第九章 二年の歳月
二年後――
アルはすっかり周囲に認められる存在になっていた。
「持つべきは弟だな」
そう言って、アルは余裕の笑みを浮かべる。
「モエとの婚約が決まったのも、カルディ――お前のおかげだな」
木剣を交えながら、アルは気軽に話しかけてくる。
次の瞬間。
「カラン」
乾いた音とともに、カルディの木剣はあっさりと巻き上げられ、地面を転がって遠くへ飛んでいった。
「一本」
アルの木剣が、カルディの頭上でぴたりと止まる。
剣術に関して言えば、カルディにはまるで才能がなかった。
本人も日頃から、
「そもそも、なんで世の中に剣術なんてものがあるんだ」
と本気でぼやいている。
その一方でアルは、先日ついにC級冒険者との剣術勝負に勝利。
その実力は大人たちからも正式に認められつつあった。
「やっぱり俺、天才だな」
などと本人はご満悦である。
しかも――
妹のモエとの婚約まで決まっているのだから、勢いは止まらない。
「これで本当のお兄ちゃんだな」
そう言って、アルはニヤリとカルディを見る。
カルディは苦笑しながらも、ふと気になった。
「そういえば、モエにはずいぶん長いこと会ってないな……忘れられてないだろうか?」
その時だった。
「ご主人、ご主人。また配下が増えますよ」
いつの間にか肩のあたりに浮かんでいたコインが、楽しそうに言う。
「今までだって、普通に増えてただろ」
市場でコインを使えば、他人の財布の中のコインまで“食べて”増殖する。
今さら報告するほどのことでもない。
だが、コインは誇らしげに続けた。
「とうとう帝都の皇帝陛下の宝物殿に、数枚ほど紛れ込むことができまして」
「……それ、完全にドロボーじゃないか」
最近のコインは、どうも言動が怪しくなってきている気がするのだった。




