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第六十章 裏の聖者


宝箱ママの声が、カルディの意識に直接響いた。

宝箱ママ

「カルディ。……また皇帝からだよ。出るかい?」

カルディ

「またか。出るよ」

横で身を起こしたラナが、少し不安そうにのぞき込む。

ラナ

「ぱぱ……何かあったの?」

宝箱ママ

「大変悪いニュースが二つあります」

一瞬、間を置いて。

「――最悪のニュースと、

 それより“もっと最悪なニュース”。

 どちらを先に聞く?」

カルディ

「じゃあ……いいニュースは?」

ラナがくすっと笑い、胸を張る。

ラナ

「この度、ラナちゃんはカルディくんと結婚いたします」

カルディ

「それは知ってた」

ラナ

「では、まだ知らない良いニュース」

少し照れながら。

「カルディくんは、美少女にとても好かれています」

カルディ

「……悪いニュースは?」

ラナの表情が引き締まる。

ラナ

「真面目に話すわ」

「ジェニファーが攫われた」

「それ以上に深刻なのは――

 モンスターに勇者が敗北したこと」

カルディ

「……国境を越えて、こちらへ?」

ラナ

「ええ」

「推定身長二メートル級のミノタウルスが三体」

「しかも――」

一拍。

「家々の戸を叩いて回っているの。

 『開けてくれ』って」

カルディ

「……なるほど」

カルディは少し考え、静かに言った。

カルディ

「裏の聖者様かもしれないな」

ラナ

「え?」

カルディ

「連れて来られたら連れてくるよ」

「きっと紳士だ。

 理由もなく危害を加える存在じゃない」

ラナ

「でも、勇者たちが負けたのよ?」

カルディ

「僕の考えが正しいか、確かめてくる」

城門前。

象兵A

「本当に……そんな恐ろしい者が来るんですか?」

カルディ

「ほら。いらっしゃった」

遠く、巨影が三つ。

カルディ

「――おーい」

象兵A

「だ、旦那!?

 何呼んじゃってるんですか!」

「門を閉めましょうよ!」

カルディは答えず、門前で静かに膝をついた。

指を組み、両手を合わせる。

象兵

「……それ、聖者教の手の合わせ方ですよね」

象兵Aは首をひねりながら、見よう見まねで同じ仕草をする。

ミノタウルスA

「……ほう」

低く、落ち着いた声。

「こちらには、礼儀を知る人間がいるようだな」

カルディ

「この帝国を治めております、カルディと申します」

「我が国へ――ようこそ」

ミノタウルスB

「……泊まれる場所は、ないか」

カルディ

「少々遠くなりますが、我が宮廷へ」

象兵B

「宮廷までお連れすればよろしいのですね?」

象の背に、ミノタウルスが乗せられる。

ミノタウルスA

「これは……良い乗り物だ」

象兵

「ありがとうございます」

ミノタウルスA

「頑丈そうだ。我々が乗っても、見劣りしない」

カルディ

「気に入っていただけて何よりです」

宮廷。

カルディ

「こちらが我が家でございます」

ミノタウルスたちは、思わず息を呑んだ。

ミノタウルス

「……本当に、ここで良いのか?」

カルディ

「他に誇れる場所はございませんが」

「お気に召しませんでしょうか?」

ミノタウルスは、ゆっくりと首を横に振る。

客間を案内しながら。

カルディ

「こちらが客間です。

 聖者様方に、安らぎがあればよいのですが」

ラナが小声で言う。

ラナ

「職員たちが、怯えています」

カルディ

「食われたりはしないよ」

ラナ

「気性は荒いけれど……神の使い」

カルディ

「彼らを助ければ、きっと良いことが起こる」

「送り出すまで、気を抜かないように」

「送り出した翌日は、全員休暇だ」

「細心の注意で、もてなそう」

ラナ

「……根拠は?」

カルディ

「前世の記憶に、蘇民将来という話がある」

「牛頭天王――ミノタウルスの聖者が、

 一夜の宿を求めて裕福な家々を回った」

「誰にも断られ、

 貧しい家だけがもてなした」

「名を問われ、

 『蘇民』と答えた家は、代々幸せになった」

「逆に、富を誇った家は没落した」

ラナ

「……東洋の話ね」

カルディ

「ディオニュソスの別名はヴァルナ」

「ヴァルナは東では薬師如来」

「薬師如来と牛頭天王は、

 真言も、手印(手の合わせ方)同じなんだ」

「聖者教の手の合わせ方も、同じ」

カルディはラナを見る。

カルディ

「僕は――」

「僕と、君と、

 僕たちの子どもたちが幸せであってほしい」

ラナは微笑んだ。

ラナ

「それなら……頑張らないとね



ラナは接客中「クラウディア家」ことある毎に

強調していた。

ミノタウロスは3日ご宮殿を後にした

カルディ

「お帰りもコチラにお寄り下さいと言うと」

ニコリと笑っていた、


カルディ

「皆さんご苦労さま」

ラナ

「彼らは何処に向かったのでしょう。」

カルディは

「ミノス島に向かうみたいだよ」

「ディオニュソス教の島ミノタウロスの伝説の

島だよ。」

ラナ

「目的は何?」

カルディ

「繁殖の為だよ」

「今君の妹ジェニファーはそこにいる」

ラナ

「じゃジェニファーは」

カルディ

「彼ら種族を産める数少ない血統らしい」

「ミノタウロスの伝説の様に裏聖者を

殺す訳にもいかない」

「攫ったのはヴァンパイアだ

彼らが処女を血の味でわかるらしい」

ラナ

「この儀式と処女が関係あるの?」

カルディ

「黒人と付き合ってた女性がその

後白人と結婚したのに黒人の子が生まれる

事があるらしい」

「裏聖者誕生の成功率を上げる為だろう」

ラナ

「勇者に知らせないと」

カルディ

「彼らは普通のミノタウロスと違う

ディオニュソスの別の姿は馬車に乗り

大鎌を振るう死神だ」

ラナ

「死神とヴァンパイアを同時に相手に

どうやってジェニファーを救うのよ」


一ヶ月後

ミノタウロスA

「帰りもご歓迎ありがとうございました」

「貴方のご家族に祝福を」

ミノタウロスは帰っていった


カルディはラナに

「ではミノス島へ行ってみますか」

ラナ

「救出はあきらめたのでは」


カルディはラナに言った。

「では、ミノス島へ行ってみますか」

ラナは一瞬、首をかしげる。

「……救出は、あきらめたのでは?」

「様子見ですよ」

カルディは肩をすくめる。

「救うか、救わないかは――見てから決める」

「了解」

ラナは踵を返した。

「ちょっと待って。フォークとナイフ、取ってくる」

 

ラナが部屋に戻ると、ジェニファーが窓辺に座っていた。

「……ジェニファー、大丈夫?」

声をかけた瞬間、ラナはびくりと肩を震わせ、振り返る。

ジェニファーは弱く微笑み、首を横に振った。

「帰りたい……でも、だめなんだ」

そう言って、そっと自分のお腹を撫でる。

「この子を帝国で産んだら、一生牢の中で生きることになる」

「だから……ここで産むの。ここの人たちに育ててもらう」

唇を噛みしめ、涙をこらえながら続ける。

「私は“裏聖者”の母になるのよ」

「二分の一は神、二分の一は人――ハーフになる」

「……超極秘事項」

言葉とは裏腹に、頬を伝う涙は止まらなかった。

ラナは静かに近づき、ジェニファーの頭を撫でる。

「……大変なものを、背負っちゃったわね」

「うん」

ジェニファーは涙を拭い、必死に笑った。

「お姉ちゃん……一年後、迎えに来て」

「私は一年間、“神隠し”にあったことにするの」

「記憶がないふりをして、ひょっこり元の社会に戻る」

「母様も、祖母様も……みんなそうしてきた」

――聖者の血を、絶やさないために。

ラナは頷き、小さな銀コインを手渡す。

「寂しくなったら、これに話しかけて」

「コイン通話すれば、必ず私につながるから」

 

――ドンッ!

扉が乱暴に開き、二匹のヴァンパイアが部屋に踏み込んできた。

その瞬間――

一匹の周囲を、銀貨が唸りを上げて飛び回る。

攻撃態勢。完全な包囲。

もう一匹は、動けない。

ラナの構えた杖から伸びるプラズマが、

銀製のフォークとナイフを操り、

喉、心臓、眼――

逃げ場のない位置で急所に突きつけられていた。

ヴァンパイアは青ざめ、両手を上げて後退する。

「ま、待て……話せばわかる! 話せば!」

「安心しろ」

カルディが一歩前に出る。

「俺たちは妊婦のお見舞いに来ただけだ」

そう言って、金額のずっしり入った革袋を

ジェニファーの膝の上に置いた。

ヴァンパイアの視線が袋に吸い寄せられる。

「……その巾着、中身は?」

「金貨だ」

その一言に、ヴァンパイアは露骨に安堵の息を吐いた。

「……そうか」

「用事は済んだ」

カルディは踵を返す。

「帰る」

「……そうしてくれると、ありがたい」

ヴァンパイアは冷や汗を流しながら、深く頭を下げた。

次の瞬間――

カルディとラナの姿は、空間ごと消失した。

 

沈黙の中、ヴァンパイアが呟く。

「……なんなんだ、あいつらは……」

部屋には、銀貨の余韻と、

これから生まれる“半神”の気配だけが

残っていた。



カルディとラナは、執務室へ戻ってきていた。

扉が閉まると、張り詰めていた空気が少しだけ緩む。

ラナがふと首をかしげる。

「……ねえ。どうして“神”の姿が牛なの?」

カルディは机に腰を預け、少し考えるように視線を落とした。

「ディオニュソスはね、悪魔に追われて――

そのたびに、色々な動物へと姿を変えたんだ」

ラナは黙って耳を傾ける。

「最後に選んだ姿が、牛だった。

その瞬間、ゼウスは決断する。

ディオニュソスごと雷で悪魔を滅ぼした」

指で空中に線を引くようにしながら、カルディは続ける。

「雷のあとに残った灰。

そこから人間とディオニュソス

と神のディオニュソスが生まれた」

「父であるゼウス。

人とディオニュソス

精霊としてのディオニュソス」

一拍置いて、静かに付け加える。

「……三位一体。

この世界においては、だけどね」

ラナは少し眉をひそめた。

「でも……死んだなら、

ディオニュソスは神として終わりじゃないの?」

カルディは首を横に振る。

「ディオニュソスは農耕神だ。

春に植物とともに生まれ、

秋に、植物とともに死ぬ」

その声は、どこか淡々としている。

「そして自分が死ぬ時――

大鎌を振るい、人の命を刈り取っていく」

ラナの瞳がわずかに見開かれた。

「……それが、死神の姿?」

「ああ。

そしてディオニュソスの“最後の姿”が、牛だ」

ラナは静かに頷く。

「だから……神の姿が牛なのね」

「それだけじゃない」

カルディは続ける。

「ディオニュソス教は、かつて世界の八割を占めていた。

だから――

『この宗教だけでいい』

『一神教でいい』

そう考える人間が、多かったんだ」


(まあ、僕がいた元の世界でも一神教は主流だったけど、ヤハウェ、ゴッド、アッラー

考え方も、神の名も、全部違っていた)


(第三世界で降り立つのは―恐怖の大魔王、だ)


(こっちの世界では、第三世界は“人としてのヴァルナの誕生”になっている)




執務室に、短い沈黙が落ちる。

神とは何か。

信仰とは何か。

そして――雷を振るう者とは、何なのか。

ラナは、無意識のうちに自分の指先を見つめていた

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