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「わかった、最後まで黙って聞いているよ」
「ありがとう彩季」
なんだかまことはまことで私に言わないといけないことがあるようだった。
まことが聞いてほしいというなら私は黙っていよう。
私が謝るのはそのあとでも遅くない、……かもしれない。
「わたしは彩季のことがずっと気になっていたの、……最初にあったあの日から」
まことは一回深呼吸するとゆっくりと話し出した。
「転校してきた日の朝、教室で見た彩季の姿がすごく印象的だったの。一人窓から外を見る彩季の姿が別世界の住人に思えて、そんな人にどうやって話しかけたらいいかわからなくて。デカルトの言葉なんか使って。……あれ、後からすごく恥ずかしくなったんだから。次の日も朝早く行ってみたら彩季はいて、ちゃんと話してみたくて読書の邪魔になると分かっていても声をかけて……」
まただ、自分の心拍数が上がっていくのがわかる。
「彩季と話すのが楽しくて、本当は朝早いのが苦手だからたまに寝坊しちゃうけど、頑張って早起きして彩季のところに行ってた。話すたびに彩季のこと少しずつ分かっていって。
本以外のことには興味持たないのかと思ったら、わたしの猫の話もちゃんと聞いてくれて。
普段は目つきが悪いってよく言われてるけど、本の話をしているときは楽しそうに笑ってるし、猫見てるときは優しい目してるし……。そしたら、だんだん……その」
まことの声が少し小さくなった。
「彩季が校庭を眺めてる写真がほしくなって……。それで朝カメラで教室の外から」
カメラ……?
「別に何かしようなんて思ってなくて、ただ自分でその、見るためっていうか、携帯の待ち受けにしようかなとか」
だんだん話の雲行きが怪しくなってきた。
「どうせ撮るなら綺麗に撮りたいと思って、一眼レフを借りてきて」
い、一眼レフ?
「それで撮ったデータはUSBメモリ……の代わりに普段使ってるMP3プレイヤーに保存したの」
MP3プレイヤーって音楽を聴く以外にも使用方法があったのか……。
「他にもあれにはわたしの日記を保存しているけど、……彩季は日記も見たの?」
「見てない、何も見てないよ」
私は写真すら見てない。
私はプレイヤーにあった音声ファイルを再生してタイトルをネットで調べただけだ。
あれには私の写真データが保存されていたのか。
まことは私が写真を見たと勘違いしているのだろう。
ならば早く誤解を解かなければ。
「まこと、私は」
「彩季、わたし」
私の言葉はまことの声によって再び遮られた。
「わたし、彩季のことが好き」




