、コンビニ食しか食べてこなかった俺にとってこうやって誰かが作ってくれた飯を食べるというのは少しくすぐったい。
「孝弥ぁ!できたよー」
「運ぶの手伝う」
「助かる〜」
テーブルを急いで片付け、料理を運ぶ。
オムライスだ。ご丁寧にケチャップで絵がかいてある。
「うまそ…」
「いただきます」
「はい!召し上がれ」
「…いただきます」
「おいしくできてるか心配だよ」
ぱくりと口に運ぶとふわっと卵がとろける。
ケチャップライスもパラパラとしていておいしい。
本当に料理上手いな、光葉。
「どう?」
「うまいよ、すごく」
「ははは、よかったぁ」
安心したように光葉もオムライスを食べる。
もぐもぐと頬張っているせいで口の周りにケチャップがついている。
それを晴くんが「かわいい…」といいながら丁寧に拭いている。
親子かよ…。
フッと笑うときょとんと2人がこちらを見る。
「ごちそうさまー!」
「姉ちゃんごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした」
「おそまつさまです!」
「保住さん、もうそろそろ帰った方がいいんじゃないですか?男性でも危ないですよ」
「片付けしなくて大丈夫だから!」
「悪いな」
「電車ある?平気?」
「おう、ちょうどいいのあるわ」
玄関まで光葉と晴くんが見送りに来てくれた。
「片付けできなくて悪いな」
「平気だよ、遅くまで付き合わせてごめんね」
「いや、クッキーとオムライス美味かった」
「にゃはは、それは何より」
「じゃ、また明日な。お邪魔しました」
「ばいばーい!」
パタンとドアを閉め外に出ると少しだけ冷たい風が吹く。
さてと、駅まで走るかな。
俺は駅に小走りで向かいつつ、こんな日もたまにはいいなと思うのであった。
「今のは…孝弥?」
綺麗なゆるふわロングをなびかせながら俺を見つめていた人が居たなんて走っていた俺は気づいていなかった。