雨の公園
一般的に梅雨と呼ばれる時期だから仕方ないのだけれど、今日も外は雨だった。今日もオレは陰鬱な気持ちを抱えながら公園へ歩く。
一般的に小説家(それも、プロの)と呼ばれているオレにとって、公園へ散歩できる日はとても特別だった。
けれど、今日は雨。どんよりとする季節だ。自分の語彙のなさに驚きながら、「どんより」の季節をかみしめる。
「当たり前」ができなくなることは、いつだっていやだ。
どんよりの道を歩いていると、時々息苦しくなることがある。息苦しくなって、オレはベンチに座る。
「どうしたの? 旅人さん」
気が付くと、ベンチの隣に、血縁関係がないほうの「おじさん」がいた。おじさんは傘をなぜか二つ持っていた。
「いや、コンビニで買って職場に戻ったら、職場にもあったんでね」おじさんが開口一番に言った言葉だ。自分の名前も名乗らず、傘の話だとも言わなかった。
しかし、自然と話の内容が傘だと伝わる。オレよりも巧みな話術だ。ぜひ、見習いたい。
「息苦しいのは、息の仕方を忘れてるから。――いつだったか、小説家のひとが言ってたなぁ」
オレはドキンとした。自分の小説の一行だった。その、わずかな断片を、おじさんは拾っていたのだ。オレは驚いたと同時に、胸の奥がほっこりとしていた。
なぁんだ。苦しかった答えは、自分が知っていたなんて。
「当たり前」の呼吸がちょっと楽になった気がした。




