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第六十一章 象兵の名誉

象兵A

「我々はかつて、インドラ様の落雷を受け……」

「インドラ神の怒りを買った民族と、そう呼ばれてきました」

象兵B

「……でも、今は違いますよね」

象兵C

「この前来た知り合いにさ、

『神に嫌われた民』なんて言われたんです」

象兵A

「だからこそだ。

インドラ様の新婚旅行を――インドにしていただこう」

象兵B

「もうそろそろ……

俺たちも、名誉挽回したいですよね」

執務室の前で、そんな声がひそひそと続いている。

カルディ

「……集中できない。めちゃくちゃうるさい」

扉越しにため息をつき、カルディは立ち上がった。

「分かった。象兵A、B、C。

お前たちに非番をやる。地元に帰って、人を集めてこい」

そう言って、金貨の詰まった革袋を放る。

ラナ

「本当に……私が行かなくても大丈夫なんですか?」

カルディ

「ちょっと転移でも見せれば、納得するだろ」

バッグに着替えを詰めながら、気軽に言う。

ラナ

「くれぐれも、一人で行って浮気なんてしたら……

許しませんからね?」

次の瞬間、バッグはラナの手の中にあった。

カルディ

「……日帰り、ってことか」

諦めたように呟き、カルディは転移した。

――転移した、が。

空気が、明らかに違っていた。

象兵A

「地元で『インドラ様に仕えてる』って言ったら……

『あのクレーターは俺が作った』って言い出す奴が出てきまして」

象兵B

「オレオレ詐欺みたいなもんですよ」

象兵C

「しかも向こうから、

『お前たちがインドラ様に認められるはずがない』って……」

象兵B

「ムカついて、勝負だって言っちゃったんです」

カルディ

「……あそこで鉄の棒を二本持って、

バチバチ言わせてる。あれか?」

「あれで、どうやってクレーターを作るんだ」

象兵B

「あれは……掘ったって言ってます」

対決が始まった。

相手は鉄の棒で殴りかかってくる。

カルディは電撃態勢、アキレスの呪、身体強化を展開する。

痛みはない。

だが――

殴るたびに、相手は観客へ向かって勝利宣言を叫ぶ。

派手な動き。大仰な仕草。

観衆はそれに熱狂していた。

やがて――

カルディが、デウスを上空に顕現させたとき。

相手は棒を天へ掲げ、勝利宣言。

観衆は彼を取り囲み、会場は最高潮に達していた。

象兵たちは、肩を落とす。

「……負けちまったよ」

カルディは目を閉じる。

時は満ちた。

上空には、凝縮された魔力の塊。

宝箱ママの声が響く。

「これをやるとね、力をゴッソリ持っていかれるよ」

カルディは、

薬指と親指で輪を作り、

人差し指と中指を――対戦相手へ向けた。

その瞬間。

宗教学者が慌てて、カルディの両肩を叩いた。

「分かりました、やめてください!」

「このままでは……集まっている人々が死にます!」

カルディは静かに、指の向きを――山へと変えた。

「――行け」

バリバリドォン。

雷光が落ち、山が半壊する。

「行け」

「行け」

バリバリドォン。

バリバリドォン。

山は、もはや原形を留めていなかった。

集団は、地面に伏した。

伏せたまま、両手を合わせ――

ただ、祈ることしかできずに。

宗教学者

「あれは……素晴らしい」

上空を見上げたまま、そう呟く。

カルディ

「あれが、見えるんですか?」

宗教学者はターバンを外した。

額には――第三の目が描かれていた。

「貴方は、見えないのですか?」

カルディ

「僕が見ているのは、

上空からの……鳥瞰図です」

宗教学者

「これから私と、インドを周りませんか」

その頃、対戦相手は、そそくさと会場を後にしていた。

――帰宅後。

ラナはカルディの周りを、くんくんと嗅ぎ回っている。

まるで警察犬か、狩猟犬のように。

カルディ

「彼らの名誉は回復したよ」

ラナ

「そうですかそうですか。

それは、ようござんしたね」

カルディ

「……何か怒ってる?」

ラナ

「今回、なぜ私を連れていかなかったか」

「連れて行けない理由があったからでしょう?」

カルディ

「『僕の妻は』って聞かれて、何て答える?」

ラナ

「ラナ以外に、ないじゃない」

カルディ

「もし僕が、妻の名を『シャチー』って答えたら?」

ラナは、ゆらりと立ち上がる。

電撃が、チリチリと音を立て始めた。

「やっぱり浮気してたんじゃない!」

「何その女の名前!

私が第二夫人になるってこと!?」

カルディは慌てて制止する。

「今言ったのは、インドラの妻の名前だ」

「今日は、インドラそのものになりきる必要があった」

「象兵たちの名誉のためにね」

「だから、打ち合わせをしていない君を

連れていかなかったんだ」

「……分かったかい?」

ラナは、こくりと頷き、

そのままカルディの肩に寄りかかった。


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