第五十三章 雷を振るう者たち
象兵A
「見たか……消えちまったぞ」
象兵B
「なんだあの雷。正直、腰が抜けた」
象兵C
「インドラは“許す”と言っていたよな。
自分がインドラだと、はっきり認めた」
象兵D
「インドラの守護を受ける象兵……
まるで神話の登場人物になった気分だな」
商人
「私まで首が飛ぶところでしたよ。
勘弁してください、心臓が止まるかと思った」
象兵A
「この間の雷撃で部族長が亡くなった。
来る前に、あれほど言い聞かせたんだがな……」
象兵C
「帝国に賠償金を請求しに行った二人、
今ごろどうなっているだろうな」
象兵A
「帝国の大臣のせいで、住む場所まで追われて……」
象兵D
「あんな胡散臭いオヤジに、よく騙されたもんだ」
象兵A
「前の部族長を悪く言うな。
お前も世話になっただろう」
象兵B
「大臣の証文で帝国から大金が手に入り、
インドラのもとで職を得られれば……
地元にも顔が立ちますね」
象兵D
「亡くなったとはいえ、現職大臣の証文だ。
相手は帝国だぞ。
取っておいて正解だったな」
エマがやって来た。
ラナ
「ですから、カルディ様は体調を崩されていて、お会いできません」
エマ
「カルディ、カルディ……私よ、エマよ。大事な用事があるの。降りてきて」
ラナ
「ご用件なら、私が伺ってお伝えします」
そこへ帝国次官が一歩前に出た。
帝国次官
「エマ様、なぜこちらに。
皇帝陛下が“貴方様を東帝国に入国させるな”とお決めになったではありませんか」
次官は連れてきた警護に目配せする。
帝国次官
「エマ様を、速やかに帝国へお送りしなさい」
エマは静かに杖を取り出し、次官へと向けた。
帝国次官
「……錯乱なされたか」
次官がしゃがみ込むように身を低くすると、警護が覆いかぶさるようにして彼を庇う。
その瞬間――
エマの杖先が、今度はラナを捉えた。
エマ
「ラナ……やはり、あなたには死んでもらうわ」
ラナを見た瞬間、エマの表情がわずかに歪む。
氷ついたような放電が、エマの身体を走った。
呆れたような視線で、階段の上から見下ろすラナ。
その手には、雷を凝縮した矢が形を成している。
――バシッ。
放電の柱がエマの足元まで伸び、弾けた。
エマは呻き声を上げ、足を押さえて崩れ落ちる。
ラナの投げ放った雷の矢は、エマの意識を刈り取った。
帝国次官は安堵の息をつき、立ち上がる。
帝国次官
「ありがとうございます。……お強くなられましたな」
ラナ
「それで?
あなたは、どのようなご用でこちらへ?」
帝国次官は懐から一通の書類を取り出した。
帝国次官
「これは写しですが、この証文をご覧ください」
ラナ
「……何、この金額。
一つの小国家の一年分の予算じゃない」
帝国次官
「元帝国大臣が、現役であるかのように振る舞い、この一年で作った借金です。
しかも、実印付きで」
次官は言葉を続ける。
帝国次官
「エマ様は、元帝国大臣の次男との婚約を、母上のご意向で無効にできず、
半年後に結婚が決まっております」
「皇帝陛下は、エマ様が必ずカルディ様のもとへ向かうと踏み、出国禁止とされましたが……」
次官は一瞬、言葉を選ぶように視線を伏せた。
帝国次官
「そこで、ご相談なのですが」
「クラウディア家が、元大臣に対してより厳しい裁きを下していれば、
このような事態にはならなかったのでは?」
ラナ
「……東帝国を乗っ取る計画のための資金を、
その東帝国に支払わせろと?」
帝国次官の顔色が、目に見えて青ざめた。
帝国次官
「ですが貴方も、もともとは帝国の人間でしょう。
東帝国もまた、皇帝陛下が領地を与えたことで生まれた国――」
ラナ
「論点が違います」
ラナの声は冷静だった。
ラナ
「東帝国の“大義名分”が立たないと言っているのです」
「この事例を認めれば、国家反逆を行った者すべての損害を、
東帝国が肩代わりする前例になります」
「そんな国が、長く保つはずがありません」
ラナは次官を真っ直ぐに見据える。
ラナ
「国家反逆者が絶えなくなる未来を、
私は認めるつもりはありません」




