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朝の温度  作者: ほととぎす
4.彼女と本屋さんへ
9/15

9

テーブルの上には文庫二冊にハードカバーが一冊。

私がまことに選んだものだ。

色々と悩んだのだが結局この三冊に落ち着いた。


中学生の二人組が究極のゲームを作るため冒険する話。

英国にある子供のスパイ組織スカウトされた少年の話。

騎士への道を歩んでいた少年が、自らに備わる魔法の才能に気づき、魔法の学校に入学する話。


実はこれはどれも児童書である。

しかし思い出補正を鑑みても良作であるのは間違いない。

現代もの、スパイもの、魔法ファンタジーもの。

これならばどれか一冊はまことの気に入るものがあるだろう。


「なんか意外」

「意外って?」

「彩季ってなんか頭固そうだから。話し方とか地の文の口調とか」

「地の文とか言うなっ」


この堅苦しい話し方は生まれつきなのだからしょうがない。


「つまり子供っぽい作品のチョイスってことか」

「そうそう。どれも児童書だし」

「んー。そういうのって関係ないと思うんだ」


昔、母と口論になったことを思い出す。

母は純文学を好んで読む人だ。

私が中学生になっても児童向けのレーベルを買って読んでいると、母がそろそろ児童書から卒業したらと言いだし喧嘩になったのだ。


「確かに児童向けのレーベルから出ている以上漢字は少ないしふり仮名だって振ってある。でも内容は面白いしシンプルだからこそ心に響いてくるものがある。どのレーベルから出ていようと関係ない。実際最近は大人向けの文庫に――」


気が付くとしばらく児童書の面白さについて語っていた。


「ごめん、ちょっと熱くなってしまった」

「ううん、いいよ」


まことが笑顔でかえす。

しかし勝手に一人で熱くなっていたようで恥ずかしい。

そんな私をフォローするかのようにまことが変なことを言い出した。


「今の彩季、すごくかっこよかったから」

「なっ、なにを言って」

「ほんとだってば。大体普段から彩季は」


頬を少し赤らめながらまことが力説しようとしてくる。

赤縁眼鏡からの上目づかいとかやめてくれ。

あざといとか思う以前に攻撃力が高すぎるんだ。

まことの言葉に、表情に自分の心拍数が上がるのがわかる。

ダメだ、これは心臓によろしくない。

まことの言葉をかわすため、とっさに思ったことをそのまま口に出す。


「そんなことない。ミステリの話しているときのまことのほうが凛々しくてかっこいいよ。その反面、猫の話をしているときはすごくかわいいし」

「彩季こそなにいってるのっ」

「別に本当のことを言ったまでだよ。まことのそういうところ好きだから」


自棄になって言い切った言葉により一瞬にして場が静まる。

二人そろって顔を赤くしてうつむいた。

今すぐ全力で走りだしたい気持ちに駆られるがどうにかして気を落ち着かせる。

熱さを紛らわすためにホワイトウォーターを一気飲みして、私は一息ついた。


「彩季、ちょっとちょっと」


声のしたほうに目を向けると物陰から兄が手招きしている。

ちょっと待ってね、とまことに言って席を立った。


「なんだよ、兄貴」

「なんかいい雰囲気だからこれ、ってぶほぉ」


差し出してきたものを見て思わず拳で突く。

兄はなんとかホテルの割引券を持ったままお腹を抱えうずくまった。

尚もなにか言おうとする兄を無視して席に戻る。


「お兄さんなんだって?」

「昼ご飯おごってくれるらしいから何か頼もうか」


もちろん兄はそんなこと言っていないのだが勝手に話を進めていく。

兄のおかげ(?)で変な空気が解消されたことには一応感謝しておこう。

一緒にメニューを見て何を食べるか相談した。


「はい、ご注文お決まりでしょうか」

「五目あんかけ焼きそばとナスと挽肉のかけご飯を兄貴のおごりで」

「かしこまりました。失礼いたします」


まことのいる手前断るわけにはいかなかったのだろう。

しぶしぶといった感じで兄は厨房へ戻って行った。


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