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朝の温度  作者: ほととぎす
5.私は考えるⅡ
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日曜日、私は家で本を読んで過ごす。

いつもと同じ休日、のはずなのだが今日は少し違う。

それは今読んでいる本にある。

これは昨日まことが選んでくれた推理小説だ。

なかなか分厚くて読み応えがある。


私は丸一日使って丁寧に一冊を読みこんだ。



翌日。

普段通り早起きして学校へ向かう。

だが何時になく私は早足だ。

朝の静けさやら何やらを楽しんでいる余裕なんてない。

しかし急ぐ理由もない。


「まったく、私の余裕はどこに行ってしまったんだろうか」


一旦足を止めてその場で深く深呼吸する。

肺が冷たい空気で満たされる。


「急いで行ったって学校にまことがいるわけじゃないだろう」


自分に言い聞かせるように声を出した。

私よりもまことが先に教室にいたことは今まで一度もない。

大体毎日朝早く学校に来るわけでもないのだ。


「幾ら早く本について話したいと言っても焦りすぎだろう」


誰もいない通学路で一人うめく。

正直、最近の私は得体の知れない何かに取り憑かれているとしか思えない。

集中力が低下しており、気が付けば上の空。

正気でいられるのは本の世界でのみだ。

これもまことの影響なのだろうか。

いや、どんな影響を受けているというのだろう。



教室について窓を開ける。

なんとなく落ち着かない心のせいで静かな世界に浸れない。

誰もいない教室で私はそっとため息をついた。


「早く来ないかな、まこと」



結局まことは授業開始ギリギリに教室に来た。


まことが朝の時間に来ないときは大体遅刻寸前の時間にやってくる。

もちろんそんな日は話す機会なんてない。

休み時間に私が話しかけるなんてことはしないし、まことも然り。

朝が唯一の二人の時間なのだ。


今日のまことはなんだか寝不足のようだった。

斜め後ろの席から観察するとまことの様子がよくわかる。

授業中は船を漕いでいたし、話しかけられてもどこか気が抜けた返事をしていた。

ぽーっとした表情のまことも可愛いなとか思ったのは秘密だ。


授業も終わり、放課後に寄っていた図書館から出ると校門脇の自転車置き場にまことがいた。

周りには誰もいないので珍しく話しかけてみる。


「まこと」

「あ、彩季」


まことは嬉しそうに振り向いた。


「今から帰り?」

「うん、ちょっと用事があって広表のほうに」

「そっか、気をつけてね」

「うん、また明日ー」


そういってまことは自転車に乗って行ってしまった。

ちょっと一緒に帰りたかったなとか思っている自分がいるが仕方がない。

私は歩きだし広表は歩いていくには少々遠い。

早く帰ってまことが選んでくれた本を読むことにしよう。


帰宅への一歩踏み出すと足元には白いものが落ちていた。

踏まずに済んだことに安堵を覚えながらそれを拾い上げる。


「MP3プレイヤー?」


MAKOTO.Kと印字されたシールが貼ってある。

まことの物だろう。

ウォークマンなどが主流の今MP3プレイヤーとは珍しい。


「明日会ったときにでも渡そう」


こうして私はまことのMP3プレイヤーを持ち帰ったのだった。



帰宅した私は自室のベッドに寝転がりさっき拾ったMP3プレイヤーを見る。

私は機械には疎いがこれが音楽を聴くものだということはわかる。

しかしこれをまことが学校で使っているところは見たことがない。


「まことは一体何を聴くんだろう」


クラシック、ロック、それとも今はやりのアイドルグループの曲?

残念ながら私は音楽に興味がないためよくわからない。

けれどまことが普段どんな曲を聴いているのか非常に興味がわいた。


「……聴いてみようか」


人の物を勝手に使うのは悪いことだとは分かっている。

しかし日記や手帳でもないし少しぐらいなら。


ベッドから立ち上がり机の引き出しからイヤホンを取り出す。

耳にイヤホンを装着して準備完了。

カチカチとボタンを押し電源を入れる。

そのまま適当に再生ボタンを押すと途中で止められていたものが再生された。


「ひゃっ、あぁぁん……あや、ダメだってぇ、んんぁ」

「ちゅっんちゅ、鈴……大好きよ」

「んんっ……あんっ、あやぁあやぁぁ」


沈黙。


私は静かにMP3プレイヤーの電源を落とし深く息を吸い込む。


「な、何なんだこれはあああああああああ」


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