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朝の温度  作者: ほととぎす
1.彼女と出会う
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彼女の顔に見覚えはない。

上級生だろうか。だとしたらなぜこの教室に。

考えてみてもしっくりとくる答えは見つからなかった。

あれやこれやと考えているうちに教室には人が集まってくる。

しかし今日はなにやらいつもより教室が騒がしい。


「さきちゃーん。おっはよう」

「おはよう、けいちゃん」


友達の恵子が私のところにやってくる。

恵子は小学校からの友達で付き合いは長い。

明るく元気で頼りになる。

私が目立たず平凡に生活するのに欠かせない存在だ。

きっと恵子ならこの騒がしい理由を知っているだろう。


「ねぇねぇ、なんで今日こんなに騒がしいの?」

「それはねぇ、なんでも」

「なんでも?」

「なんだと思う」


にやにやと笑いながら恵子は勿体ぶる。


「勿体つけずに教えてよ」

「それはね、なんでもこのクラスに転校生が来るらしいわよ!」


その言葉に一気に興味が削がれてしまった私は気の抜けた返事をして、手持ち無沙汰に本をペラペラとめくる。

なぜ興味が削がれたかというと、展開が読めてしまったから。

よくある話だ。

事前に会った見知らぬ人は実は転校生で隣の席に座ってきて、先生に転校生の学校案内を任された結果仲良くなり、友達になってフラグ建ってゴールイン。

この手の本は嫌というほど見てきている。


「ちょっと、ちょっとー。そんな興味なさげにしなくてもいいんじゃない」

「興味ないんだもん」


幸いあの人が転校生だとしたら、相手役はうちのクラスの男子だろう。

ただ一回会ってしまった以上、私がサブキャラとして面倒くさい恋愛イベントに巻き込まれる可能性がある。

ここはいつも以上に影を薄くしておくことが必要だろう。

本の中とは違い現実では平穏に過ごすのが一番の幸せなのだから。


「はい、はい座ってー。今日はホームルームをやるわよ」


一時間目の授業よりだいぶ早く担任の先生が教室に入ってきた。

この学校は普段朝のHRはない。

どうやら本当に転校生が来たようだ。

生徒が全員席に着いたのを確認して担任が話し始める。


「もうみんな知っていると思うけれど、このクラスに転校生がやってきました」


そういって廊下から誰かを招き入れる。

やはり朝会った女子生徒だった。


「初めまして黒澤まことといいます。趣味は読書。部活はまだ決めていません。早く皆さんと仲良くなりたいと思います。よろしくお願いします」


静かに微笑みお辞儀をする彼女の姿に自然と拍手が生まれた。

男っぽい名前に反して彼女からは女性らしさがあふれている。

身のこなしや話し方の一つ一つが彼女の存在をさらに引き立てていた。


「それじゃ、授業を始めますね」


そういって担任が座らせた彼女の席は私の右斜め二つ前。

前を見ながら彼女のことを自然に観察できるベストポジションだった。

綺麗だなー。そういえばなんで話しかけてきたのだろう。趣味読書って言っていたからそれでかな。話してみたい気持ちもやまやまだが彼女といるときっと目立つだろう。

そんなことを考えながら私は担任の数学の授業をまるっとスルーした。


授業が終わるとすぐさま転校生の席に人だかりができる。

女子が取り囲んで誕生日やら、趣味やら、部活に関することを聞いているのが聞こえる。

彼女はその質問に対して丁寧に受け答えしているようだ。

人だかりの中には恵子の姿もある。

明日にでも彼女のことを聞いてみよう。

最初は興味ないと恵子に言いながらしっかりと彼女のことが気になっている自分に苦笑する。

いや、あのときは王道の流れに嫌気がさしていたのだろう。

それとも後から彼女のヒロインオーラにでも当てられたのか。


そのあと今日は一日騒がしいままだろうと思ったら、やっぱりその通りで。

授業がすべて終わったというのに依然としてガヤガヤとしたままの教室を私はさっさと後にした。


図書館で適当に本を物色したのち学校を出た。

家に真っ直ぐ帰るのもなんなので駅前の本屋による。

せっかく買った方法序説をそのままにするのも嫌なので、解説書のようなものを探すことにした。

あんな難しく回りくどい書き方をするからわかりにくいのだ。

もっと噛み砕いた書き方をしたものはないだろうか。


いつもは見ない新書や教養本がおいてある棚へ向かう。

行ってみるとそこに置いてある本は少なく、目当ての本はありそうになかった。

この手のジャンルは人気がないのだろう。

現に本棚の半分から奥は別のジャンルの本がおいてある。

ふとそのまま本棚に沿って奥へと視線を動かすと、そこには


真剣なまなざしでライトアダルトノベルスの棚を眺める黒澤まことの姿があった。


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