第4話 初体験(3歳)
魔術の入門書を開く。
入門書らしく、はじめに魔術の扉を開いた人への言葉が綴られていた。
「魔術が使えるかは素質である。多くの者が使えない。だが知識は力である。たとえ魔術が使えずともこの書で得られた知識は必ず糧となるだろう」
才能がなければ魔術が使えないようである。
それに続き魔術とはなにか、魔法とはなにかが記載されている。
【魔術】:魔法を技術として体系化させたもの。魔力の運用が効率化されており、発現すると術式に沿った現象が発生する。人類が使用する。
【魔法】:魔力を消費し、属性に沿った事象を発生させる。魔術に比べ消費が激しく操作も難しいが発現させられれば使用者の任意に操作がしやすい。人類はまず使用できず魔物が魔力を行使する事象を魔法と呼ぶ。
【魔力】:この世のすべての生物に存在している。ただし個体差がある。また物質にも魔力が含まれているものがある。魔力は主に魔術(魔法)を使用する際に消費される。
やはり魔力が存在していた。
間違っていなければ魔力(仮称)としていたもので間違いはないだろう。
しかし読んでいると入門書の割に小難しく書いてあるが、おそらくこれを読んで教師が噛み砕いて生徒に教えていると思われる。
【属性】:6柱の神がそれぞれに司る属性。火、水、風、土、光、闇がある。属性に変換される前の魔法や魔術は無の属性とされておりこれに属する神はいない。詠唱して魔術を使う場合、属性への適性が重要となる。
神話が絡んできた。
だが魔術の本のためおおまかにしか書かれておらず神に関する記載はこれぐらいしかなかった。
入門書を読んでいていくつか気になった点をまとめてみる。
・魔術の行使には素質が必要
・傾向として魔術を行使できるものは10人に1人ほどの割合
・その中でも9人は初級の魔術までしか使えないが生活は便利になり、職に困ることはない。
・残りの中級以上の魔術が使えるものでも個人差がある。
・魔術に初級、中級、上級、極級、神級とあり、これらに分類されないものは固有魔術と言われる。
・人類は基本的に、術式を介してでなければ魔術が発動できない。
・術式がなければ魔力をただ外に放出するだけになる。
・魔力は使いすぎると魔力切れを起こし、意識を失い倒れてしまう。
・魔力の限界は使えば使うほど増えていく。これは普通の人のスタミナと同じ原理だと考えられている。
意識を失うまで魔力を使い続けた日々にも意味があったのはよかった。
魔力は体内に感じられるし、操作することで体内から放出されることも確認できている。
どうりで自分がいくら頑張っても魔術が使えないわけである。
だが術式を知らないため魔術として発動できていなかったのだ。
【術式】:決められた形の文字の列。魔力を流すことで発動する。術式にはいくつか形があり最も簡単なものは紙に書かれた術式に魔力を流すこと。これなら魔術の素質がある者であれば属性への適性がなくても発動できる。
その次が詠唱、言葉に魔力を乗せ決められた言葉を諳んじる。
そして最も難しいのが、無詠唱。言葉にしないだけで頭の中で術式を一切間違わず思い浮かべ、魔力を流す。
難しく書いてあるが単純化してしまえば1+1という式を実行すれば必ず=2という結果が出るといった感じだろうか。
なお入門書に記載されたこの術式に魔力を流しても何も発動しないように細工が施されている。
しかしなんだろうか。前世で自分は頭が悪かったわけではないが、特別よかったわけでもなかった。
にも関わらず文字の習得にはじめ、この本の内容も頭にスムーズに入ってくる。まだ若いから知識を吸収しやすいのか、素体となったサミュエルがいいのか……。
「ねえ、カーク。いいかな?」
「なんでございましょう。」
カークとは先程から俺に付いてくれている使用人のことだ。
「魔術をやってみたい!」
「かしこまりました。では庭に出て試してみましょうか」
おそらくこうなることは想定されていたのだろう。
それは祖父との先ほどの会話からも窺える。それにもしかしたら男の子が必ず通る道なのかもしれない。
そして素質がないことにがっかりする子も……。
そうして庭にやってきたサミュエルとカーク。
サミュエルの手には先程の入門書がある。
「では坊ちゃま。いつでもどうぞ……言いたいところですが私が決めた魔術から試してみましょうか。」
当然だろう。いきなり火を出されても困るだろうから。
でも男の子なら派手な火を選びかねないので監督するものが何を使うか指示するのだ。
「このクリエイトウォーターなどどうでしょうか。」
もし魔術が使えた場合、安全性を考えれば水か風。そして風だと視覚的にわかりにくいためおそらく水を選んだのだろう。
これで出せなければ魔術の素質がないと本人も理解してくれる。これも多くの人が通った道なのかもしれない。
「うん、わかった。じゃあいくよ」
カークが万が一サミュエルが意識を失っても大丈夫なように支えられるように、触れられる位置に控えた。
サミュエルは片手を前に突き出し、入門書に書かれている水の魔術の詠唱を始めた。
「水の精霊よ、我が魔力を糧に潤いを与え給え。クリエイトウォーター。」
心臓のあたりに感じられている魔力が、わずかに突き出した方の腕へ流れていくのを感じる。
そしていつもの訓練と違い、魔力がなにかに変質しているのも感じた。
これが術式による発動の効果なのだろう。
突き出した手のひらから、手のひら大の水が生成され、魔力の流れが切れるとともに水の塊が落下した。
「おめでとうございます。坊ちゃま。坊ちゃまにも魔術の才能があってなによりでございます。」
「やった!ありがとうカーク」
魔力操作ができていたのでできるとは思ってはいたが、やはり実際魔術が使えるとなると嬉しいものだ。ここは子どもらしく喜んでみよう。実際嬉しいし。
「ただし坊ちゃま。その本にも書かれているように使いすぎには注意してくださいませ。魔力が切れると倒れてしまいますゆえ。」
「うん、気をつけるよ。さっきも身体の中のなにかが減っていく感じがしたから。でもあと1回ならいいよね?」
「いいえ、いけません。どれくらい使っていいかは旦那様やお父上と決めてからとさせてもらいます。これはマイケル坊ちゃまのときも同じでした。」
それはそうだろう。自分はすでに魔力の総量が体感で把握できているが、今日初めて魔術を使ったことになっている。
いつ倒れるかわからない状態で雇い主の孫の自由にさせるのは使用人として絶対に避けたい。
「うん、わかった。でも絶対教えてね!」
「ええ、決まりましたら必ずお教えいたします。もしかしたら私ではなく旦那様かお父上から直接お話があるかもしれませんが。」
そうしてサミュエルの初めての魔術の発動は終わった。




