第1話 矢崎遥
※暴力的な表現を含みます。閲覧は自己責任でお願いします。
携帯閲覧用に改行していますので、PCでは少々間の抜けた文章に見えるかもしれません。
矢崎遥が死んだ。
彼女の最後の瞬間は、テレビ中継されていたので、当然僕も自宅でその様子を見ていた。
対戦相手はとなり町にある中学校の男子生徒。武器は全長70センチ程ある斧。よく昔話なんかで爺さんが薪を割る時に使うアレだ。
矢崎遥は強かった。
連戦連勝、負け知らず。素早い動きと、手投げナイフによる躊躇の無い攻撃を得意とし、プレイヤーの中でもその実力はトップクラスだった。
そして矢崎 遥は美しかった。
その容貌もさることながら、細くて長い手足から繰り出される戦闘術の数々は、今人気のファギュアスケート選手の演目なんかよりもよっぽど綺麗だった。
彼女はどんな時も冷静だった。慎重に相手の動きを読み、確実に急所を狙っていく。
だから今回も、誰もが矢崎の勝利を確信していた。まさか彼女が、あんな大振りでスキだらけの斧なんかに切られる訳がないと。
その「まさか」が起こったのは、ゲーム開始から26分が経過した頃。場所は彼女の教室である3年C組。
一瞬の出来事だった。
対戦相手の男子生徒が大袈裟に斧を頭上に構えた。そして振り降ろされたそれを、彼女はいつものように長い栗色の髪をなびかせ、涼しい顔をしながらバックステップで避ける、はずだった。
はずだったのに、だ。彼女は机に足が引っかかったのか、それかその瞬間にアキレス腱でも切れたのか、それとも誰かが何か超能力のようなもので彼女の足を動けなくしたのか。とにかく彼女はその場から動かなかった。
そして振り降ろされた斧は、彼女の左肩からスコーンとその刃を進め、胸の辺りまできて止まった。
1秒程の間をおいて、切り口から、これもまた美しい色をした真っ赤な血が、パリのどこかにあるような噴水のように、ムラのない計算されたような噴出の仕方をした。
それに怯んだ対戦相手は、ヒィっと短く悲鳴を上げて斧を彼女の体に残したまま手放し、彼女は糸の切れた操り人形のような動きでグルンと一回まわった後、静かにその場に倒れた。
3年C組の床に、絨毯のように矢崎の血が広がっていく。彼女はもう、動かない。
すかさずゲーム終了を知らせるチャイムが鳴り響いた。キンコンカンコン。普段から聞きなれているその音が、この時ばかりは妙に違和感があった。
するとその場に立ち尽くしていた対戦相手は、ゆっくりと目線を天井へと移した。
「ふぁっふ、ふふっふふは、は、はははははあああぁああぁぁあ!」
彼はその目に涙を浮かべ、笑っているのか泣いているのか、それともただ叫んでいるのか、僕には判断がつかない声を、ずっと上げ続けていた。その声は、いつまでも消えることなく永遠に響き続けるような気がした。




