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事実と法則

「私達は協力するべきだ! 協力し、元の世界に帰るべきなのだ!」

「……で、なら何故俺の邪魔をする?」


 二人の人間が死んだ、ちょうどクリスマスの日の事件、『ブラッドイブ』から一ヶ月。

 ナインがエデンから出ようと門へ向かっていると、ナインは数十人の男達に囲まれた。取り囲み、男の一人が突如演説を開始した。

 喋り出したのは短めの茶髪をした、二十代の男だ。青銅の鎧に身を包み、腰に剣を吊るし、背中に盾を背負っている。そこそこに背が高く、顔立ちも整っており、その集団のリーダーを務めているように見えた。


「この街の外には凶暴な魔物がうろついてる。洞窟には更に凶悪な魔物が待っているだろう。行われるのは、ゲームと言えど生死のやり取りだ。超能力や魔術を使えると言っても、私達は一般人なのだからな。万が一、万が一だ。君を巻き込んでしまうこともあるだろう」


 要するに、洞窟攻略の邪魔だ、と言っていた。

 そんな男に軽い苛立ちを見せるナインは、肩を竦めてみせる。


「通してくれないか? 俺は馬鹿で協調性のない奴なんでな、何を聞いてもさっぱり理解出来ない」


 予想よりも来るのが遅かったな、とナインは考えていたが、それを表情には出さない。


 『LA—解放軍』。

 ナインが洞窟攻略をしている間に生まれていた組織だ。

 このGardenにいる者は皆協力し合い元の世界へ帰るべきであると謳っている。大半の冒険者達が属する組織であり、現在、このエデンの街の治安維持を行っている組織でもあった。

 冒険者同士が情報をやり取りし、常に最高のメンバー、最高の状態で洞窟攻略を行えるよう、規律や環境を整えている。例えば、毒攻撃をする魔物の出現情報、近距離に強いフロアボスの攻略パーティー企画などである。

 また、リアルすぎる死に直面し、冒険者を止めた者達。LMは彼らに代わって洞窟攻略を進める、その代わりに彼らはこのGardenのシステムを研究するという関係を結んでいる。

 要するに、一刻も早くの洞窟攻略、引いてはGardenからの解放を目指した組織だ。


「いいのか貴様! これは俗にいうデスゲームなんだぞ! ソロで攻略を行う事が、どれほど危険な事か解っているのか!」

「……へえ、デスゲームだと思ってるんだな」


 違う。これはデスゲームなんてちゃちな話じゃない。

 そう言いかけるナインだが、なんとか踏みとどまる。知らなければいい真実もあるのだと。

 門の前で騒いでいたため他の冒険者が寄って来る。それに構わず、むしろ彼らに宣言するように、ナインは声を上げた。


「何がデスゲームだ、馬鹿馬鹿しい。本当にこの世界の死が、現実の死だとでも思っているのか? 仮にそうだとしても、蘇生アイテムがあるんだぞ? 何を怯える必要がある」


 ナインは自信を持って、これが真実だとでも言うように語る。

 こんな事も解らないのかと、リーダー格の男へと嘲笑を浮かべて見せる。


「これはゲームなんだろう? 楽しまなければ、人生の損だ。たとえ死が現実だろうと、俺達が今を生きている事に変わりはない」


 そう言い切り、ナインは跳躍。

 驚く男達の囲いを飛び越え、猫のように華麗に着地した。


「外でお前等を邪魔はしない、PKもしない、エデンの規則は守る。それで良いだろ?」


 ナインは振り返る事もせず、颯爽とエデンを出て行った。

 ナインの身体能力や言動に周囲は驚き、アホみたいに口を開けて見ている事しか出来なかった。ある者はその高慢な態度に憤りを見せ、ある者は一理あると頷いたが、結局皆が思ったのは、『馬鹿だな』という感想だった。

 リーダー格の男が、怒りに肩を振るわせていた。




「LMは悪い組織じゃないけどな、俺には向かない組織だ。あれは洞窟攻略の効率化を目指した組織で、要らない者は踏み台にして、より強い者がより強くあるべきだと考えている。今は問題ないが、いずれ強いからと偉ぶるような奴が生まれるだろうな。俺はその時に、渦の最中にいたくない」


 洞窟の中層にて、[召還魔法]で召還したアイに、ナインは先ほどの事を伝えていた。

 結局は組織が面倒なのと保身さ、とナインは笑みを浮かべる。


「軽蔑したか?」

「いえ。自分の身を自分で守ろうとする、良いのでは?」

「まだお前がいないと満足に洞窟を探索出来ないんだがな……」


 照れくさそうに笑うナインに、アイは首を振る。


「そうでなくては、私が暇です」

「そ、そうか……」


 何か敗北感を感じるナイン。けれど、洞窟を攻略した現在でも、アイの方が何もかものステータスが高い。そもそも、比較するような対象ではないのかもしれなかったが。


 洞窟を攻略したナインが行っているのは、このGardenの世界の調査だ。

 この世界が異世界だとすれば、当然のように湧いて出る疑問をなんとか解決しようとしていた。

 例えば、たったの100ptで出されるエデンの料理、それがどのような仕組みになっているのか。反無限に出てくる洞窟やフィールドの魔物。その死骸の処理など。


「やはり今日も(・・・)あったか」

「中身は違いますが」


 洞窟の行き止まりにて、ナインは木製のチェストを発見していた。所謂宝箱だ。

 この宝箱も、日によってその出現場所と中身が変わる。


 これが異世界で、ゲームで無い、現実ならば、これらは一体どうなっているのか?


 HPやMP、ステータス、超能力や魔術、そして魔法など、調べても次々と謎が生まれるばかりであった。

 一つ言えたのが、地球の物理法則、化学反応がだいたい存在している事だ。

 これまでの一ヶ月間、違和感を感じたのは目覚めた時だけであった。空気中で一点を中心に回転したり、地面に埋まる、壁に挟まるなどといった現象は起きない。

 まあ、ゲームでなく異世界なのであれば、当然なのかもしれなかったが。


 しかし、他の冒険者の中で一体どれほどの人数が、この世界がゲームでないと気付いているのか、ナインは全く解らなかった。

 何せ、こうして調査ししてるナインですら信じられないのだ。

 事実と法則ばかりで、原理と言う物がまるで解らないのだから。


「……しかし、良く出来てやがる。『ゲーム』っぽさをよく表現した世界だ」


 洞窟の壁に向かって剣を振るナイン。剣が洞窟の壁に接触した瞬間、金属音と共に剣は弾かれた。壁を触った感触は冷たく硬いが、剣が弾かれる程ではなかったと言うのに。

 続けてナインはすこし距離を空け、右手小指と左手人差し指に魔力を流す。流した魔力が消えるのと同時に、橙色の魔法陣が壁際に浮かび上がった。


 [爆裂魔法]。消費MP8、[爆発魔法]の一つ上位の魔法で、視界を埋め尽くさんばかりの大爆発を起こす。オークであろうと喰らえば無傷では済まないレベルだ。


 爆発が起こり、轟音が鳴り響いた。わずかに洞窟を揺れ、ぱらぱらと天井から石片が落ちてくる。

 だがそれでも、洞窟の壁は無傷だった。


「スコップなんかで掘って、最深部までの最短ルートでも作るかと思ったが、無理みたいだな」

「やはり、エデンと同じですね。あの街の壁を攻撃した時に発生する現象と一致します」

「あと、エデンの住民だな」


 一度、ナインはブランと稽古をした事がある。

 ナインがブランを木刀で打ち付けようとした時、木刀はブランに触れる前に弾かれた。当時はゲームの仕様だと思っていたナインだが、これが異世界なのであれば……。


「この技術が欲しい。これがあれば、HP以上に完璧な防御壁が可能だ」

「しかし、エデンの壁もこの洞窟も一切の攻撃を受け付けません。採集は不可能かと。……まさかエデンの住民を?」

「それは無理だろうな。エデンは物を壊す行為が不可能だ。例えば、剣。エデンでは鍛冶の能力を使わなきゃ、壊したり変形出来ない。けど、外に出れば簡単に壊れる」

「……となると、エデンにおいてのみ、住民は守られていると?」

「だろうな」


 そう言うとナインは剣を消滅させ、来た道を戻る。その後をアイがしっかりとついて行った。


 他の冒険者達がこの洞窟の攻略を初めて二週間。

 彼らは未だに二、三層をうろついており、ナインがいる中層までは到達出来ない。

 洞窟内部が変化する事は無いため、現在は他の冒険者と出会わないよう注意しながら、洞窟の地図の作製も行っていた。


「物理法則は存在しつつも、イレギュラーが多すぎる。この洞窟だってそうだ。全五十層からなる洞窟だが、この空間だと明らかにおかしい」


 洞窟一層一層の広さは、少なく見積もっても一キロ平方メートルはある。それが五十層あり、最終的には外に出るのだ。一層の高さは四メートル程あり、更に三十層にもなるとドラゴンなどがフロアボスとして存在するため、その天井も高くなる。

 更に、一層ごとに休息ポイントが存在し、そこへの移動が可能な魔法陣が存在している。


 物理法則では決して解決出来ない、召還と言う現象。

 空間が歪んでいるかのような、不可思議な洞窟。


「調べれば調べる程、信じられなくなる。これがゲームじゃないなんてな」

「……そうですね」


 このGardenは、仮想現実のゲームとして考えると驚く程よく出来ており、現実として考えると不可解な点が多すぎる。真実を知ったナインであっても、未だ信じられなかった。


「……何もかもが変わった。事実は事実、法則は法則、か」

「原理は考えるだけ無意味ですね。必要なのは、より多くの事実と法則を知る事。そしてそれらの改変が可能なのか、可能であればその方法を知る事、でしょう」


 目的を再認識するように言ったアイに、ナインは頷く。

 

「ここが現実だと知ったら、エデンはどうなるか。その時までに、俺は救いの一つくらいは用意していたい。あの男が用意しなかった、救いを」


 ナインは考える。

 この『世界』を救う方法を。


「…………」


 アイは考える。

 この世界が現実ならば、召還獣である自分は、一体何者なのか。

 事実と法則は知っていた。

 原理は求めない。自分がこの人の隣にいられるのならば、それで良いと思っていた。

 けれど。

 自分の存在意義は、一体なんなのか。

 本当に隣に居続けていいのか、それが解らなかった。



 ので、少しばかり考えるべく、姿を消した。

 召還獣は、気まぐれだった。



 結果、一人なってしまったナインは洞窟の調査に思いのほかMPを消費し、洞窟を出た時点でMPがゼロ、回復アイテムもゼロとなった。

 そして、一人の少女と出会ったのだった。

 


☆☆☆

 


[召還魔法] 消費MP36 左手五指、右手親指小指に連動

 存在[召還獣]を概念[召還]し、戦闘へ参加させる。

 以後の召還獣の行動は、召還獣によって異なる。


[爆裂魔法] 消費MP8 右手小指、左手人差し指に連動

 概念[爆発]を起こす。

 存在[敵]全体に有効。

今回より、超能力、魔術、魔法の解説(?)を物語最後の☆マーク以後につけます。


感想・指摘・批評などを頂けるとありがたいです。


指摘を受け、現在改訂中。次回更新未定。


評価してくださった皆様、ありがとうございます。

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