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第五十一章 スクロール

カルディは帰還するなり、まっすぐ執務室へ入ると、慌ただしく探し物を始めた。

机の引き出しを次々と開け、書類をかき分ける。

「――あれだ、あれ。あれがない」

ラナが書類から顔を上げる。

「何をお探しなんですか?」

「あの、いかがわしい格好の店長が置いていったやつだ」

「……スクロールのことですか?」

「そう、それだ。どこにある?」

ラナはため息混じりに、机の一角を指差した。

「そこの引き出しの中に」

カルディは勢いよく引き出しを開ける。

「これじゃない……ああ、どこだ」

「いったい、何を探しているんですか?」

「君が使った、あれだ」

「ゼウスの雷撃、ですか」

「それだ、それ!」

「誰かにお渡しするんですか?」

「いや、自分で使いたい」

ラナは目を瞬かせた。

「カルディさん、魔法回路をお持ちでしたか?」

次の瞬間、カルディは頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。

「雷に弱い僕に、耐性がつくと思ったのに……」

そのとき、宝箱の中から気だるげな声が響く。

「魔力回路はちゃんと機能してるよ。みぞおちの少し下に意識を集中してごらん」

「私が毎日、大量の魔力を流し込んでたんだから」

「……確かに、球体みたいなものがある」

「まったく。私のご主人なんだから、しっかりしてもらわないとね」

「親指と薬指で輪を作って、人差し指と

中指を揃えて」

「それから、スクロールに自分のサインをするんだよ」

カルディは息を呑み、集中する。

「――成功だ」

「……どうしてできるんですか?」

答えず、カルディはそのまま庭へ駆け出した。

「ここじゃダメだ。もっと広い場所……帝国に被害の出ない、東、そう、東の果てだ」

転移。

「このスクロール、私が使ったものと違いますよ」

ラナは不安げに尋ねる。

「……どんな結果が起きちゃうの」

東帝国、東の果て。

そこには、象にまたがった帝国の元大臣の姿があった。

しかも、やけに上機嫌だ。

「カルディ君。私がこの象に乗るまで、どれほど苦労したかわかるかね?」

まさかの宿敵との遭遇。

「ここで会ったが、お前の運の尽きだ」

「さあ、蹂躙し、すべてを奪おう」

見渡せば、象に乗った兵士が二十五頭。

「かのアレキサンダー大王ですら退けられた象兵だ。お前に勝ち目などない」

カルディ

「誰もいない場所で魔法実験のはずだったが」

「一度ならず二度三度大臣貴方もしつこい人だ」

魔法発動


カルディは

東の海上に立っていた。海は制止し

ウユニ塩湖の様に写った姿はデウスへと

変わっている。しずかに飛びたつ

上昇するたび身体が大きくなっていく

それと引き換えに魔力が吸い取られていく。

「魔力、かなり吸われる」宝箱のママが呟く。


上空から自分の見える位置で停止する。

コイン「上空に凄い魔力の固まりがあるよ」

カルディは目をつむっている。

帝国大臣

「目をつぶって勝負を諦めたか」

「進め叩き潰せ」

馬と同等のスピードで走れる象が加速して

カルディは未だ目をつぶっている。

上空のデウスの視線とリンクしている

象兵士がカルディに向かっているのが

見える

雷を構えて「――射出」

ズガガズガガガガ。

世界が一瞬、白一色に染まる。

クリティカル補正。

逃げ場はない。白い雷柱が象兵を一匹残らず

光に包みこんでいく

地面が弾み、爆音がして、爆風で

カルディは後方へ吹き飛ばされる。

埃を払いながら立ち上がる。

「耳が、キーンとして何も聴こえない」

ふらりと座り込む。

「敵がここにいたら、完全に詰みだ」

「次は、もっと離れた場所から撃たないと……」

そう呟いたまま、意識が遠のいていく。

目を覚ますと、荷馬車の上だった。

「……あそこに、象はいなかったかい?」

行商人は手綱を引きながら答える。

「いえ。ものすごい音がして、恐る恐る近づいたら、あんた一人が倒れてましてね」

「その先は、大きなクレーターになってましたよ」

「ありがとう。ここまででいい」

カルディはポケットから金貨を二枚取り出し、商人に渡した。

「こんな何もない場所で?」

「街まで送りましょうか?」

「ここでいい。本当にありがとう」

転移をして執務室に現れる


アキレスの呪いで強固なはずの身体は、擦り傷だらけだった。


特に足首――最も弱い部分に激痛が走る。

「まあ……どうなさったのですか?」


ラナは服を脱がせ、

メイドに指示を出しバスタブに湯を張って

もらう。

ラナはカルディに肩を貸し

カルディをお風呂につける。

「……どうしてメイドに任せないんだ」

「メイドになんて、あなたの身体を見せたくありません」

「それに一緒の時間が増えるじゃないですか」

「無理をして、心配させないでください」

そう言って、ラナはカルディの頭を抱きしめ、静かに包み込んだ。

それはかつて、警備の家に預けられていた頃、

マギーという女性に抱きしめられたときと同じ感覚だった。

カルディは、久しぶりの安らぎを覚えていた。


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