第44話 素材の違い(7歳)
カブの種まきの時期がやってきた。すでに2週間前に完成した堆肥を畑に撒いてなじませてある。
一番区画は通常の堆肥。
二番区画は魔物素材入りの堆肥。
三番区画は魔物素材多めの堆肥。
四番区画は魔物素材と魔石の粉末入りの堆肥。
この4つの区画とトムの父親の畑で育てるカブで検証する予定だ。
トムの父親の畑には堆肥が足りておらず、撒けていない。だが今回の協力でいくらか報酬をだしているため納得してもらった。ついでと言ってはなんだが、畑の手入れも頼むことにした。
1日目
種まきを終えた。
四つの区画と比較用の畑に同じ日に種を蒔く。
5日目
発芽を確認。
全ての区画で芽が出た。
「ちゃんと芽は出ましたね。」
「今のところ問題なさそうです。」
まず発芽不良がないことを確認。
10日目
双葉が揃う。
堆肥なしの畑より堆肥入り区画の方が少し勢いが良いように見える。
ただし大きな差ではない。
葉色も正常。
15日目
本葉が増え始める。
ここで初めて四番区画の成長が少し目立っていた。
「四番区画だけ少し葉が大きくなっています。」
「言われてみれば。」
専門家で気がつくレベルのため、まだ誤差かもしれない段階。
20日目
誰が見ても差が出始める。四番区画だけ葉が一回り大きい。
しかし、葉の色は正常で、枯れや奇形はない。
25日目
四番区画だけ明らかに成長が早い。
「この区画だけ育ちが良すぎませんか?」
副作用の兆候は見当たらない。
30日目
四番区画だけ収穫可能な大きさになっているため、試し掘りをすることにした。
「このカブってこんなに大きくなるの?」
「収穫可能時期ならこれくらいなりますが、こんなに早く揃ってこの大きさになることはないです。初めて見ました。」
形状も正常で、二股や奇形もない。
「味もみてみようか。」
「大丈夫なんですか?」
「その確認も兼ねてだね。アレンを呼んで来るね。」
しばらくするとサミュエルがアレンを連れてきて事情を説明する。
「そういうことなら坊ちゃんに食べさせるわけにはいきませんが……。わかりました。」
そう言うと、アレンは綺麗に洗い、切り分けられただけの生のカブを一切れ食べた。
「変な味はしませんね。少なくとも食べられないことはありません。」
その言葉を聞き、トムの父親が一切れ取って口の中にいれる。
「普通の味ですね。未熟な感じもないしおかしな味もないです。」
「ならこのあとどうなるかも見たいしこのまま育てようか。」
35日目
四番区画はさらに大きくなっている。他区画はもう少し。
土の状態も確認をする。
「変な臭いもありませんね。」
40日目
二~三番区画も収穫可能。通常の堆肥との差が明確になる。
10日前にカブを食べた人たちには特に体調不良などの報告はなかった。
50日目
トムの家の畑も収穫することになったため、全区画収穫をすることにした。
堆肥なし(トムの家の畑)で収穫されたカブを基準に比較することにした。
一番区画のカブはやはり一回り大きかった。堆肥の有無が明確にわかる。
二番区画の魔物素材入りの堆肥は大きさこそあまり変わらなかったが、しっかり育っているカブが一番区画より多かった。偶然の範疇かもしれない。
三番区画の魔物素材入り堆肥は二番区画とあまり違いは見られなかった。魔物素材を増やしてもあまり効果はないのかもしれない。
そして四番区画が問題だった。
「これだけ明らかにおかしいよね。」
「一番区画のものより目に見えて大きくなっていますね。」
「なにか異常はある?」
専門家のトムの父親に作物や畑に異常がでてないか確認してもらう。
「今のところ、作物も大きい以外は普通です。土も悪くなっていません。むしろ堆肥を混ぜる前より良くなっています。」
今のところ副作用はなく、良い結果が出ているようだ。
「少なくとも私には問題があるようには見えません。」
「じゃあ次はそれぞれ味を見てみようか。」
そう言ってそれぞれ切り分けてもらった。アレンとトムの父親に再び味見をしてもらう。まずは一番区画から三番区画のカブを食べてもらう。
「やはり堆肥があると味も良くなりますね。」
「前に食べたのとあまり変わりません。一番から三番まで味の違いは私にはよくわかりませんが、十分食べられます。」
そして最後、問題の四番区画のカブを差し出す。
「大きくなりすぎると中がスカスカになったり味が落ちたりするんですが……。」
トムの父親が経験からそう判断して口に入れる。続いてアレンも口に運んだ。
「……美味い。」
「そうですね。一番から三番区画までのより味が濃い感じがします。」
「大味になってないですね。たまに大きいのは取れることはありますが、味はどうしても落ちてしまうのですが、これはいままでのカブより味がいいです。」
(この結果はどう考えても、魔石を粉末にして撒いたのがよかったとしか思えないよなあ。もう少し検証したい。)
「アレンたちは前にこのカブを食べて体調が悪くなったとかはないんだよね?」
「はい、私はなんともありませんでした。」
「私もです。」
トムの父親も問題なかったとアレンの発言に続いた。
サミュエルはトムの父親に今後の予定についても尋ねた。
「カブの収穫が終わったけど、次は春まで畑を休ませるの?」
「いいえ、次は冬小麦を植えます。今から植えて春に収穫する作物です。今の畑は休ませて別の畑でやります。その準備も終わっています。」
(そうなると改良した破砕や発酵用の魔術具を試すのにもいいな。)
「わかったよ。では明日新しく堆肥を作るのでそれに合わせてこっちの畑にも使う方向でいこうか。」
「そのことなんですが……一つ良いでしょうか?その堆肥は私の畑にも使わせてもらえないですか?」
トムの父親が申し訳無さそうに提案をしてきた。
「別にいいけど……まだ実験段階だよ?」
「あの結果を見せられたら試してみたいと思いまして。」
「土にどんな影響が出るかまだわからないんだよ?それでもいいならいいけど……。」
「それは承知の上です。」
あれだけの収穫量増加が見込めたのだ。使いたくなる気持ちはサミュエルも理解できた。
「さすがに全部とは言えないから一部分だけね。」
「それで十分です。」
そうして次の実験が決まった。
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翌日、衛兵に再び魔物の死体を運び込んでもらった。
今回は発酵用の魔術具には撹拌機能を追加した。
原理や術式は破砕用魔術具と同じだ。発熱と時間加速のための魔術を込めると中にある刃がゆっくりと回転し、中の堆肥を撹拌してくれる。
これで堆肥作りの作業が効率化できた。魔力の蓄積も2日は保つようにしてあるので魔力を注ぐと、発熱と時間加速が2日分持続し、その間に撹拌用の刃が僅かな時間だけ回転する仕組みだ。
そして今回の堆肥作りは少し変化をもたせることにした。
一番区画は腐葉土と糞と魔物素材の堆肥。
二番区画は腐葉土と魔物素材の堆肥。
三番区画は腐葉土と魔物素材と魔石の堆肥。
四番区画は腐葉土と糞と魔物素材と魔石の堆肥。
理由としてはそもそも堆肥不足の原因は糞や生ゴミなどの有機物が足りてないことだった。だからそれを魔物の死体でかさ増ししようと考えたわけだ。
なら糞や生ゴミなどの有機物を抜いて魔物の死体と腐葉土だけでできるかの実験も兼ねることにした。そしてその場合でも魔石の有無でどう変わるかも見てみたい。
トムの父親の畑には1度効果が確認できた四番区画と同じものを使ってもらうことにした。なにも問題が出てないなら前回の結果はその組み合わせが一番効率がいいからだ。
そうして生育状況を確認しつつ収穫の春が来るのを待つこととなった。




