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さて、冷静に考えるんだ私。
MP3プレイヤー片手に石造のように固まり、深く思考の海に潜る。
そういえば前にも同じようなことがあった。
まことが転校してきた日だ。
初めて会った時と比べると、まこととは随分親しくなった。
と同時にあの日見たことはすっかり忘れていたと言っても過言ではない。
ライトアダルトノベルスの前にいたまこと。
この事実自体はどうとでもとらえられる。
そう、特殊な用事があって偶然あそこに立っていたとか。
しかし今回は違う。
音楽だと思って再生したのは、そう……女性同士の。
「うがあああああああ」
再び大声を出し、頭を抱えベッドで悶える。
これは何なんだ。
なぜまことはこんなものを持っているんだ。
……知りたい。
私は兄の部屋に行きノートパソコンを借りてきた。
MP3プレイヤーにある音声ファイルのタイトルを頼りにインターネットで調べる。
「こ、これは……」
そこで見たものは今まで関わることのなかった未知の世界だった。
次の日、私は非常に珍しく遅刻をした。
朝日が昇るギリギリまで調べ物をしていて寝たのは何時だったか記憶にない。
当然時間通りに起きられるはずもなく、学校についたのは二時間目が始まる寸前だった。
「おはよう、遅刻なんて珍しいね。どうしたの」
「ああ、ちょっとね」
昼休み友達の恵子に訊ねられるが適当にお茶を濁す。
それよりもMP3プレイヤーをまことに返さなければならない。
だがいつ話しかけるか。
目立つことはしたくないのでまことが一人になったところを狙いたい。
ご飯を食べ終え、本片手にまことを目で追っているとふとした瞬間にばっちり目があった。
私の意図に気づいたのか友達の輪を抜けて教室から出て行く。
まことの後ろ姿についていくと人気のない特別教室の廊下にたどり着いた。
「どうしたの、彩季。遅刻なんてしちゃって今日朝待っていたのに」
「ああ、ごめん。まこと、これ」
私はまことを前に自然と言葉が少なくなる。
そのまま目を合わせないようにして昨日拾ったものを差し出した。
「これ……」
「昨日まことが帰った後自転車置き場で拾ったんだ。まことのだよね」
「うん、ありがとう」
まことはきっと笑顔でお礼を言っているに違いないが私は顔を向けることができない。
それは正しく勝手にまことの秘密を暴いてしまった罪悪感からであった。
「彩季もしかして見たの?」
まことの言葉に一瞬体が強張る。
「……どうしてそう思う?」
「今日の彩季なんか変だからかな」
私は答えることができず俯いたまま黙る。
まことのいつもと変わらない優しい口調が唯一の救いだった。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
「もう戻らないと」
「彩季」
まことに腕をつかまれ一気に引き寄せられる。
「放課後図書館の裏で待ってるから」
意味ありげに耳元でささやかれた私は呆然とその場に立ち尽くし、その間にまことは先に教室に行ってしまった。




