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朝の温度  作者: ほととぎす
3.私は考えるⅠ
5/15

5

黒澤まこと、17歳。

誕生日は4月7日。

7月という微妙な時期に編入してきた転校生で編入してきた理由は親の転勤によるもの。

編入試験をクリアしたため成績は非常に良いと思われる。

身長は165、体重は秘密らしいがかなりスタイルが良い。

黒髪ロングストレートで、赤縁の眼鏡を着用。

凛々しい顔つきだが笑うと一変して女の子らしい可愛さが際立つ。

趣味は読書でミステリを好んで読む。

性格は誰にでも分け隔てなく優しく、対応に丁寧さがみてとれる。

が、若干図々しい一面もある。

総合的に見て優等生らしい雰囲気がある。


これが恵子から聞いた話と自分の知っていることを合わせた結果だ。


この人物がライトアダルトノベルスを真剣に見ていた人と同一とは思えない。

しかしよくよく考えれば誰にでも特殊な趣向や隠し事の一つや二つあるものだ。


ちまたに様々なアニメや漫画、BLなどというものがあふれるなか、官能小説を好んで読む女子高生ももしかしたら珍しくないのかもしれない。

私はよくわからないがアニオタなどという人たちの中には人目(?)を恐れ学校ではそのことを秘密にしている人が多いという。

官能小説を趣味で読んでいますなんて人には言えないだろうし、いや、そうと決まった訳ではないが。


ともかくまことがライトアダルトノベルスの棚の前にいたことは驚くべきことではあるが異常なことではない。

そう、驚くべきことではあるが。


しかし、あの手の小説は明らかに男性向けの作品である。

それを女性が、しかも女子高生が読んでいるとなると不自然さが際立つ。

この不自然さにまことの知られざる一面が隠れているような気がしてならなかった。



まことが転校してきてから早くも二週間を過ぎた。

今や完全にクラスにも馴染んでいる。


私はまことと2日に一度のペースで、朝に本の話をするということを繰り返していた。


ただし朝の時間だけ。

人が集まり始める時間になったらそこで終了。

普段は挨拶をするぐらいで話さない。

まことはこの二週間ですっかりクラスの人気者になっており常に誰かが周りにいた。

日頃から目立たず教室で読書ばかりしているような私がまこととみんなの前で話した日には目立ってしょうがない。

目立たずひっそり平穏に。

そんな私の信念を知ってか知らずか、いや、たぶん察してくれているのだろう。

まことがみんなの前で私に話しかけてくることはなかった。


静かで美しい朝の世界に住人が一人増える。

初めはそのことを嫌がっていた自分も本の話をするうちにまことのことを受け入れつつあった。

しょうがない。

自分の好きな本、その内容について誰かと話すことはとても楽しいことなのだから。

部活、勉強、遊び、くだらない恋愛(完全に私の主観だが)で忙しい高校生の中には本の素晴らしさをわかり合える存在は貴重すぎるのだから。



「おはよう、彩季」

「まこと、おはよう」


今日もまことは朝の教室にやってきた。

いつものように窓から誰もいない校庭を眺めながら話をする。


「今日ねー、朝猫の写真撮ってきたんだ」

「どれどれ」


まことが携帯を出して写真を見せてきた。

塀の上で目を細めながらカメラを向く猫はとても愛嬌がある。

最近ではこうして本以外の話も少しするようになった。

まことは猫が好きらしくこうして野良猫を写真に収めては私に見せてくれる。


「かわいいね、猫」

「でしょう。この子はよく近所にいるんだよねー」


そうして近所の野良猫の話になる。

「この猫は口の横に黒いほくろみたいな模様があるからホックっていう名前なんだって」

「飼い主さんから聞いたの?」

「お隣のおじいさんから聞いた。それでこれがそのおじいちゃんの飼い猫のさんごちゃんで――」


まことは色々な写真をみせながら弾んだ声で話す。

猫の話をするときのまことは本の話をしているときよりもかわいい。

ミステリのように熱意やこだわりが無いぶん、頬が緩みっぱなしだ。

何時になくほんわかとした雰囲気をまとっている。

だがやはり最後に行き着くのは本の話だった。


「そういえば、猫が探偵役のミステリもあるんだよ」

「ほう、それは面白そうだね」


そのまましばらく話しているとまことはふと私を見て言う。


「明日時間空いてる?」


唐突に話が変わり少し身じろぐ。

明日は土曜日だから学校はない。

部活動に所属していない私はいつも家に引きこもって本を読んでいる。


「本を読むぐらいしか予定はないかな」

「じゃ、決まりだね」


まことはすごく嬉しそうにうなずき言った。

その様子が妙にかわいくてなぜか女の子相手に照れる自分がいる。


「それで何をするの?」

「本屋さんに行ってそれからお茶しよう」

「わかった」

「じゃあ、時間と場所後でメールするから」


そう言ってまことはかなりご機嫌な様子で教室を出て行った。

こうして今日の朝の時間は終わったのだった。


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