第12話 魔術インク作り、そして(4歳)
屋敷に戻り、魔石を工作室まで運び終えるとアレンは、セドリックとエドワードに報告に向かった。
「ご苦労。サミュエルはどうだった?」
「はい。問題なく魔石を買い取ることができました。」
「そうか、小粒の魔石はほぼ価値はないというが念のため多めに金を持たせたが交渉は大丈夫だったか?お前やカークが居たのなら問題にはなってないだろうとは思うが。」
「それに関してなのですが……。全額渡しました。」
「なにっ!」
念のためと思って問題ない範囲で多めには渡した。これでサミュエルがどういった買い物をするか見たかったのもあったがまさか全額とは思ってもいなかった。
「それは……騙されてはおらぬか?しかし二人がついていてということはそれだけ量が多かったということか?」
「いいえ、たしかに量は多くありました。しかし兵士たちにも不要で邪魔になってた品のため、タダで譲ると言ってきました。」
「ならばなぜ金を払う?ましてやあれだけの金額を。」
「父上が持たせたのは平民であれば2ヶ月は問題なく暮らせるぐらいの金額だったはず。なぜそうなったんだ?」
「サミュエル様は……袋をそのまま渡しました。『これは魔石の代金ではない。男爵家から、兵士たち皆の働きの謝礼だ。』と仰っいました。」
「あの子がそんな事を……。」
エドワードはつい言葉が漏れる。
貴族として決して裕福とはいえない辺境の男爵家。問題はない範囲とはいえ大金は大金である。それを羽振りよく使ったことは金の価値がわかっていないのかと思ったが、それを日々働いている兵士を労うために使ったのだ。
そういった使い方をできることを喜んでいた。
逆にセドリックは驚いていた。年齢の割に賢いとは思っていたが、4歳児のやることではないからだ。
「……カークの入れ知恵ではないだろうな?」
「彼もやや驚いた顔をしておりましたので違うと思います。それに彼ならば男爵家の出費を抑えるため無料でもらっていたでしょう。」
「うーむ……まさか領主としての器を見せるとは……。しかも男爵家からとはっきり言うことで私たちに感謝するよう仕向けてるのが上手い。」
「マイケルもよくやってはいます。ただ9歳のあの子にそこまでの判断は……。」
「それはそうだろう。それが普通だ。むしろマイケルも十分よくやっている方だ。まあよい、引き続きサミュエルの面倒も見て報告を頼む。」
「承知しました。では仕事に戻ります。」
そういって仕事に戻っていった。
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工作室に戻ったサミュエルは早速、すぐに実験に移ることにした。これから始めるのは魔術インク作りである。
魔石を砕くのはカークにやってもらい、砕いた魔石をすりこぎでサミュエルが粉末にしていく。
「はぁはぁ……これ結構大変だね……。」
4歳児には思った以上に重労働であった。
「手の空いている使用人を呼びましょうか?」
「いや、できるだけ自分でやれるのはやりたいからいいよ。」
「かしこまりました。無理だと思ったらすぐに申し上げください。」
そうして苦労した粉末ができあがり、魔術技師の本の書かれている通りになるよう入れていく。インクの品質が地域に差があるため、正確な重量比は書かれていないが、撹拌すると、とろみがでてくるぐらいがいいとのこと。それ以上いれると表面がざらつき始め、そのインクを使うと術式を発動させる必要な魔力が増えてしまうとあった。
とろみが出始めたため一度やめる。
そして出来たインクに魔力を注ぐ青色に変化した。
魔術インクが完成した。
だがサミュエルは喜んではいない。まだ準備が終わっただけにすぎないからだ。
次に故障したランプ型の魔術具と、それに使われている術式を書き写したものを用意する。
いままで見比べてきて気になったこと。故障した品の所々インクが薄くなっているか途切れていた。
それも品によって切れている箇所が違っていたのだ。
おそらく故障の原因は魔術インクが剥離したり、摩耗した可能性が高いと考えていた。
それで故障した魔術具で共通してインクが薄くなっていない場所を図面で書き写したのだ。
サミュエルは細いペン先にインクをつけ、慎重に欠けている部分を補強していく。
集中して修理する……。大変だがなんとなく懐かしい気分にもなっていた。
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「できたー!」
日が傾き掛けた頃、サミュエルが叫ぶ。
「なにをしていらっしゃったのですか?」
カークにはインク作りまではわかっている。その後、インクを使ってなにをしているかはわからなかった。特に危険なことはしていないので見守るだけに留めておいたのだ。
「この魔術具を修理したんだ!」
「それは……真でしょうか?それが本当なら凄いことではあるのですが……。」
カークには言っている言葉はわかるが理解が追いつかない。
この町にすら修理ができる魔術技師がいないのだ。それを4歳の子どもがやったなど到底信じられない。
「まあ見ててよ。これから使うから。」
「お待ちください!なにかあってはいけません。アレンにやらせます。あと庭でやりましょう。」
そういうと魔術具を一度取り上げ、カークはアレンを呼んでくる。
「事情は理解しましたが……なぜ私が?」
「もし爆発して坊ちゃまが怪我されたどうするのですか。」
「私ならいいというのですか……。いえ、確かに適役なのは私だとは思いますが……。」
「安心してください。坊ちゃまの件で怪我をしても治療具の使用許可は頂いております。」
あくまでサミュエルが怪我をした場合の許可だと思うが、治療具が必要になるほどの怪我であれば事後承諾でも問題ないとカークは判断した。
それにアレンは魔術が使える従者の中で最もサミュエルと交流がある。万が一の際も対処しやすい人物であり、適任だと考えたのだ。
「では坊ちゃまはいいと言うまで屋敷内にいてください。」
「見たかったけど……まあしょうがないか。あとそれは元々光らなくなった奴だからね。」
サミュエルは屋敷の中に一度戻るとアレンが魔力を流し始めた。
「ではいきますね。うん?あ、光った!光りましたよ!」
「どうですか?爆発しそうとかないですか?」
「発動時に気になるところはありましたが、今は普段通り安定しています。」
「坊ちゃま、大丈夫ですので出てきてください。」
屋敷の中から庭にサミュエルが出てきた。
「おおー!成功したね!なにか気になったこととかない?」
「はい、いまは問題ありませんが、発動させるとき若干引っかかりのようなものを感じました。いつもより少しだけ強めに魔力を流したら引っかかりが取れて、あとはいつも通りスムーズに発動させることができました。」
「じゃあ僕に使わせて!もういいでしょ?」
「ええ、大丈夫です。」
カークに許可を貰い、アレンから魔術具を受け取り発動させる。
「あっ!ほんとだなんか引っかかったように感じがしたね。魔力を注いでから発動までの時間から……たぶんあそこのインクの量を間違えたのかも……それとも術式の修正の仕方が少しおかしかった?検証してみないと……。」
「坊ちゃま、坊ちゃま!自分の世界に入るのはお待ちください。今日はもう遅いのでここまでといたします。」
教育係に止められて、サミュエルは渋々今日の検証は諦めるのだった。




