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第五十五章 結婚旅行の行き先

ラナはベッドに腰掛けたまま、身を乗り出してカルディの顔を覗き込んだ。

至近距離だ。逃げ場はない。

「……そんなに難しい顔をして。何を悩むことがあるんです?」

少しだけ、意地の悪い笑み。

「まさか――マリッジブルーですか?」

間を置かず、畳みかける。

「私との結婚が、そんなに嫌なんですか?」

カルディは小さく息を吐き、机の上に二通の封書を並べて置いた。

どちらも重厚な封蝋が施されている。

「違う。そうじゃない」

ラナの視線が封書に落ちる。

「エジプトと、インドから招待状が来ている」 「どちらに応じるべきか、悩んでいるんだ」

ラナは首を傾げた。

「どのようなお誘いですか?」

カルディは一通目を指で叩く。

「エジプト。

 アレキサンダー大王も体験したという、神官による“神の子”の儀式だ」

次に、もう一通。

「インドからは――インドラの生まれ変わりに、会ってみたいという神学者からだ」

その瞬間、ラナの髪が、ぱち、と微かに鳴った。

空気が、ほんの一瞬だけ張り詰める。

「……私は、エジプトはやめたほうがよろしいかと」

声は穏やかだが、明らかに今にも放電しそうだった。

カルディは苦笑する。

「となると、インドか」 「絹織物、香辛料、カシミヤ……交易路の開拓もできる」

ふと、独り言のように呟く。

「ディオニュソス信仰から人の時代へ進むのか」 「インドラ信仰から人の時代へ進むのか……」

そして、自分だけが、どこか違う進み方をしている気がした。

「……聞いてました?」

ラナの声に、はっとする。

「あ、いや……聞いてない」

カルディは思わず両手を合わせた。

完全に怒らせた時の、彼女の雷を思い出したからだ。

ラナは一瞬あきれたようにため息をつき、

次の瞬間、ふっと表情を緩めた。

「でしたら――」

少しだけ、頬を赤らめて。

「二人きりの、結婚旅行にしませんか?」

雷鳴は、まだ鳴っていなかった。

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