第14話 町へ(4歳)
サミュエルは母と姉、兄と共に食堂で、父と祖父が来るのを待っていた。夕食の時間である。
食事の時間でも普段はマナーの勉強も兼ねているので会話があまりない。
だが、今日は少し違っていた。祖父が口を開く。
「ところでサミュエル、話があるがよいか?」
「はい、なんでしょうか。」
そう答えるがサミュエルには大体察しがついた。このタイミングでわざわざ食事の時間に尋ねることなど一つしかない。
「魔術具を修理したそうだな。」
「はい、そのとおりです。」
その言葉に母親が驚く。
「まあ!本当なのですか?」
「ああ、本当だよ。先程部下から報告があった。修理したものも見せてもらったけどちゃんと使えるようになっていた。」
エドワードが母親の驚きに対して補足する。
「サム!貴方凄いじゃない!魔術具を直せる人ってそんなにいないんでしょ?」
ミシェルが続いてサミュエルを褒めてくれる。
「そうなんですか?僕はなんだかできそうだったのと面白くてやっただけなので凄いのかどうかよくわかりません。」
サミュエルにとっては前世での経験の延長線みたいなものだった。むしろ細かい部分で満足な調整ができておらず、発動時に違和感があったぐらいだった。
「魔術具ってあれだろ?壁にかかっているランプとかだろ?あれを直したのか?」
マイケルも魔術が使えるため、屋敷のどれが魔術具かある程度聞いている。試しに魔力を流したこともある。
「はい、直したのは古いやつですが、ランプ型の魔術具です。」
「凄いな!俺なんて使ったことはあっても魔術具がどうなってるかなんて全然わからないぞ。」
兄は体を動かす方が好きなタイプだが決して勉強ができないわけではない。そのマイケルも魔術具のことはわからないと言った。
「お兄様も本を読めばすぐできると思いますよ。僕も今日届いた本を読んでやって出来たので。」
エドワードはそれを聞いて無理だろうと思った。
確かに魔術インクを作ることはできるかもしれない。だが術式を見てどこが原因か判断をし、数時間集中して作業をするなどマイケルでなくとも9歳の子どもができることではない。
しかしそれを口にする必要はない。エドワードはそう判断し、代わり――
「そうだな。マイケルもサミュエルが読んだ本を借りて勉強してみてはどうだろうか?」
勉強という言葉を聞いて少しだけマイケルは嫌そうな顔をした。
「いや、いいよ!俺は剣や魔術の訓練をしている方が楽しいから!それに勉強なら今もたくさんしてるから大丈夫!」
マイケルはこれ以上勉強の時間を増やされてたまるかと拒否をする。
「そうだな。マイケルは将来この家を継いだときのために、いまでも十分頑張ってるからな。」
エドワードはマイケルが頑張っていることを知っているため、しっかりフォローをする。
それを聞いたマイケルは、
「あ、でも読みたくなったら本を貸してくれよな。」
「うん。」
普段とは違う、家族団らんとした食事。
決して仲が悪いわけじゃないが、マナー教育のためどうしてもこういったことが起こらない。しかしいつもよりサミュエルは食事が美味しく思えた。
皆が笑っているのが嬉しかった。
その一方で、胸の奥がチクリと傷んだ。
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翌日、サミュエルは早速工作室に向かった。
昨日の実験結果を踏まえた確認と考察、そして修正だ。
中身を開き、修理した魔術具に魔力を流す。
問題がなければ術式を刻んだインクが青く変色していくはずだ。
しかし術式の色の変化が途中で止まる。一拍置くとまた流れ出した。
「やっぱり昨日修理した場所だ……。ここは細かすぎて少し太くなっちゃったんだよなあ……。」
そこは本来の線より少し太くなった場所。しかし術式としては問題がないためテストに移った場所だった。
(インクの量?それとも単純に術式が乱れたと判断される?そもそも術式が乱れた場合は発動するのか?)
そうして少しずつ丁寧に太くなった箇所のインクを削り、綺麗に整えた。
これでこの魔術具は問題ないはずだ。検証は後回しにして次の故障品に目をやる。
(こっちの魔術具の問題の場所はわかってる。直せば問題ないだろうけど……。)
直すことはすぐにできる。だがランプ型の魔術具になんの術式が組み込まれているか読み解く必要があるとサミュエルは思った。
構造を理解しなければ本当に「直せる」とは言えないからだ。これは前世の仕事へのプライドから来る考えでもあった。
(幸い、魔術技師の本は初心者向けだけど、魔術具によく使われる術式が書かれてる。これに一致するものを探してみよう。)
そう思い、辞書を引くように以前引いた術式の図面と見ながら確認していく。
そして規則性もある程度わかってきた。
術式は術式用の文字と作られた単語、そして単語の組み合わせによる文、文をつなげた独自の文章により術式として成立されているのだと。
言ってしまえば、術式用文字はアルファベットのようなものだった。それを繋げることで術式用の単語となり、英語でいえば英単語に近い。そんな傾向が見えてきた。
時間はかかったが、ランプ型の魔術具の術式はすべて把握できたはずだ。
しかしなんでわざわざ色を変える術式があるのか謎だった。完全に魔力の無駄ではなかろうか。
そして手元にある魔術具の故障の原因となる部分を見る。
そこはおそらく、魔力を貯める場所だ。
言われてみれば食堂などにある普段使われている魔術具は誰かが魔力を注ぎ続けなくても光っている。
これも光量が若干弱いが十分実用範囲だと思っていたが、魔力を貯蔵できなくなっているのだ。つまり注ぐのを止めるとすぐに消えてしまう。
そうして故障の原因だと予想した箇所を直し、カークにアレンを呼んでくるよう頼む。
昨夜の食事のあと、祖父から修理した品を使う時は、必ず最初にアレンに試させるように言いつけられた。
そしてカークがアレンを連れてくるともう一人付いてきた。
「なあサム、俺にもできたの見せてくれよ!」
マイケルだった。
「いいですよ、じゃあ庭に行きましょうか。ここだと万が一のとき危ないですから。」
「よし、じゃあ行こう!」
そうして魔術具2つをもって4人で庭に向かう。
昨日と同じく、サムは最初は物陰に隠れて、カークが合図したら出てくるという流れだ。今回はマイケルもサミュエルと隠れることになった。
「なあ、なんで俺達は隠れるんだ?」
「安全のためです。もし修理したのが失敗して魔術具がどうなるかわからないからです。もし僕たちになにかあったらアレンやカークがお祖父様達に叱られてしまいます。」
「それは……お祖父様に怒られるのは可哀想だな……。」
マイケルは魔術具の発動が失敗したときというのがよくわからなかったが、セドリックに怒られることを想像して怖がった。おそらく怒られたことがあるのだろう。
「お二人とも、もう大丈夫です。」
カークが合図をする。
「アレンどうだった?」
「昨日感じてた違和感がなくなりました。普段使っているのと使い心地が変わりません。もう一つも使用感は変わりません。どちらも少し長めに魔力を流してから離してますが問題なく光り続けています。」
「じゃあ思った通り直せたってことだね!ありがとうアレン!」
「いえ、また必要になりましたらいつでもお呼びください。では私は元の仕事に戻ります。」
実験が成功した。気分が上がりこのまま次の修理に移ろうかと思ったときマイケルが言う。
「終わったのか?よし、じゃあサム!これから町に行こうぜ!」
「え?」




