僕は鬼になることを決意した。
あの後、美雪ちゃんからの連絡は無く、今日は日曜日だ。
月曜日提出の課題すら手に付かず、美雪ちゃんの事ばかり考えていた。
この時の僕は、マジで自分のせいで美雪ちゃんを死なせてしまったと思い、強い自責の念にかられていた。
その時、携帯のバイブレーションが鳴った。
美雪ちゃんかなと思って、僕は期待した。
でも現実は違った。健斗からだった・・・
『ごめんな、忙しくてなかなか電話掛けられなくて。そういえば、告白された女の子とはどうなった?あれから連絡が無かったって事は、上手くいってるんだろ?』
『あ、健人君か・・・健人君久々だね・・・う、うん葵さんとは上手くいってるよ。一応正式に付き合うことになったし。』
『なんで、お前そんなテンション低いの?付き合うことになったなら幸せじゃん!もっとテンション上げていこうぜ!後付き合ってる彼女にさん付けは無いだろー。お前もうちょい勇気だせよー。そんなんじゃ、折角のチャンス逃がしちゃうぜ。』
『そ、そうだよね。僕は今幸せなんだよね・・・今がチャンスなんだよね。分かった。うん。勇気出してみるよ・・・』
『そうだよ!お前は今幸せなんだよ!たまには勇気出さないと後で後悔しても知らないぜ。あ、忘れかけてたけどさ、お前今年お盆いつ帰ってくるん?仕事のお盆休み取る日決めなきゃいけないからさ。ちょっと早いけど教えてくれない?』
『お盆か・・・特に用事ないし別にいつでもいいよ。健人君の都合の付く日に会おうね。』
『分かった。じゃあ休み取る日決まったらメールするわ。じゃあ今日は切るな。またな。』
健人からの電話が終わり、僕は思った。
今僕って幸せなんだよな・・・と。
そりゃ、彼女もいるし、ぼっちじゃなくなったし、これで幸せじゃないって言うと贅沢すぎるって、全国のぼっちの人達から叩かれるんだろうけどさ。
やっぱり僕は辛そうな人みんなを救いたいんだ。
だからこそ、美雪さんを救えなかったのはくやしすぎて涙が出てくる。
お盆で思い出したけど、夏休みに美雪ちゃんと会う約束してたんだよな。
会うことからずっと逃げてた僕を、今になって反省している。
もっと早く会っていれば。
北海道に自分から行くくらいの事はして良かったと思う。
とか色々考えていた時、また携帯のバイブレーションが鳴ったのだった・・・
美雪ちゃんからのメールだった・・・
「レン君・・・私、死ねなかったよ。いつもみたいに手首切っても死ねるわけないし、首を吊ろうとしたんだけど勇気が無さ過ぎて死ねないし。仕方ないから睡眠薬を大量に飲んで死のうとしたけどやっぱり無理だった・・・ねぇ、レン君・・・もう私を見捨てないって本当だよね・・・なら、今すぐ私と一緒に暮らしてと言いたいところだけど、家出の準備とかあるし、東京の大学のオープンキャンパスに行くという建前で、夏休み東京に抜けだしてくるからさ、会った後にレン君の家に連れてってよ・・・そして一緒に住もう。絶対だよ!」
メールを見て美雪ちゃんが生きていたことを喜ぶと同時に、戦慄した。
あまりに美雪ちゃんの精神が破綻しているのだ。
本当なら美雪ちゃんと一緒に暮らしたいところだが、それは、僕無しでは生きれない状態に美雪ちゃんをさせてしまうことと同義なので、それをしてしまえば、完全に彼女の人生を破綻させてしまう。
彼女はちゃんと勉強すれば、日本で一番頭の良い大学に入れる能力を持っている。
そこそこの大学止まりだった僕とは違い、彼女は才能を持っている。
彼女の才能を潰さず、自立させる事が彼女にとっての一番の道だと思う。
そのためには、彼女に厳しくすることだって必要だ。ここは鬼になろう。
僕はそう思った。
ただどう返信していいか分からず、「死なないでくれて、本当にうれしいよ。」
と返信するにとどめた僕だった。