優しい女
本日は、谷山浩子様の「忘れられた部屋」をヘビロテしながら書きました。
ようつべのURLを貼っておきます(^_-)-☆
https://www.youtube.com/watch?v=9l8AIZYh7ww&list=RD9l8AIZYh7ww&start_radio=1
「あれっ?今日はテレワークじゃなかったの?」
間抜けな声を出した男が……鏡の中の私を覗き、更に間抜けな言葉を継ぎ足していく。
「バッチリメイクを決めちゃってさ!」
私は“鏡像たる自分”という絵を描く淀みない筆を止める事無く……これもまた鏡像たる“物憂げ”なトーンを混ぜて返事を返す。
「テレワークたって四六時中Z●●Mで繋がってるんだから出勤と同じよ! 部下に示しがつかないでしょ?!」
「なんだ、バッチリメイクは会社の男どもの為か! ったく! 妬けるよなあ~」
“口から先に生まれた”男は斯様に心にも無い下卑た言葉を平気で口端に上らせる。
「第一……アナタ、今日、職安に行く日じゃなかったの?」
「う~ん……こんな『SR』なお前を見せられちゃあ……行く気が失せるなあ~ でもいつまでもプー太郎じゃあ……お前にますます迷惑掛けるからなあ……仕方ねえ、頑張って行くかあ!」
「そうよ~ 頑張ってねえ~」
男の白々しい“言い訳”に……私の言葉も、つい上滑りしてしまう。
「あ~! 信じてないなぁ」という男の言葉を背中で聞きながら私はジャケットを羽織り、ダイニングテーブルの片隅に置いている仕事用のノートPCを立ち上げる。
「カメラ立ち上げたら……リビングでウロウロしないでね! 背景はカモフラージュするけど、物音はマイクが拾っちゃうから」
「なら、その前に……」
ヤツの声とともに“勝負フレグランス”の香りが近付いて来て……
ヤツが義理固く私の唇を食むと……ヤツの顎と私の顎が擦れ合い……ヤツが丁寧に髭を剃ったのが分かる。
やっぱり!!……
「今、職安は灰皿無くってさぁ~ 悪いけどお前の電子タバコ借りてくぞ~!」
『私のご機嫌を取って』『言い訳めいた職安の予定』『勝負フレグランス』『いつもとは違う丁寧な剃り跡』 そして今の『電子タバコ』……
『ああ、カレって就活に向かって一所懸命なんだ!』なんて思うほど……今の私はヤツに溺れてはいない。
アイツが一所懸命なのはナンパか無垢な箱入り娘への婚活……これはある意味『就活』と言えるのか……
あれほど物音は立てるなと言い含めているのに!
まるでスキップでもしそうな勢いで部屋のドアを閉めて出ていくヤツへの苦々しい思いをひと息に飲み込んでヘッドセットを付け、モニター画面と向き合う。
『おはようございます! 雨宮主任!』との部下の挨拶に私は「はい! おはよう」と……上司としての体裁を整えた上での自然な微笑みで返した。
◇◇◇◇◇◇
挨拶だけは……“私のお城”に棲息する『不逞な輩』よりはマシではあるが……
後はからっきしダメな部下のオトコどもに私はいつになく苛ついていた。
コイツらより“一般職”の紗季ちゃんの方がよっぽど使える!
まったくオトコと言うのは!……ビジネス社会からどこまで甘やかされれば気が済むのだろう……
そんな……『言っても詮無い問い掛け』を嚙み潰そうと口に入れたフリスクはまるで効かず……サイフォンから漂うハワイコナの香りをもぶち壊す。
ああ!!
半ば無意識に伸ばした指先に触れたのはお目当ての電子タバコでは無く、オトコが代わりに置いて行ったらしい……つまらない銘柄の紙タバコの箱。
日頃は……“私のお城”をヤニで穢されたくないから……口うるさくオトコをベランダへと追い立てるのに……
やむを得ずやむを得ずタバコの箱から百円ライターとタバコを1本振り出して火を点ける。
けれどそれを口に咥える暇も無く指に挟んだまま……
あちこちで“不始末”をしでかすオトコどもの尻拭いをしているうちに……
タバコの先からテーブルへ
ボロリ! と灰は落ちた。
おしまい
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