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「わたし、彩季のことが好き」
……へっ?
まことは私のことが好き?
自分の頭の中で『好き』という言葉が反響した。そして頭の隅にあたって、跳ね返って、まるで気体原子の運動みたいにめちゃくちゃに動き回る。
「ま、まこと何を言って」
「彩季、わたしは……その、恋愛感情として彩季のことが好きなの」
まことの言葉はまっすぐで、嘘偽りなんて微塵も感じられない。迷いがない。
しかし、目はうるんでいてわずかに赤かった。
「わかってるよ、おかしいことだって」
「まこと……」
「でもね、本当のことだから。ねぇ、彩季」
「な、なに?」
「彩季はわたしのことどう思ってる?」
私がまことのことをどう思っているか?
「私は」
言葉に詰まる。
私の思考は完全に停止しているようで、いくら質問をぶつけても一切返答は帰ってこなかった。
沈黙が流れる。
「ごめん、急に言われても困るよね」
「いや、私こそ。……ごめん」
「でも、できれば返事を聞かせてほしいの。わたし待っているから」
それじゃまたね、とまことは去っていき、私は一人その場に取り残された。
気づいたら自分の部屋にいた。帰り道のことは一切覚えていない。
ベッドに横になって天井にまことを描く。
今日見たまことは学校の時とも一緒に出掛けた時とも違っていた。
「あれが恋する女の子ってやつなのか」
本に出てくる恋する女の子。私は友達が少ないせいもあって間近で見たのは初めてだ。
そして、その女の子が好きな人は、……私。
頬を思いっきりつねってみても、夢から覚める気配は一切なかった。当たり前だ。これは現実なのだから。
「私はまことのことをどう思っているのだろう」
まことは女の子だ。そして私のことが好き。いや、今は一切そんなことは関係ない。一体私がまことをどう捉えているかだ。極々シンプルな問題である。
どうやら私の脳はやっと動揺からは解き放たれたようだ。軽快なスピードで思考は加速していく。
まことに初めて会ったとき私は、そう、とても綺麗で美しくヒロインのようだと思ったんだ。小説の中に出てくるような。それから朝によく会うようになって、次第に親しくなって一緒に本屋に行くことになった。
少しずつ、まことと過ごしたひと時を丁寧に思い出していく。
思い出せばいつでも、私はまことの表情一つ一つに心を動かされていた。
「ああ、そっか。同じだったんだ」
初めて会った時からまことのことが気になっていて、まことの言葉に顔にしぐさにいつも心を動かされていた。私はまことと同じで、まことは私と同じだった。
今までまことに対してもやもやしていたものが、『好き』という一言で綺麗さっぱり整理されたような気がした。
「返事、しないとな」
あの時は好きという告白に気を取られてしまっていたが、今思い出すとまことがかなり勇気を振り絞っていたことがわかる。 体は震え、声はちょっと裏返り、目はほんのり赤く、頬は上気していた。
私はそれに敬意をもって答えなければならない。
体を起こし、時計を見ると針は午後6時を指している。思ったより時間は経過していなかった。滅多に使わない携帯を手に取り、私は不慣れな動きでメールを打つ。
私は新しい朝を迎えるため、まことを呼び出すことにした。
随分とブランクが空いてしまいました。描写、口調等に不自然な点があったらごめんなさい。




