第41話 発酵(7歳)
町に帰ると、サミュエルとマイケルは4人と別れた。
4人はこれから駐屯地に魔石を持って報告をしてくれるとのことだ。マイケルはサミュエルを一人で帰すわけにはいかないので一緒に帰らせてもらった。
そうして屋敷に着くとサミュエルは早速試験の準備に取り掛かる。
堆肥作りのための温度調整に2ヶ月もかかってしまったがその間なにもしていないわけではなかった。基本的には受注依頼を最優先にこなし、空いた時間に開拓用破砕魔術具の出力調整を行っていた。
魔力消費は増えてしまったが、想定通りなら魔物の骨も砕けるほどのパワーがでるようになったと思う。
そのためすぐにゴブリンの腕を解凍する。結果を見てみたいので、素材の骨から肉を削ぎ落とした。まずは骨から投入すると硬いものを砕く音がしたあと、湿った粉末が出てきた。間違いなく骨粉ができた。
続いて肉を投入する。ミチミチという音がしたあと、ミンチが排出された。
こちらは元から心配はしていなかったが、想定通りの形で出てきてくれたことに安堵した。
あとは粉砕した魔物素材と糞、腐葉土を混ぜ、適温の発熱魔術具の箱を3つ用意し、その中に入れて経過観察することにした。
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2週間後、中身を取り出してみる。
「なんか、腐ってないか?」
開けた瞬間不快な匂いがした。温度調整で一度嗅いだ匂いに似ている。だが強烈ではない。見た目も問題ないように見える。中身をほじくり返して見てみると、下のほうが腐っていた。残りの2つの箱の中も同じ結果だった。
「なんで下だけ……?」
サミュエルは箱の構造を見る。発熱術式は蓋側についている。つまり熱源は上だ。
「上は温かく、下は温度が低かった?」
直接手で触ってみると上の方が乾燥気味で、下の方が湿っている。
「そうか、同じ材料でも熱源からの位置で状態が違うのか。」
温度調整のときはいまより量が少なかった。今回はゴブリンの腕を一本分使っている。
「上は乾いているのに下は湿ったまま……。」
もう一度中を掘り返してみる。
「なら腐る前に全部を同じ状態にすればいいんじゃないか?だけど熱を上げすぎると今度は干からびてしまうし、同じ状態とは言えない……。」
しばらく考え込み、ふと答えに辿り着く。上と下で状態が違うのなら、途中で入れ替えてやればいい。
「ああ、かき混ぜればいいのか。」
だがここで一つの問題に突き当たる。
「魔物素材……また取りに行かなきゃ……。」
そうして再び魔物駆除の任務に同行することとなった。
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今度は首無しのゴブリンを丸々1体持ち帰った。
理由は実験に失敗した時に、また取りに行くのが面倒だったからだ。
「一体丸ごと砕けるかの検証にもなるし、いいよね。」
もちろん表向きは一体丸ごと砕けるかの検証という理由だ。なお、問題なくゴブリン一体を丸ごと骨と一緒にミンチにできた。
ミンチを4等分して、これから使うもの以外は氷漬けにした。
これを調理場に持っていき、保冷箱に保管させてもらう。通常でも1週間ぐらい期限が伸ばせる保冷箱だ、冷凍したミンチなら長く保管できるだろう。
「ちょっと保冷箱の一部使わせてもらって良い?」
サミュエルは料理長に対してそんな事を言う。
「いいですが、それはなんですか?」
「ゴブリンを丸ごと細かくしたやつだよ。何回かに分けて使いたいから腐らせないためにここに置かせて欲しいんだ。」
「ええと……坊ちゃん。もうしわけないですがゴブリンは不味くて食べられませんよ。」
「食べないよ!?」
どうやら食用にしようとしてると勘違いされてしまったようだ。
「これは実験で使ってるんだけど時間がかかるから使うまで保管させてほしいってだけだから。間違えて使わないようにね。」
「はあ、大丈夫だとは思いますが……。他の者にも伝えておきます。」
あらぬ疑いをかけられかけたが、あと3回分は問題なく実験できそうだ。
今回はとりあえず3日に1回ぐらい撹拌をしてみようかと思う。
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あれから2週間経過した。3日ごとに撹拌していたので腐敗していないことは確認できている。現状は一見うまくいっているようにも見えた。
しかしまだ骨粉やミンチがやや残っている。
「腐らずに堆肥にはなってきている……。けどこれだと時間がかかるから駄目だなあ……。」
とりあえず3日ごとに撹拌させた場合、完成までどれくらいかかるのかは確認したい。
「いや、別にこれは完成自体はするのがわかったから、3箱全部やる必要ないかも。全部まとめちゃえばいいか。」
そうすれば2つの箱が使える。それぞれ新しく5日で撹拌、7日で撹拌と同時に検証することができる。しかしそこでふと気付く。
「それと混ぜるなら、いっそ改良した粉砕魔術具に腐葉土や糞も入れていいかもしれないね。」
そうすればあとで最初によく混ぜる手間が省ける。ミンチや糞は粘り気があるから作業工程も減らせる。
そう思い、調理場の保冷箱に魔物素材を取りに行った。すでに粉砕魔術具で一度ミンチ状にしてるが、糞や腐葉土と一緒にかけてみようと思い実行した。
「思ったより良い感じに混ざってる気がする。ではそれぞれ箱に入れて、5日と7日で撹拌だね。」
実験の準備はできた。ただし、セドリックからは粉砕魔術具の匂いで怒られることになった。
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その後、さらに2週間観察したところ、3日の堆肥は問題なく完成した。こちらは時間はかかるが品質も問題なさそうに見える。5日と7日の箱も確認すると、5日のほうは、3日ごとの撹拌を行った箱の2週間時点よりも、やはり堆肥化が進んでいた。だが僅かにまだ骨粉が残っていた。おそらく次の撹拌時の確認では完成していそうだ。
7日のほうは駄目だ。すでに僅かに腐敗臭がする。掘り返してみると一部黒ずんでいたためこれは破棄することにした。
(大体の目安は見えてきた……。だけど問題の時間がかかることはまだ解決できていない……普通に作るよりは早いけどもっと早くできないかな……検証結果の確認にも時間がかかってるし……。)
5日ごとの撹拌で安定して堆肥化できるか、再現性があるかを確認するため、空いた箱にもう一度5日で試してみようと思い、調理場の保冷箱に素材を取りに行く。
まだしっかりと凍っており、素材も大丈夫のようだった。
前回、腐葉土や糞と一緒に粉砕魔術具を使った後に怒られたため、今回はやめておくことにした。楽だが庭から移して本格稼働してからにしようと考えた。
箱に入れる前に解凍した魔物素材と糞と腐葉土でよくかき混ぜる。
その作業をたまたま見ていたアレンがサミュエルに声をかけた。
「それは以前取りに行った魔物の素材ですよね?まだ使えるんですか?」
「うん。腐らないように凍らせておいたからね。それに保冷箱に入れておけば時間遅延のおかげでこれくらいならまだまだ腐らないよ。」
アレンからしてみれば冷凍してさらに専用の箱に長期保存できるというのがいままで想像もつかなかったのだろう。前世を持つ中の男からしてみれば冷凍庫に長期保存しているような間隔だった。
(あれ?いまなんか引っかかったな?)
サミュエルは作業の手を止める。
「ねえアレン。僕って今なんて言った?」
「ええっと……急にどうされました?」
アレンはまた妙なことをサミュエルが言い出したと思った。
「そうですね。腐らないように凍らせておいた。保冷箱なら、時間遅延のおかげでまだ腐らない。でしたね」
(腐らない……、凍らせる……、保冷箱……、時間遅延……。)
その時サミュエルに電流が走った。
「それだ!ありがとうアレン!その手があったんだ!そうか逆をやればいいんだ。」
(保冷箱は腐らせないように凍らせて時間遅延の魔術までかけている。今やっていることはその逆、腐らせる……いや発酵させて、温めてるんだ。ならそこに時間加速をしてやれば?保冷箱に時間遅延が使われているんだ。その逆の時間加速があるかもしれない!)
今の問題を打開できる可能性に気づき、サミュエルは作業を中断した。すぐに手持ちの本を確認し始めた。




