表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/13

再編

境界は、音のない海だった。


床はない。

空もない。


上下の感覚も曖昧なまま、糸と残響が漂っている。


光になりきれなかった想い。

形になる前の願い。

ほどけた記憶。


それらが静かに流れている層。


結音はそこに立っていた。


結羽を抱いたまま。


軽い。


あまりにも軽い。


抱いているのに、腕の中の感触が薄い。


「結羽」


呼ぶ。


結羽の輪郭はほとんど透けていた。


髪は霧のようにほどけ、

体は形を保てない。


胸の奥。


核の光が、かすかに揺れている。


消えかけの灯火。


らいかが静かに言う。


「核が裂けている」


境界視の声。


「再編しかない」


結音は結羽を抱き寄せる。


存在が逃げないように。


ファルの声が低く響く。


「再編は主のみが行える」


結音は顔を上げる。


金の瞳を見る。


意味は完全には理解できない。


でも。


自分にしかできないとわかる。


結音はうなずく。


そして結羽を見る。


消えかけている。


でもまだここにいる。


結音は抱きしめる。


強く。


「いなくならないで」


声が震える。


そのとき。


雫が頬を伝う。


境界では、涙は落ちない。


空間に触れた瞬間、光に変わる。


小さな粒子。


願いの密度を持つ光。


それが結羽に触れる。


核の裂け目に触れる。


かすかな光が応答する。


ゆらり、と。


消えかけた灯火が揺れる。


結音はもう一度言う。


「また、ともだちになりたい」


その言葉。


願いの定義。


関係の再宣言。


境界に届く。


結羽の核が、弱く脈打つ。


裂けた光の奥で。


残っていた中心が応答する。


そのとき。


境界の海に、形が浮かぶ。


クリーム色。


丸い輪郭。


小さな耳。


水色のリボン。


もこ。


ぬいの原型。


結羽の最初の姿。


それは光の中に浮かんでいた。


記憶と願いの形。


そこから糸が伸びる。


細い光の糸。


もこから。


結羽へ。


裂けた核へ。


結音の願いが、糸になる。


核に触れる。


裂け目をなぞる。


縫うように。


結ぶように。


光が戻る。


弱いが確かに。


らいかが息を止める。


核修復開始。


主願い同期。


再編プロセス成立。


糸が増える。


結音の胸から。


境界の海から。


集まる。


結羽へ。


輪郭をなぞる。


肩。


腕。


髪。


顔。


ほどけていた形が編み直される。


結羽の身体が、ゆっくり戻る。


まだ淡い。


透けている。


だが存在の形になる。


核が再び結ばれる。


光が脈打つ。


弱いが確かに。


結束線が再接続する。


結音と結羽をつなぐ線。


光る。


身体が整う。


髪がまとまる。


頬が形を持つ。


やがて。


結羽の身体が、そこにある。


以前と同じ姿。


同じ顔。


同じ髪。


でも。


光が淡い。


存在密度が低い。


境界に近い存在。


再編は成功した。


だが完全ではない。


結羽のまぶたが震える。


ゆっくり開く。


淡い瞳が、結音を見る。


「……結音」


声がある。


かすかだが確かに。


結音は崩れるように抱きしめる。


「結羽」


結羽は腕を動かす。


まだ弱い。


でも回る。


結音へ。


抱き返す。


ぬくもりは薄い。


でもちゃんとある。


ここにいる。


再び。


ともだちが。


境界の海で、糸が静かにほどけていく。


再編は終わった。


だがその光は以前より淡い。


還期の影が、遠くで静かに揺れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ