10
ご飯を食べ終えて今度は私がテーブルに本を並べる。
エラリー・クイーン作、『ローマ帽子の謎』。
ディクソン・カー作、『盲目の理髪師』。
高木彬光作、『人形はなぜ殺される』。
よくわからないが本格感あふれる選書だ。
まことがガチで私をミステリマニアにしようとしているのが伺える。
「ネタバレになっちゃうから作品について話すのはやめるねー」
じっくり読んでねというまことの言葉にうなずき、私は辺りを見渡す。
時計を見ると結構長く店にいたみたいだ。
「そろそろ出る?」
「そうだね、どこに行こうか」
「今度はわたしがエスコートするからっ」
張り切ったまことの声に少し驚く。
まぁ、楽しそうだからいいか。
まことは立ち上がり兄に伝票を渡した。
「お会計お願いします」
「いいよ、俺が払っとくから。彩季のことよろしくね」
「はい!」
まことと手をつなぎ、店を出る。
ええ、もう恥ずかしいとかいちいち言ってられませんよ。
それにまことの嬉しそうな顔を見ていると無下に振り払うのは気が引ける。
というか満更でもない自分がいます。
駅前に出てぶらぶらと歩く。
「天気いいね」
「そうだねー」
太陽は高く上り、日差しがまぶしい。
けれど風があるためそれほど暑くない。
散歩に適しているといえるだろう。
まことに手を引かれ住宅地のほうへ向かう。
「あっ」
急にまことが声をあげた。
その視線の先には、……普通の車しかない。
まことはその車にそっと近づいて身をかがめる。
「こんにちはだにゃー」
「ニャー」
すると車の下から一匹の猫が出てきた。
猫は返事をしてまことの足元にすり寄ってくる。
人懐っこいと思ったらどうやら飼い猫のようだ。
鈴付きの黄色い首輪をつけている。
まことにならって私も猫に話しかけてみる。
「君の名前はなんていうんだニャー」
「ホックだにゃー」
私の質問にまことが答えた。
「ああ、君が」
たびたびまことの写真で見たことがある猫だ。
しゃがんで猫に手を伸ばしてみるとするりとかわされる。
そのまま猫はまことの陰に隠れてしまった。
「ねこ……」
「ホックー、怖くないよー。目つき悪いけど優しい人だよー」
「私ってそんなに目つきが悪いのか」
まことの追撃によりさらに私は声を落とす。
これが意外と気にしていたりするのだ。
「そ、そんなことないって。ほらこれあげるから」
そういってまことが鞄から取り出したのはネコじゃらし。
棒の先にふわふわした布みたいなものがついている。
「……まさか持ち歩いているの?」
「もちろんです!」
えっへん、と胸を張るまことからネコじゃらしを受け取った。
猫にむけてネコじゃらしを振るとそれに合わせて目が動く。
そのまま続けていると今度は体を動かしてネコじゃらしを追いかけ始めた。
「猫、かわいいね」
「でしょー」
ふわふわした表情のまことと一緒にふりふりと猫と遊ぶのに夢中になる。
いや、猫に遊んでもらっていたというのが正しいだろう。
しばらくするとホックは飽きたのか何処かへ歩いて行った。
「まことは猫飼ってるの?」
「ううん、家アパートだからさ。本当は猫と暮らしたいんだけどねー。彩季の家は何かかってる?」
「私のところは一軒家だけどペットは飼ってないんだ。兄貴は猫アレルギーだし、母さんは犬が嫌いなんだよね」
なんでも昔思いっきり噛まれたことがあるとか。
私の家では今後もペットは飼わないだろう。
まことを家に呼ぶ口実がって何を考えているんだ、私は。
その日はまことと猫スポット巡りを続けて夕方になり解散した。