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中編

「おれは喋るよ。最近猫又になったんでな。で、おれは雄。子供のころ、お前に拾われる前にタマキンを怪我したからついてないんだよ。そして、ユリちゃんの正体はおれ。猫又になった記念にお前に手紙を出したら幼馴染みのユリちゃんがどうのと騒ぐからなりきってただけ。もう疲れたよ。お前の過去の亡霊になりきるのは」

 おれはまだわからないのでわからない顔をしてみた。リリーは馬鹿には呆れたと言わんばかりに目をしぱしぱさせる。

「猫又っていうのは妖怪。年月を経た猫は魔法使いの猫になれるんだよ。おれはもう生まれて十二年だからな。去年から猫又だ」

「うん」

「おれは雄。タマキンがないだけ。リリーって名前も不適切だ」

「うん」

「手紙の差出人がリリーという名前で、お前が幼馴染みのユリちゃんだと思い込むのにはたまげた。前々からバカだとは思ってはいたがここまでだとは……。とにかくユリちゃんはおれ。本物のユリちゃんはお前のことなんて覚えてないよ」

 大儀そうに前足を「しっしっ」みたいに振るリリー。おれは震えた。心から震えた。

「嘘だろ? ユリちゃんが友達のクラウディアと喧嘩をしたのも、ボクシングをしたのも、自由の女神に登ったのも嘘だっていうのか?」

 おれの呼吸は荒かった。だっておれはユリちゃんの存在をまざまざと感じていたから。ちょっと獣っぽい子だなとは思っていたけどまさかこのおれの親父よりオヤジ臭い猫が演じていただなんて、誰が信じるだろう。このリリーは安煙草とビールと競馬新聞が何より似合いそうな猫だった。

 リリーは前足でおれを鎮める動作をする。

「まあまあ、落ち着け。クラウディアっていうのはお隣のクロのことだよ。よく喧嘩してるだろ? ボクシングは猫パンチ。おれの得意技だ。自由の女神はな、ほら、窓から見えるあのソメイヨシノだ。おれはあの木が気に入っててな」

 緑色の葉で覆われ、すっかり夏仕様になった巨木を眺めながら、おれは絶望した。ユリちゃんはユリちゃんではなかったのだ。全てはおれの思い込みだったのだ。


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